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ゴーストNo.7:四神<1>年末パトロール

俺こと『星月夜 即真(ホシヅキヨ マコト)』は魔法使いで

戦士の『獅崎 十色(シザキ トイロ)

賢者の『慈眼 是親(ジガン ユキチカ)

テイマーの『化身 美空斗(ケシン ミクト)

と共に魔王を討伐したはずなんだが。

転移した星の「璞市役所」で現在、公務員として働いている。

 俺は迷っていた。

 猫耳をつけた「メイド」たちが「いらっしゃいませ御主人様」と迎えてくれるらしい「メイド喫茶」に入るべきか、その隣にある本物の猫耳を持っている小動物たちが「にゃーん」と迎えてくれるだろう「猫カフェ」に入るべきか。



 でるでる課は年末のゴーストパトロールを継続中。今日は市役所の東に位置する「(あらたま)商店街」に来ている。ここは神社仏閣に隣接した歴史ある商店街らしく、異国からの観光客も多いようだ。店先は赤や金に彩られた文字や飾り花などで溢れ、陽気な音楽が流れている。

 パトロールは4人各々が担当地区を歩いて、異変があれば連絡し合う手筈だ。パトロール開始から1時間、としおからは「自由に休憩をとって良い」と言われているので早速休憩することにした。


 ガランで「ノア」と呼んでいた小動物は、ここでは「猫」と言う。こちらへ転移して時々恋しくなるのは、街にいたノアたちとその温もりだ。看板を見て久しぶりに撫でてみたくなった。

 猫カフェの方にしておくか。隣の看板にある太ももは、撫でたらきっと怒られるだろうし。


「マコト、何を熱心に見ているんだ?」

 トイロが急に声を掛けてきたので跳び上がった。

 

「いや、看板を。ここは特にたくさんあるから」

「確かに」


 考えていることをトイロに知られたって別にいいのだが、咄嗟に取り繕ってしまった。仕方がない、どちらの店もまたの機会にするか。


「ショウテンガイって、美味そうなものがたくさんあるよな。マコトは何食う?」

「太もも……じゃない、鳥もも」

「それなら近くに人気の店があるらしいぜ」

「おう、後で寄ってみるか」


 別行動のはずが何となくふたりでぶらぶらすることになった。

 パトロールの名目で日用品や小物を眺めながら歩いていると、ユキの姿が見えた。手を振るとユキも手を振り返した。芳ばしい香りが漂ってくる。様々な茶の葉を取り寄せて売っている店のようだ。


 店頭にあるでかい「急須」が宙に浮き、お茶が流れている。どうなっているのかと裏側を覗いていたら、店主が俺たちに気づいてお茶を出してくれた。

 

「立体看板です。目を引くでしょう?」

「本当にお茶が出ているみたいで面白いですね」

 

 ユキは常連客に勧められたらしい茶葉を買っていた。


 3人になり、またぶらぶら歩いてどこかで買い食いでもしようかと思っていた時、指輪からミクトの声が聞こえてきた。

 

「ゴーストが! 至急来て!」



 位置情報を見ながら移動して着いたのは、タコヤキ屋の前だった。店先には大勢の人がいて皆上を向いている。視線の先に「大蛸」に抱えられたミクトがいた。


 大蛸は人の背丈の3倍ほど。丸めた足を伸ばせばもっと大きいだろう。全体的に赤紫で、丸い突起物が並んだ手だか足だか分からないものがたくさんある。そのうち2本はミクトを背後から大事そうに抱え、残りは空中でうねうねと動き泳いでいるように見えた。


 ミクトは「下ろしてよ!」と叫んでいる。危害は加えられていないようで安心した。


「ミクトを下ろせ! でないとタコヤキの具にしてやるぜ!」

 トイロが叫んで剣を出そうとした時、ユキが「ダメです」と止めた。


 何がダメなんだ?

 ユキはトイロの腕を押さえたまま続けた。

「あのゴーストからは特殊な霊力を感じます。攻撃してはいけません。高い霊格、もしかして」

 

 こちらの言っていることが分かったのか、大蛸はゆっくりと着地した。そしてミクトを解放すると、ユキの頭にそっと手を乗せて円を描くように動かした。

 これは「よしよし」か? 口らしいものをモゴモゴ動かして何か言っているようだ。


 大蛸に撫でられて髪を乱されたユキ。眼鏡を掛け直した。

「嬉しい、そうです。私たちが来るのを待っていたと言っています。それからこのゴーストは……」


 話の途中でとしおからの連絡が入った。

「煩悩通り3丁目に巨大な蟹が出現。すぐに出動してください」

 

 ちょっと距離があるな。

「蛸って飛べるんだっけ。飛行魔法をかけてみようと思うんだが」

 大蛸を見上げながら俺は言った。

 

「普通は飛ばないけど、この蛸なら飛ぶかも」とミクト。

「飛んだら面白え」とトイロ。

 ユキも「可能性はあります」と言うので「よし」と大蛸にまたがり飛行魔法を詠唱した。

 

 飛んだ。

 

 見物人たちから「おおーっ」という声が沸き上がった。撮影、録画されている。ドンドンどうぞ。できればカッコよく写してね、っと。

 

 全身が少しヌルついているが、蛸と一体化しているので振り落とされる心配はない。上下にぐるりと一回転して見せるとさらに歓声が上がった。


「先に行ってるぜ!」

 蛸は「アーケード」を抜けた後高く跳び上がり、空を泳ぐようにスーッと進んだ。良い眺めだ。

 

 

 残念、あっという間に着いてしまった。

 商店街とは違った雰囲気の通りだ。夜から開店する店が多いらしく昼間は人があまりいない。店先に置かれているのは、暗くなるとやたら光ったり動いたりする飾り物。縦に細長い建物には文字が書かれた明かりが並んでいる。

 

 蛸は俺が下りると、歩道を横向きに歩いている蟹に近づいていった。

 蟹が体の向きを変え、蛸を見る。話をしているようだ。知り合いだったのか。


 葉と土と樹脂の破片がとっ散らかった歩道。蟹が鉢植えなどその辺のものを引っ掛けて歩いたせいだろう。蛸がそれを咎めているのか、蟹の目がキョロキョロと申し訳無さそうに動いた。

 蛸は倒れた植物の鉢を起こし、散らばった土や樹脂をかき集め始めた。蟹も手伝おうとして照明のコードを切ってしまったようだ。慌てている様子が面白い。

 

 店は上下式の扉が下がっている状態で、店主の姿はない。背後で物音……トイロたちが到着したようだ。


「もうカタがついた?」

「いや、まだ何もしていない」


「この看板、蟹がいなかったけ?」

 ミクトが指差す看板を見に行った。


 店の入口上に設置された横長の看板には何の情報もない。ただの板切れだ。その下に「かに(げん)」と書かれたのが店名なんだろう。


「看板に蟹? そう言われてみると、あったような」

「あったよ! 大きな蟹が動いてたよ」

「ああ、確かにあった」

 トイロも思い出したようだ。


「どこへ行ったんだろうね」

 冗談交じりで俺が言うと

「あそこに()()()()()()のでは」と、ユキ。


 ちょっと待て。あれがこの看板にいたと言うのか。そう言えばちょうどぴったり収まるぐらいだな、はみ出ず小さすぎず。ここで巨大蟹が動いていたらきっと目を引くだろう。お客は「オッ、蟹の店があるぞ。動いていて美味そうだ、よし入ろう」と思うだろうし、蟹はきっと美味い。


「看板から抜け出したんですね」

 やはりそうなるか。

 

「ひょっとして蛸も?」

 タコヤキ屋の看板も、大きな作り物の蛸がくっついていたはずだ。

「そのようですね」

 ユキは璞商店街「たこやき天龍」を検索して画像を見せてくれた。

「同じ蛸だ!」


「で、霊視したんだろ? どうだった」

「はい、説明します。あの2体のゴーストは、霊獣です」


「えっ?」と、目を見開くミクト。

「霊獣、だあ?」と、訝しげなトイロ。


 霊獣は特別な魔力を持った位の高いゴーストだ。ミクトの召喚獣の中でも、魔力を多く消費する代わりに頼りになるタイプ。その霊獣が目の前に2体もいる理由が分からない。

 

 ユキは蛸が集めたゴミを魔法で浮かせると、近くにあったゴミ箱に移動させながら言った。

「彼らは生き物を模した看板を依り代にして、この街を護ってくれている霊獣であり護り神だと思います」


 ワシャワシャ、大蛸がまたユキの頭を撫でた。


「どうして看板なんかに入っちゃったの?」

 ミクトが蛸に近づいた。蛸は足をサッと出し、ミクトがそれに座る。


「遠くまで見渡せるし、皆が見てくれる……だそうです」

 ユキが蛸の言い分を通訳した。

 ゴーストが看板に入って年月が経ち、魔力を得て霊獣に変化したのだろう。


「蛸……蛸様と呼ぶね。じゃあどうして今は看板から出ているの?」

 蛸様を撫でるミクト。

「遊びに行きたかった。色即是空がいるので安心している……そ……うで……す」

 蛸様に抱きしめられて少し苦しげにユキが言った。

 

 どういうことだろう。俺たちがいるから安心?

 

 としおからまた連絡が入った。

「ゴーストの通報がありました。2件です。場所は璞駅の中と僥倖通り4丁目……」


「また看板かな?」

「そのようですね。おそらく璞駅内は『甘味のとら家』、僥倖通りは『とり鍋朱瑠(シュール)』付近でしょう」

 地図を見ながらユキが言った。


「何でわかるんだ? 後で説明してくれ」

「はい、二手に分かれますか?」

「そうだな」


「俺は蟹様で行くぜ!」

 トイロが蟹様に乗った。

 分かるぞ。赤くてカッコいいからな。俺もこっちに乗ろう。

 ミクトとユキは蛸様のお気に入りだろうからそのまま乗ってもらうか。


 飛行魔法を詠唱。とら家にはミクトとユキが、朱瑠には俺とトイロが向かうことになった。

 

 蟹様の上にトイロと並んで腰掛ける。蛸様と違ってヌメリはないが、ゴツゴツしていて乗り心地はイマイチだ。それでも、見下ろす景色は最高。


 

 またしてもあっという間に着いてしまった。出動命令さえなければ、しばらく空の散歩を楽しめたのに。


「二手に分かれ星月夜と獅崎は僥倖通り4丁目に到着」と報告。

 

「お疲れ様です」と、としお。

 続いて「化身と慈眼は璞駅前に到着」というミクトの声が聞こえた。


 歩道には多くの人がいるので、ゆっくりと蟹様を着地させた。

 ゴーストは……あれか! 『とり鍋朱瑠』の向かいの樹に止っている巨鳥。枝が折れそうだ。

 通行人が立ち止まっては鳥様を眺めている。それを見て鳥様がふんぞり返っているように見えるのは、ふくらんだ胸の羽のせいか。

 赤茶色の羽色、頭に紅い飾りを乗せ、鋭い眼光は黄金。がっしりとした二本の脚が巨体を支えている。

 

『朱瑠』の看板を見ると、一部だけ白い鳥型になっていた。あそこに収まっていたのだろう。


 としおに写真を送ると

「鶏ですね。璞コーチャンという品種です。コクがあって美味しい璞市の名産品です」と返信があった。

 名前があったとは。というより鳥様を食う気か、としお。

 

「コーチャン!」と呼ぶと、鳥様のコーチャンは首を傾げてこちらを見た。

「コッ」

 そして樹から下りると俺とトイロ、蟹様を一通り眺め、独特の鳴き方をした。

「コォッカコォッコォォォ!」


「ユキがいないと何言ってるかわかんねえな」

 トイロがコーチャンを見上げている。後で乗るつもりだな。


 ちょうどユキから通信があった。

「ゴースト見つかりました。こちらです」

 写真を見ると、トイロのベッドマットぐらいある魚型の菓子のようなものが浮いている。


「これ何?」

「鯛焼きです」

「菓子だろ?」

「はい。『甘味のとら家』の看板から抜け出たようです」


 蛸、蟹、鳥、と来て鯛焼きとは。


「駅の構内で飛んでいたところを、来ていただくよう話をつけました。どちらに向かえばいいですか?」

「そうだな、市役所で落ち合うか」

「了解しました」


 予想通りトイロはコーチャンに乗り、俺は再び蟹様に乗った。

 今頃ミクトたちは蛸様と鯛焼き様に乗っているんだろうと想像すると愉快だった。



 璞市役所の入口正面を避けて着地。役所を訪れた人々が振り返っていく。「年末だから賑やかね」と声を掛けてくれる人もいる。

 俺からの連絡を受けて、としおが市役所から出てきた。


「捕獲したのですか?! ゴーストを」

 

「これから説明があるんですよ」

 としおも交えて、ユキが言いかけたことを聞くことにした。

 

「こちらは四神だと思います」

「シシン?」

「はい」

「四神は重要な場所の四方にいて、それぞれの方角を護っている神的存在です。こちら四神の所在地を結んだ中央にあるのは……」

 

 ユキは空間に地図を出しスワイプして拡げると、皆に見えるように角度を調整した。

 

「璞市役所です。市役所の四方となる東西南北に『たこやき天龍』『甘味のとら家』『とり鍋朱瑠』『かに玄』があります。四神は本来、青龍、白虎、朱雀、玄武と言われる霊獣が集まったものなので、少しアレンジされているようですね」

 

「天龍とかに玄の時点で、ユキは気づいていたんだな」

「まあ、そうです」

「店名で? それとも方角でピンときた?」

「それもありますが、蛸様と蟹様から感じられる霊気が、普通のゴーストとは違うものでした」


 やはり賢者様は一味違うわ。


 地図上に四神の霊獣イメージと説明が乗る。

 ガランにも護り神はたくさんいるけれど、この世界の「方位を護る」という理屈が面白いし、霊獣もカッコいいな。


「璞市役所を護る四神がいたとは! 長年璞市に住んでいるのに気づきませんでした。どれも老舗の名店じゃないですか」

 としおは興奮したらしい。

 

「天龍のタコヤキは、外はカリカリ中はトロリでトッピングの揺れるかつおぶしがまたいいんですよね。とら家と言えば、もっちりした生地に極上のあんがたっぷり詰まった鯛焼きは一度食べたら忘れられません。朱瑠はコースの鍋料理がメインですけど、親子丼や唐揚げもあって肉のジューシーさがたまらないんですよ。かに玄の蟹は大将が目利きで仕入れているので身がしまっていてプリプリで美味しいし蟹寿司は皆に人気です」


 やめてくれ、腹が減ってくる。


「こちらの四神が、守護している看板を抜け出したというのは今回が初めてではなく、過去にも順番に一体ずつ抜け出していたとのことです。ご存知でしたでしょうか」

 ユキがとしおに聞く。「ゴゾンジ」を使われてしまった。


「そう言えば、かに玄の看板から動く蟹が見当たらなくなって、逃げたと噂されたことがありました。私は修理にでも出しているんだろうと思っていましたが、本当に逃げていたんですね。それで騒動にはなっていないのが不思議なところですが。璞市民は多少のことには驚かないので、報告には上がって来ないまでも間々あったことなのでしょう」


阿羅漢(あらかん)課長、蟹様は『逃げたのではなく遊びに行った』とおっしゃっています」

 蟹様、泡を吹きながら抗議していたのか。


「失礼しました。日頃のお護りに感謝すべきところを。いつもありがとうございます」

 としおが頭を下げた。

 愉快そうに蟹様が笑っている……多分。


「東を護るのが青龍なんだね。この四神は蛸様になっているけど?」

 ミクトの問いに、としおが答える。

「先に天龍という店名がついたのかもしれません。青龍に寄せて」

 

「青龍が蛸なのもだけど、玄武って亀なんだろ? 蟹っていうのは違いすぎないか?」

 トイロが言うと蟹様は少し泡を吹いた。


「それをいうなら鯛焼き様はどうなるんだ」

 俺が言うと、空中をゆるく漂っていた鯛焼き様が下りてきてモソモソ言い、ユキが通訳した。


「店名は『とら家』だけど、鯛焼きで有名になった店なので看板は鯛焼きです。この姿は借り物ですが、中身の心意気と魔力は本家四神のそれに劣りません」

 

 言うねえ! 熱い抱擁を交わしたいところだが、あんこがはみ出ちゃうかな。


「そうだな。蛸だったり蟹だったり、どんな姿であっても璞市役所(あそこ)を護ってきた偉い霊獣には違いないんだよな」

 腕組みをして深く頷きながらトイロが言った。蛸様もウンウンと頷いている。


 正直、寄せ集め感しかない四神で魔力もそれなりと思われたが、結構凄いやつら……いや、方々なのかもしれないと思った。


 蟹様がハサミを上げ、ユキを呼ぶと耳打ちした。

 ユキが通訳する。

「色即是空の皆さん、お会いできて嬉しいです。おいでになるのをお待ちしておりました。今回、私たちは一斉に持ち場を離れ、遊びに出掛けようと思いますので後はよろしく」


「結界がない状態で何かあれば俺たちが市役所を守る、ということだな」

「その通りです」


 蛸様が俺の頭を撫でてくれている。恥ずかしいし毛は乱れるし。笑うなユキ。


「じゃあ、好きに遊んできてください。市役所の護りは俺たちに任せて」

 頷き合った後、それぞれ好きな方向へ行こうとした四神を俺は「ちょっと待って」と引き止めた。


「そのままの姿もいいけど、ヒトガタになってみたら? 色々なことができるよ」


 四神は顔を見合わせると俺に詰め寄り、各々訴え始めた。

「わかった! 順番に聞くから……ユキお願い」


 ユキが四神の「ヒトガタになってやってみたいこと」の聞き取りをした。

 

「蛸様はカップルがする『タコヤキ、あーん』が羨ましかったので、自分もしてみたいということです」

「蟹様がしてみたいのはパチンコ、釣り、映画鑑賞だそうです」

「鯛焼き様は可愛い女の子になってチヤホヤされたいらしいです」

「コーチャンは……このままの姿で空を飛びたいそうです」


 皆それぞれだなあ。よし、後は任せろ。

 

「了解。皆さん、幻影魔法の使い方を教えますのでイメージ通りの姿になれるよう頑張ってみてください」


 さすが格が高い霊獣たち。飲み込みが早い。

 

 蛸様は長い黒髪の美女に変身した。おしとやかそうに見せたいと、ロングスカートの大人っぽい服装を選んだ。これなら歩いているだけで「あーん」し合える相手が見つかるだろう。名前は店名にちなんで「龍子さん」と俺がつけた。

「昔の任侠映画のヒロインみたいです」と、としお。

 龍子さんは「アリガト」と言ってとしおの頭を撫で、ミクトを後ろからギュッと抱き、俺の頬にチュッとした。悪くない。悪くはないが……あまり考えないようにしよう。

 

 蟹様は背の低い初老の男性に変身。目立たないほうがいいと灰色と茶の地味な服装を選んだ。ツバのある帽子をかぶってご満悦だ。人混みに紛れたら望み通り誰の記憶にも残らないだろう。

 名前は「玄太さんではどうでしょうか」という、としおの案で決まった。

 玄太さんはユキに「ツリバ、サカナノツレルトコ」と訪ね、ユキは地元の釣り情報サイトを調べながら答えていた。


 鯛焼き様は最初、幼い女の子に変身したが「幼児のひとり歩きはマズイ」ということで十代後半ぐらいの姿を採用した。鯛焼きをイメージしたという、ふわっとした明るい茶色の髪にあんこ色の瞳。鯛焼きは和菓子なので和着物を選び、その上に「割烹着」を着ているのがなお可愛い。

 名前は『とら家』にちなんで「とらちゃん」。

「トラヤデアルバイトシタイ」という希望に沿えるよう、としおが店主に連絡していた。どう説明したのかは分からない。


 コーチャンが姿を変えないのは「いかなる時も気高い鳥としての自分を変えたくはないから」だそうで。

「空を飛びたい」って、コーチャン飛べるのでは? 俺がキョトンとしていると、としおが「鶏は、高くは飛べないんですよ」と説明した。

 そうだったのか。飛行魔法で自由に飛んでもらおう。俺は魔石に魔法を閉じ込め、コーチャンの首にかけた。これで魔法をかけ直さなくても長時間飛べるだろう。


 「もうすぐお昼ですな」

 としおは真面目な顔になると「四神の皆様」と、切り出した。

 

「日頃のお護りには心から感謝しております。どうぞ、思う存分ご自由にお過ごしください。皆様不在の間、市役所及び周辺の平和は、この阿羅漢と色即是空がお護りします。ヒトガタになった皆様には悪い人間やゴーストが近づくこともありますので、十分お気をつけて。お困り事がありましたら、ご連絡ください」


「アリガトネ!」

「アイヨ」

「ソレジャイクワ」

「コッ」


 四神を見送り、としおと俺たちは昼飯を食いに「とり鍋朱瑠」に向かった。

 俺は鳥ももを食うぞ。



 市役所に異変が起きていることを知ったのは、四神が看板から抜け出してからわずか4日後だった。

「四神2」に続きます

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