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大掃除

*「四神」の続きではありません。4人の日常話です。

「ねえ! なんでまた、こんなに散らかっているの。ちょっと前に片付けたばかりなのに!」

 

 年末年始の連休中、いつも皆でウダウダ過ごす2階のリビングで、珍しくミクトが怒っている。


「ゴミって毎日出るんだよなあ」と言ったら余計に怒らせてしまった。

 だってそうなんだ。ゴミの大半は飲食に関するもの。ガランでは討伐隊専用の食堂があったし、あちこちでもてなしの菓子や飲み物を出してくれていたから、自分の家で飲食すること自体なかったんだ。だからちょっと菓子や飲み物を買っただけで、こんなにもゴミが出ることを知って驚いた。


「そういう話をしているんじゃなーい!」

 小柄なミクトが大きく見えるのは魔法ではなく、こちらに非があるせいだ。

 特に心当たりがあるだろうトイロは縮こまっている。ユキはポテチを箸で食べるようなやつなので、怒りの対象外だろう。


「ごめんごめん。生活魔法がちゃんと使えるのミクトだけだからつい、任せきりになっちゃって」

 トイロも便乗して頷いている。

 

「マコトもトイロも覚える気があればいつでも教えるけど? 僕だってやっと少しできるようになったばかりなんだ。わけわかんなくなって結局、魔法を使わずに掃除することも多いけど」


「すみませんでした、ミクトさん。私も手伝うようにします」

「あっ、ユキはいいんだ。問題はこの2人……」

 

「ハイッ、ごめん! ちゃんとやります、掃除」

「やるやる! うん。掃除やるよ」


「2人ともやるとは言うけど全然、具体的じゃないの笑える」

 ミクトが笑ってくれたのでホッとした。

 

「あの……提案なんですが」と、ユキ。

 ん?


「こちらでは年末に『大掃除』をする風習があるようですので、皆で一緒に掃除をしませんか?」

 ユキの提案に皆が同意した。


「それで、ゴミを片付けたり汚れた部分を拭いたりする掃除だけでなく、除霊作業も皆で行うというのはどうでしょう。この宿舎、ゴーストの溜まり場になっているので」

 

「ゴーストがそんなにいるんだ!」

 ミクトがあたりを見回した。

 

「いいけど、霊視と除霊はユキしかできないんじゃ?」

「霊視で視る世界をパソコンではなく皆さん自身と共有します。除霊は聖水スプレーを使ってはいかがでしょうか」


「了解!」

 としおから段ボールで届けられた大量の聖水スプレーを使う時が来たか。

 

「俺はこれを使う!」

 トイロは風呂場から「水鉄砲」を持ってきた。粉末聖水を溶いた水を入れるらしい。遊ぶ気満々だな。

「はいはい、どうぞ。あちこち濡らすなよ、ピンポイントで決めてくれ」

 ミクトはやや呆れ、ユキは微笑んでいる。


 

 今日は皆で掃除をすると決めた日だ。

 目を覚ますと、ゴーストが視える世界にいた。早起きのユキがもう魔法をかけたらしい。


 まず、枕元にゴースト。コインほどの大きさの黒っぽい球体が大小、一部くっつきながら動いている。布団にも出たり入ったり。

『ゴーストライブラリ』を開くと「布団にいるタイプのゴーストは、人間の匂いや体温、湿り気などを好む。このタイプの祓いと浄化は太陽に当てるのが最も効果的」とあった。


 各々、自分の布団と枕を窓の手すりに掛けて、しばらく陽に当てることにした。

 窓を開けると、部屋からぼんやりした煤のようなものが出て行くのがわかった。清浄な空気と光の効果は絶大だな!

 陽が当たった布団からは、憑いていた黒い球体のゴーストが浮き出て次々と舞い上がり、空に吸い込まれるように消えていった。

 今までこんなに多くのゴーストと一緒に寝ていたのかよ! 知らないということは目出度いな。

 

 外を見ると、同じように干されている布団がいくつか目に入った。皆、知っているんだなあ。


 生活魔法もちょっと覚えるか。掃除について。なになに……まず、不要な物を捨てる。次に、あった場所に戻す。それからゴミやホコリを取り除く。

 わかった。何事も効率だよな。


 俺は以前の住人らが残していった物も含め、不用と思われる物を集めて回った。

 大小の花器にはどんな花が飾られたのだろうか。壊れて動かない玩具はなぜとってあるのだろうか。文字盤が足りない時計はちょっと面白い。欠けた食器と黄ばんだ布類は物悲しい。


 トイロがサイズを間違えて買ってきた下着は、ミクトでも入らなかったので捨てるしかない。

 俺が買った「卵が面白い形に焼ける型」もおそらく二度と使わないだろうし、うっかり酷く焦がしてしまった鍋もどうしようもない。

 稲荷さんにもらった舞台用メイク用品なども、申し訳ないが捨てよう。

 

 弾みがつくと、捨てるか残すかの判断が速くなるな。

 物を動かした時たまに出てくるゴーストにシュッと聖水をかけながら、大掃除は進んでいった。


「おーい! 魔法大全、読むヤツいる? いないな、捨てるぞ」

「マコトさん、それはやめておきましょう」

 ユキに止められてハッとした。


「俺、今ヤバかったな」

「それ『断捨離ハイ』と言うそうです。必要な物まで捨てて後で後悔するらしいです」

「おう……そんなトラップがあったとは」



 集めた不要物を並べた。

 これらをどうする。ええと。

 

 捨てるものは「分別」しないといけないのか。え……なんて? 分別は10種類以上あるじゃないか。これは何に含まれるんだ、これとこれは?

 まるで分からない。分別魔法はないのか。ラベルを剥がす? 中身を出す? 「リサイクル?」どこへ持っていくんだ。しかも有料? …………うわあああ! こりゃ強敵だ。


「どうしたマコト! はっ、ゴーストに取り憑かれているぞ。今助けてやる」

 トイロが水鉄砲で撃って来る。


「うおおお……俺は分別さえできない無力な存在なんだ。先に行けトイロ、ガクッ」

「マコトおおお!」


 ふざけていると「いるー!」とミクトの声。

 今まで開けたことのなかったタンスを開けたら「何かいた」らしい。

 見に行くと消えてしまっていた。

 形の定まらない浮遊ゴーストが偶然留まっていたのだろう。


 細々した思念でしかないゴーストが埃を材料に具現化することも多いので、霊力を溜めて悪さができるまでに成長しないよう、埃を取り除いておくのが一番だと気付いた。

 そうか、掃除って大事なんだな。


 分別については後でとしおに聞こう。物をあった場所に戻す魔法も後で調べよう。

 引き寄せ魔法でゴミを集め、モップに絡めてゴミ箱に入れた。

 ま、こんなものか。


 それを見ていたトイロ。

「モップを使わず直接ゴミ箱に入れればいいんじゃないか?」

「あ、そうか。そういうトイロはどこを掃除したんだ」

 

「テーブルの下、カーテンの裏、天井の隅、裏庭……ごく小さいのも入れると7〜8体はやっつけたぜ!」

「掃除もしろ!」

 

 2階の掃除が終わり1階へ。ミクトとユキは風呂場と階段周りを、俺とトイロはキッチンと食堂を掃除することにした。

 

「早速いたぞ!」

 床にいたゴーストに向けてトイロが撃ったが、すばしこくて当たらなかった。黒い楕円形で長い触覚が2本。ツヤがありちょっとカッコいい。



 掃除が済んだ。宿舎内にゴーストはすっかり見られなくなった。

 その後、メシをつくったりボドゲやったりしているうちに夜になった。

 

「布団も祓ったし、ゴーストの憑きそうな場所は整えたし、スッキリしたな」

「これで落ち着いて新年が迎えられるね」

 ミクトがにっこりする。

 

「新年か、こちらでは年越しに『そば』を食べるらしいから、あそこへ行こう!」

 あそことは「地獄麺」だ。真っ赤でとんでもなく辛い「地獄そば」が人気の店で、深夜までやっている。辛味は調節できるし辛くないメニューも豊富なのがいい。


「いいね、行こう! 僕は野菜玉子麺、塩そば系もいいな」

「俺はいつもの大盛りチャーシュー辛味なし! あ、飯大盛り付で」

 

「お子様どもが。俺は地獄の釜茹で麺の特辛頼んじゃうぜ?」

「死ぬ気かマコト! 前に行った時、大辛で唇が腫れていただろう。食いきれなくてユキに任せて離脱したじゃないか」

 

「そうだったっけ? でも今回はイケる気がするんだ」

「やめとけ! ユキを巻き添えにするな。特辛なんてとんでもなく辛いの冗談じゃねえ。なあ?」

 意外とトイロって保守的なのな。戦闘スタイルは攻めまくりなのに。


「辛いのは大丈夫ですが、麺が伸びる前に言ってください」


 ううむ。唇が腫れたユキの顔を見たい気もするがやめておくか。


 

 庭に出ると茂みに光る目が見えた。

 猫だと思うがゴーストかもしれない。

 

「ひい! 寒いっ」

「吸い込む息が冷たいよ」

 

「バリア張りますか?」

「いや、いい」

 

 冷気が体を覆う。

 この突き刺さるような寒さは現実で、夢でも魔法でもない。そう感じられることが俺には嬉しかった。


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