ゴーストNo.7:四神<7>聖龍ダブルヘッド・ドラゴン
コーチャンは飛行速度を落とさず、ドーム内に突っ込んだ。
変わらず熱いバトルが繰り広げられているぞ!
「どんな具合?」
「どんな具合もクソも!」
トイロがさらに巨大に變化した鬼の首に斬り掛かっているところだった。
鬼の顔は4つ。後頭部と側頭部にも顔が生えている。
「増えてる!」
「マコトさんがあちらで使った魔法のエネルギーを取り込んだようです」
「え……焼却魔法の?」
「はい。依代から遠く離れてもまだ繋がっている状態です。でも御札をすっかり燃やしていただいたので、エネルギーが増えることはありません」
「あのままにしておくと永遠に倒せないということか」
「その可能性もあります」
ユキは俺たちに防御魔法をかけながら説明した。
「大丈夫です、すぐに片付けることができるでしょう」
「何か秘策でも?」
「ダブルドラゴンによるギフトスキルが発現しました」
「おお! やったぜ!」
「ただ、ミクトさんの霊力が戻るまで少し時間がかかります」
「了解!」
「それと、さっき課長と話していたのですが、四神の方位に合わせたペアの配置でギフトスキルが発現する可能性があります」
「四神の方位?」
「はい、ドーム内の市役所を中心にした東西南北に、璞四神ペアを配する陣形です。本来の四神は青龍、白虎、朱雀、玄武となっていますからそれに倣って」
「いいな! それやってみよう」
「おーい! 今からペアごとに四神の方位に移動して東西南北の陣形を取ってくれ! 方位は東に龍子さんとミクトペア、西にとらちゃんとトイロペア、南はコーチャンと俺ペア、北は玄太さんとユキペアだ」
ユキが足元に市役所を中心とした羅針図を出した。
「了解!」
「ワカッタ」
「コー!」
鬼の顔がちょうど4つあるため、それぞれのペアと向かい合う形になる。
移動して、4つある鬼の顔は微妙に表情が違うことに気づいた。どれも怒りがベースで悲しげだったり悔しさを含んでいたり。
鬼からの攻撃を一手に引き受けていたトイロペアが最後に移動すると、頭上に東西を繋ぐ線と南北を繋ぐ線が現れた。上から見ると十字だ。
「クロスラインです! これが現れた時は、四方から同時攻撃することで攻撃力がアップします!」
としおの弾んだ声が聞こえた。これが四神配置のギフトスキルなのか。
「ターゲットを同時攻撃! いくぜ!」
一斉に鬼の首めがけて攻撃する。トイロは鬼斬刀、ミクトはホーリーランス、ユキはブリザド、俺はアイスカッターだ。
鬼斬刀とホーリーランスが鬼の顔中央を貫き、ブリザドとアイスカッターが鬼の首を凍らせて粉砕した。
「反応、薄くないか?」
「大丈夫です、効いています」
ユキの言う通り、鬼の首はじわじわと赤から青に変わり、次第に色を失って最後は無色になり消えた。
そしてハニワに戻ると半透明になりぐにゃりとし始めた。
また變化する気だ。
「ギフトスキルは連続して使えないようです」
としおの声。
「了解! 陣形、元の配置に!」
ハニワは鬼の全身に變化した。これが最終形態だろう。
顔だけの鬼は不気味なだけだったが、全身となると威圧感を感じる。
「でっけー! 筋肉すげえ」
トイロが全身を眺めている。
「ダイブツ」
「コッコー!」
鬼の手には大剣と金棒。ズシンと金棒で地面を叩きながらミクトたちの方向へ歩み寄った。ミクトの足が少し震えている。
「怯むな! まやかしだ。とどめを刺そうぜ!」
ミクトの状態が心配だがあと少しだ。
「お前が鬼なんかじゃなく、ただのハニワだってことお見通しなんだよ!」
トイロも加勢する。そうそう、強気でいこう。
「ミクトさん、頑張れ!」
あっ、たまり丸も一緒に来たんだった。
「ありがとう!」
ミクトはアクアドラゴンを召喚すると、2頭の間に立ち、新スキルとなった呪文を詠唱した。
「古より璞の誉たる四神水龍、我が友アクアドラゴン、我ら一体となりて鬼の首を殲滅する!」
詠唱を受け、左右のドラゴンがミクトと重なった。2頭と1人が一体となり、水色の双頭の龍に變化した。
ひとつの体にアクアドラゴンと水龍の頭がついている。2頭の特徴がブレンドされた体、体色はミクトの髪色と同じ水色、ドラゴンらしからぬ鳥類の羽もミクトのものだ。
ギャラリーがどよめき、その後しん、とした。
俺もしばし、その畏怖を感じる高潔な姿に心を奪われてしまった。
子供の頃繰り返し読んだ物語に出てきた異形の神のようだ。
アクアドラゴンは口から水塊をいくつも繰り出し、水龍は回転するジェット水を吹き出して鬼を攻撃。
鬼が剣を投げて反撃するが、キンと音を立てて剣は跳ね返り、回転しながら鬼の手に戻った。
その間に2頭は同時に水塊とジェット水を吐き、途中で交わった水が鋭い水柱となって鬼の額を貫いた。
さらに同時に頭を下に振って水柱を鬼の股まで移動させると、鬼を真っ二つにした。
鬼は再び色を失い消えていった。
「消失しました。祓いは同時に行われたようです」とユキ。
ダブルヘッド・ドラゴン……聖龍と呼ぶべきか。
「やっ……た!」
ちょうどドームが解除された。結構長い戦いになったな。
脱力していると、ギャラリーから声援が聞こえてきた。皆ありがとう。
手を振ると振り返してくれるの嬉しいな。ガランで魔王を倒した後、ちやほやされる期間があまりに短かったからさ。
四神はヒトガタの姿で、ギャラリーと握手をしたり写真を撮ったりし始めた。
色即是空はアイドルではなく公務員なので、これから課に戻って休憩の予定だ。としおは庁舎に異常がないか点検に行った。
公務員じゃなかったら魅惑の太もも女子が「マコトさんお疲れ様」って花とか持ってやってくるかもしれないのに。おっと欲張りは禁物だった。
「可愛い!」「こっち向いて」と黄色い声。
ミクトのこと? 違った、たまり丸か。
「『エブリニャン・マルシェ』と『焼き肉フレイム』で働いているよ。よろしく!」
あいつ戦ってないよな。と、猫のゴーストに嫉妬してどうする。
石の場所を教えてくれたのは大いに助かった。お礼しないとな。
空に光るものがあると思ったら、六波羅市長を乗せた水晶だった。下に降りてくるようだ。六波羅は闘いの様子を空から眺めていたのだろうか。
いいなあ。俺も乗ってみたい。
穴の空いた地面に水晶が入ると、六波羅だけふわりと浮いて出てきた。
水晶はまた元あった場所に収められるのだろう。封印の役目はなくなり、ただの魔力の容れ物として。
地面が整えられいくのをぼんやり見ていると、突然庁舎が現れた。屋根には六波羅が立っている。
六波羅は屋根から飛んで着地し、こちらに歩いてきた。
「お疲れ様!」
やってきたのは魅惑の白髪男子だったか。
ちょうど聞きたいことがあったんだ。
「市長は転移魔法が使えるんですね」
「ああ、使えるよ。今日は大きなものを2回も転移した」
「どこに転移させていたんですか?」
「競技場だよ。広くて平地だからね」
「突然現れた庁舎に皆さん驚いたでしょうね」
「そうだね。どうしたのか聞かれたので『こちらに転移しました』と答えたよ。市役所の場所が変わったと勘違いされたかもしれない」
「ハハ……競技場なのに」
もっと違うことが聞きたいのに、どうでもいい事しか浮かばない。
「転移魔法の使い手がこの世界にいたなんてびっくりです。しかもこんなに大きな建物を丸ごととは」
そう言うと、六波羅はまた、人懐こい笑顔で言った。
「随分と魔力が要るんだよ、転移魔法は。だからね、水晶に貯まった皆の寄付分全部使ってしまったよ」
にこにこして何を言うんだ、この人は。
としおが走ってきた。
「市長! ホントに全部使っちゃったんですか? 数年分のストックですよ?」
「うん。イザという時のね。今日の出来事こそ、イザという時じゃないかな?」
「それはそうですけど。さすがにゼロは不味いので他市に援助を申し込むことにします」
呆れた後、眉を落として笑うとしお。六波羅とは昔からの知り合いのような気がする。
「どうした、魔法使い。何か気になることでも?」
悪戯っぽく笑う六波羅。ふと思い出したことがあった。
「市長は以前、魔法をかけてくれましたよね?」
市長の眉がピクリと動いた気がした。
「それはいつ?」
「電気屋にゴーストが出た時に、俺たちとゴーストを空中に移動しませんでした?」
「ああ、あの時のことか。そうだ。丁度通りかかってね」
「やっぱり。市長の転移魔法だったんですね。助かりました」
「また偶然通りかかったら協力するよ」
「はい、お願いしますね」
六波羅はその後、誰にも声を掛けずに「じゃあ」と言って去っていった。
「お疲れ様でした。新年のご挨拶もそこそこに皆様にご協力いただく事態となりましたが、お陰様で璞市と市役所は守られました。深く感謝しております。封印が必要なゴーストはもうおりませんので、四神の皆様は今後、気楽にお出かけください。それでは皆様、寒さ厳しき折ご自愛ください」
一連の突発的業務は、としおの呪文のような挨拶で締めくくられた。
「タノシカッタ、チョットツカレタケドネ」と、玄太さん。
「レイリョクタマルマデ、カンバンニイルワ」と、龍子さん。
「アリガト、マタイッショニタタカウ」と、とらちゃん。
「コ――ッ」と、コーチャン。
四神たちと「ではね」と手を振り合って解散した。
「色即是空の皆さんも、ご活躍でしたね。さぞお疲れでしょう。今晩は皆で『焼き肉フレイム』に行きましょう」
「やった! 焼き肉」
「五千円までだっけ」
「今日の討伐で、多少報奨金が出ると思いますよ」
「それってどのぐらい?」
「一人当たりロースと上カルビにユッケ、冷麺が追加できますね」
「いいね!」
四神<8>に続きます




