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ゴーストNo.7:四神<6>鬼

「コイツ、こんなことを!」


「トイロさん、これはゴーストのつくった幻影です。不自然な要素が多々ありました」

「……え? ユキ、じゃあこの内容は嘘ってこと?」

「はい」

 

「私の知っている限り、人が鬼に食べられた事件など聞いたことはありません」

 としおが裏付けるように言った。


「じゃあこの映像は何のために?」

「これも攻撃の手段かと」


 そんなやりとりをしていると。


 ハニワ(ゴースト)がゆらりと動き、体の透明度が上がった。

 變化(へんげ)の前触れか。今のうちに叩いておくか。


「俺から行くぜ!」

 トイロが斬り込んだ。

 

「手応えがねえ!」

「じゃあ俺が」


「待ってください、星月夜さん」

 ファイヤーボールをぶつけようと思っていたら、としおに止められた。


「今の状態ではどんな攻撃もダメージを与えられません。變化を待ちましょう。それと、このゴーストは火よりも水系での攻撃が有効そうです」


 ゴーストチェッカーでそこまでわかるのか?


「アアア……」

 ハニワが声を上げた。何となく悲しみのこもった泣き声のような気がする。


「コイツさあ……可哀想だよな」

「ああ」


「最初は護り神だったんだろ。それがいつの間にか、都合よく願いを叶えてほしいヤツばかりが来るようになって、いい加減嫌になったんだな」


 トイロが言うとミクトも続いた。

「最後のアレ、鬼の首になって怖がらせてやりたいほど怒っているっていうことだよね。その気持ちを、僕らに伝えたかったんじゃないかな」


 そうか。あれは俺たちへのメッセージなのか。

 俺はハニワの顔の正面まで移動し、話し掛けた。


「聞こえるか。俺は色即是空の星月夜即真(マコト)だ。お前の気持ちは伝わった。他の皆もお前のこれまでの苦労や悲しみ、怒りについて知ったところだ。

 長い間封じられていたようだが、こうして解放されたんだ。俺たちは祓いができるから、このままお前を送ってやることができるがどうだろう?」

 

「イヤダ……ハラワレルノハ、イヤダ」


「そうか。じゃあどうしたいんだ」


「ニンゲンドモニ、シカエシ、スル。ソウシナケレバオサマラヌ」


「何だと?」


「オマエタチニハ、モットハヤクアイタカッタ。ダガタオサセテモラウ」


 そう言い終わると、ハニワは鬼の首に變化、空中に浮いた状態で俺たちを睨みつけた。

 角の生えた赤い顔、そこに並ぶパーツはつり上がった眉、大きな目玉と鼻、カッと開いた牙のある口。映像で見た通りだ。

 頭部はぐるりと火の玉が囲んでいる。それらは次第に大きな炎となり鬼に飲み込まれるように消えた。

 

「こっち見んな! おっかねえんだよ」

 叫ぶトイロ。まあ、確かに。


 味方全体に防御魔法をかけ、順番に攻撃する。

 鬼の首が俺の方に向かってきたので、弱体化魔法をかけ、アイスソードで迎え撃った。

 

 攻撃すると獣のように吠え、髪を逆立てる。

 俺、コイツ苦手だわ。

 

 数ターン終わった時。


「マコトォォ!」

 ミクトの悲痛な叫びが聞こえた。襲われてはいないようだが。どうした?


「ああああああ!」

 ミクトの叫びが続く。


「どうしたんだ、ミクト!」


「マコトが……鬼に……食べられた!」


「はあ? 食われてないが?」

「でも」

「俺ならここだ! 今やり取りしてるだろ」

「……」


「幻影を見せられているんです。解除の魔法が効きません」

 ユキが言った。


「防ぐ方法は?」

「催眠魔法の一種だと思うので、目を見ないことで防げるかもしれません」


「あっ! 今度はトイロが……ユキも。仲間を! 食べるな!!」

 鬼の前に飛び出そうとしているミクトを、蛸様がガッチリ抱えて阻止している。


「ミクト! 大丈夫だ。皆無事だ!」

「嫌だ! 嫌だああああああ!」

 涙を流しながら張り裂けんばかりに叫ぶミクト。


 ……ダメだ、俺の声が聞こえないのか。


「ミクト! 皆もだ。鬼の目を見るな!」

 

 鬼がこちらに向かって何か唱えている。今度は俺に幻影を見せたいようだが、効かないぜ?

 黒水晶、アメジスト、翡翠……俺の全身を彩るマジックジュエルが邪気を跳ね返すから。

 呪文を翻訳してやろう。


「コウゲキスルナ、ナカマヲクウゾ、コウゲキスルナ、ナカマヲクウゾ、コウゲキ……」

 

 馬鹿め。攻撃するなということは、攻撃されたら困るということだ。

 コイツは何が怖いんだ? ミクトがテイマーであることを見破っているとしたら……召喚魔法のドラゴンか。だが、今のミクトに召喚は無理だろう。


「ミクト、しばらく蛸様に任せるんだ」

 蛸様の腕の中でぐったりしているミクトに言った。


 突然、ミクトは自分の腕を噛み、蛸様の腕を振り切って前に出ると、唖然と見ている俺たちを他所に詠唱を始めた。


「出でよ! 我が友アクアドラゴン!」


「ワタシモヘンゲスルヨ!」

 

 ミクトが召喚したアクアドラゴンが姿を現すのと、蛸様が變化したのはほぼ同時だった。

 ザバッ! 音を立てて2頭の(ドラゴン)がドーム内に現れた。

「うおっ!」

 並ぶ巨大な霊獣。その迫力に思わず声が出る。

 

 アクアドラゴンは輝く水色の体。鱗はなく大きな前鰭と背鰭が特徴的だ。水龍に變化した蛸様は、濃い青色。筒型の長い体に規則的に鱗が並び、鋭い爪の手足がある。

 優美なアクアドラゴンと力強い水龍、なかなか同時にお目にはかかれない。


「ダブルドラゴンだ!」

 トイロが興奮している。

 

 アクアドラゴンは体をしならせ反動をつけると、無数の水塊を口から放った。

 鬼にぶつかった部分がジュワ! ジュワ! と音を立てている。真っ赤だった鬼の顔が次第に青くなっていく。


「アアア!」

 鬼の首がぐるぐると回転し始めた。


 続けて水龍も大きく息を吸い込んだ。勢いよく回転する水を吐いて激しく鬼の顔面を打つ。

 鬼の右角が折れたようだ。


 アクアドラゴンは2ターンで帰っていった。かなり削れたのでは……そう思ったのに、早々に鬼の角が再生した。


「エネルギー値は?」

「さっきかなり減りましたがまた増え始めています」

 

 最強の水攻撃のはずだが?


「マコトさん、ゴーストのエネルギーの元になっているものがあります。それを絶たないと終りが見えません。それは……」


「わかった」

 俺はユキの言う通り、霊視で見た「石のある場所」を探すためにコーチャンと一緒にドームから出た。


 

 商店街の入口に下りると、たまり丸が走り寄ってきた。

 

「マコトさん、頼ってくれてありがとう。その石なら知ってるよ、こっち!」


「たまり丸もコーチャンに乗せてもらって移動しようか。コーチャン、いい?」

「コッ」

 多分「いいよ」と言ったんだろう。

「俺の前に乗りな」

 たまり丸は尻尾を膨らませてコーチャンにまたがった。やる気満々で可愛いな。

 

 大通りから少しはずれた住宅街に着いた。古い建物が目立つ。近くに小さな山があり住民の散歩コースになっているようだ。その山の麓に簡素な「東屋」があり、中に人の背ほどあるくすんだ灰色の石が置かれていた。あれだ!


「すみません、今から火を使います。璞市役所には許可を取っています」

 と、その辺を歩いていた人たちに軽く説明して、石に焼却魔法をぶつけた。大抵のものは燃やせる便利な魔法だ。


「焼却範囲、貼り付いた紙! 燃えよ人の望みの苦しみよ」


 石に貼られた大量の御札や紙が燃え始めた。

 炎が貼られた紙片を一枚ずつ剥がすように消していく。その度に小さな泣き声や怒りの声が聞こえるような気がした。


「皆、欲張りだなあ……俺も人のこと言えないか。生きているうちに最大限良い思いしたいよな」

「ココッ」

 コーチャンも同意してくれた(と思う)。

 たまり丸は瞳に炎を映してしんみりと言った。

「ボクの本体はもうないけど、この世界は楽しいことがいっぱいあるから……。生きているだけで欲張りなんだボクは」

「たまり丸はよく考える良い猫だ」

 

 さて、貼り付いたものはすっかり燃えたようだから戻るか。

 磨いたようにピカピカになった石を見て達成感を感じつつ、再びコーチャンに乗って市役所跡地に向かって飛んだ。


四神<7>に続きます

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