ゴーストNo.1:「巨大招き猫」現る
俺こと魔法使い『星月夜 即真』
戦士の『獅崎 十色』
賢者の『慈眼 是親』
テイマーの『化身 美空斗』
は、ついこの間まで魔王と対峙していた。
だが今は、巨大な猫の人形と対峙する事態となっている。
どうしてこうなった。
・・・ ・・・
「なんだあれ」
「猫……ですかね」
情報魔法での解説によると「招き猫」と言うらしい。
対象をスキャンした全体画像を見ると、頭部に長方形の穴が空いていて、硬貨が入れられる仕様だ。
「あらたまにゃんだ!」
『でるでる課』の課長で俺たちの上司という『阿羅漢としお』が叫んだ。
猫の人形に名前がついていたとは。
「君、知らないの?! そっか転移者でしたね」
あらたまにゃんはここ「璞市」のマスコットキャラクターで、商業の街「璞市」が栄えるようにと招き猫のデザインにしたんですよ。右手を上げさせるか左手を上げさせるか迷ったらしいですけどね。あ、右手を上げているとお金を招く、左手を上げていると人を招くって言われているんです。
あのデザインは去年リニューアルした二代目あらたまにゃんで、地元銀行とタイアップして貯金箱がつくられました。私も持っています」
緊迫感は。
嬉しそうにあらたまにゃんを眺めている場合か。
幸い、あらたまにゃんの足が極端に短いので、移動速度がかなり遅いのが助かる。
「お疲れ様です!」
先に出動して非常線を張っていた女性警官が駆け寄ってきた。
「元魔法使いの星月夜 さんですね!頑張ってください」
「あ、はい」
それじゃあ、と彼女は走り去り、持ち場に帰っていった。
……
悪くない。
「元、魔法使い」と言われたのが気になるが、悪くない。
よっしゃー!やるぞ!
急に世界が輝いて見えてきた。我ながら単純だ。
「ユキ!何か視えた?」
「はい、今データをまとめています」
ユキは対ゴースト戦スキル「霊視」結果を、としおが持っていたノート型のデバイスに出力した。
俺ら4人だけなら意思の伝達にデバイスは不要だが、としお世界のややこしいしきたりや価値観に合わせて記録の必要があるとユキは考えたらしい。
ユキ、俺、ミクト、トイロ、としおの5人で画面を覗き込んだ。
ーー「たまり丸!帰ってきてーーうわあああああん」
ーー泣いている少年。慰める少年の母親。
ーー少年が飼っていた「たまり丸」という名前の猫が死んだらしい。
ーーたまり丸の体はすでになく、写真が飾ってある。
ーー目がまん丸の、可愛い黒猫だ。
ーーしばらく見ていると、画面に黒いモヤのようなものがじわりと出てきた。
ーー「あれは……たまり丸?」
ーー「ゴーストチェッカーで確認してみます」
ーーモヤを拡大して分析すると、予測される生前の姿が示された。
ーー「間違いなさそうですね」
ーーたまり丸は部屋の中を一回りすると、少年の机の上にあった猫型の置物に近づいていった。
「机にあるの、あらたまにゃんの貯金箱です!」
としおが言った。
ーーあらたまにゃんの貯金箱に、モヤとなったたまり丸が吸い込まれていく。
「憑依したな」
前の世界でもお馴染みの、ゴーストの得意技「憑依」。
この世界でもやることは同じなのか。
ーー貯金箱に憑依したたまり丸は立ち上がると、体を左右にひねって動けることを確認していた。そして、慎重に椅子の座面に下りてから床に飛び降りた。
ーーチャリンと音がし、少年が音の方を見た。
ーー「貯金箱が……動いてる……!」
ーー驚く少年に、貯金箱が言った。
ーー「マナタくん……僕だよ。あらたまにゃんの貯金箱に見えるけど、中身は猫のたまり丸だよ」
ーー貯金箱のたまり丸は、大きな丸い目をぱちくりさせた。
ーー「たまり丸?……帰ってきてくれたの? お母さんはお空に行ったって言ってたけど」
ーー「だって……マナタくんが悲しむから。ボクもまだ一緒にいたいし」
ーー「ホント? じゃあずっとここにいられるの?」
ーー「うん。ずっと一緒にいるよ」
ーー「やったあ!」
少年と「たまり丸」が仲良く過ごすスナップが続いた。
十日ぐらい過ぎたあたりで、ゴーストチェッカーが別のゴーストの存在を検知したようだ。
再生が止まった。
「これ、ゴーストなの?猫に見えるけど」
「あー……シッポが2本に分かれていますから、猫又ですね」
としおは猫に詳しいな。
「猫又がたまり丸に何か言ってますね、聞いてみましょう」
ーー「猫又パイセン、教えてほしいことがあるんですけど」
ーー「なあに、たまり丸。言ってみなさい」
ーー「体が消えかかっているんです」
ーー「それは仕方のないことよ。みんなそうやって最後は消えていくの」
ーー「ボクが消えてしまったらマナタくんが悲しみます。ずっと一緒にいるって約束もしたし……なんとかする方法はないでしょうか?」
ーー「そうね……ないわけじゃないけど。本来あなたは死んだのだから、この世にとどまっていてはいけないのよ」
ーー「猫又パイセンはいいんですか?」
ーー「ほら、私は二十年以上生きたから霊力が備わったのよ。普通の猫を超えたのよ」
ーー「ボクには無理なんでしょうか。もうちょっとだけ。ボクがいなくてもマナタくんが平気になるぐらいになったら……ボクはきっと淋しいけど、ちゃんと消えますから」
ーー「わかったわ。……私の霊力を分けてあげましょう」
ーー「あっ!……消えかかった体が元に戻った!……いったいどうしたんですか?」
ーー「この世に留まるにはエネルギーが必要なの。
人間なら何か食べることでエネルギーを得ることができるけど、あなたはもう食べられないでしょう? だから貯金箱に入っていたお金をエネルギーに変えられるようにしたのよ」
「霊力の元は猫又だったんですね」
「それがどうして今、あんなことに」
「もう少し見てみましょう」
ーーチャリンチャリン……
ーー少年が、貯金箱のたまり丸にお金を入れている。
ーー「今日、お手伝いした分なんだ」
ーー「お手伝いするとお金がもらえるの?」
ーー「そういう時もある。いつもじゃないけど」
ーー「へー……」
ーー「ところでさ、今日は友達と遊びに行くんだけど、たまり丸も来る?」
ーー「行く!」
ーー「じゃあ、ついておいでよ。迷子にならないようにね」
ーー「わかった!」
ーー少年の後を小さな猫の貯金箱、たまり丸が追いかけている。
ーー時々転んだりしながら、それでも少年の姿を見失わないように走っている。
ーー体が消えかかったと思ったら、また元に戻った。
ーー代わりに、チャリンチャリンと貯金箱の中で鳴っていた音は聞こえなくなっていた。
ーー「可愛い!たまり丸って言うの?」
ーーたまり丸は、友達や友達の姉弟たちに囲まれて嬉しそうだ。
ーーしばらくして誰かが「カードゲームやろうぜ」と言った。
ーー「やろう、やろう!」
ーー「マナタはどうする? カード一枚も持ってないよね」
ーー「買ってくる!そこにおもちゃ屋さんあるから。今日はお小遣いもらったし貯金も結構貯まったんだ」
ーー「わかった、待ってるからな!」
ーー少年がたまり丸を抱き上げて振っている。
ーー「たまり丸……音がしないけど、お金は?」
ーー「……食べちゃったんだ。お腹が減って……」
ーー「あんなにたくさん入れたのに…全部食べちゃったの?!」
ーー「ごめん」
ーー「ずっと我慢して使わなかったのに……みんなとカードゲームしたかったのに!ひどいよ……僕のお金、返して!」
ーー「返せないよ……だって食べちゃったんだもん」
ーー「なんでお金なんか食べちゃうんだよ!
ーー「お金食べないと、ボク消えちゃうんだ」
ーー「そんなのウソだ!」
ーー「ウソじゃないよ……マナタくんとずっと一緒にいるためには、お金を食べないといけないことになっちゃったんだ」
ーー「そんなの知らないよ……たまり丸なんか嫌いだ!」
ーートボトボ歩くたまり丸。座り込んでいると白髪のマダムが声をかけた。
ーー「お腹が空いているの? かわいそうに。何か食べるもの買ってきてあげましょうか」
ーー「いいえ、ボク、お金しか食べられないんです」
ーー「ええ? お金を? 小銭でいいかしら」
ーー「ありがとうございます。頭の後ろのここにお金を入れてくれますか」
ーーチャリンチャリンチャリン……チャリンチャリン……
ーーすぐさま、たまり丸に生気が戻った。
ーーツヤツヤになったたまり丸を見て、マダムが言った。
ーー「面白いわね、あなた! ちょっと待っていて……皆を呼んでくるわ」
ーーグレイヘアのマダムたちがやってきて、たまり丸を取り囲んだ。
ーー「両替してきたわよ!」
ーー「なにごと?」
ーー通りすがりの人たちも立ち止まり、たまり丸の後頭部にお金を入れていく。
「世の中、捨てたもんじゃないですね」
目頭を押さえるとしお。
そういう話じゃないだろ。
ーー皆からもらったお金を食べてどんどん大きくなっていく、たまり丸。
ーー「お金を! もっとお金をちょうだい! お腹が空いてるんだ!」
ーー恐怖を感じた人々がその場から離れはじめた。
「様子がおかしいぞ」
ーー巨大化したたまり丸が自動販売機をなぎ倒し、目から光線を出して筐体を切断、中の小銭をジャラジャラと吸い上げてさらに膨れ上がっているところで映像が止まった。
「これは、たまり丸ではないですね……別のゴーストが入り込んでいるように思います」
「この先にお金がたくさんあるような場所がなければいいけど」
「あっ!銀行があります」
「橋を渡り切った先には住宅街もあるようだ……ここで食い止めよう」
4人で暴走ゴーストとなった「たまり丸」の前に立ちはだかる。
トイロが剣での通常攻撃に出た。
キーンと金属音が響く。まったく歯が立たないようだ。
それでも何度か切りつけている。
「しまった!」
あまりの硬さに、剣を打ちつけたトイロの腕が痺れたらしい。
手が緩み、剣が宙を舞った。
すると。ゴーストの口がカッと空き、ペロリと出てきた舌がトイロの剣を捕まえて飲み込んでしまった。
地響きを立て、ゴーストはさらに巨大化した。電線に触れ、火花が散っている。
エネルギー数値は無限大。
トイロの剣が持つエネルギーを取り込んだからなのだろう。
「に゛やーーっ!!」と雄たけびが上がった。
「暴走したゴーストと無限大のエネルギー値の組み合わせか……マズイな」
こんな布の服で、前の世界のように戦えるのだろうか。
どうしたらいいんだ。
「モードS準備!」
としおが叫んだ。
なんだそれ?
「慈眼さん! ゴーストの動きを止めてください。化身さん! モードS発動後はバリアを張って戦いの空間を確保してください!」
としおがふたりに指示した。
「はい」
「わかりました!」
「星月夜さんは弱体化魔法の準備をしてください!」
「お? わかった」
「モードS発動!」
としおが叫ぶと、4人に変化が起こった。
まず最初に変化したのは、トイロ。
髪は赤く染まり豊かさを増し、所々光を受けてオレンジ色に反射ている。
体は筋肉量の増加で逞しさを増し、顔つきも精悍になった。
重厚な鎧、小手・ブーツが出現して体を包んでいく。手には大振りの剣と盾。
次に俺。
暗黒色の空に星を散らしたような模様の魔法ローブが体を覆い、魔法ロッドが装備される。
露出した肌の所々にマジック・タトゥーが浮かび上がり、怪しく発光している。
手指には呪文を封じ込めた宝石類が煌めいた。どこからどう見ても大魔法使い様だぜ。
ミクトもテイマーに変化した。
面積の少ない白銀の薄い鎧と透明のボディスーツの組み合わせが、勇ましいんだか艶めかしいんだか。
下半身もドラゴンの鱗に引っかからない仕様の短パンとブーツだ。
性別不詳の可愛い顔して太ももチラつかせるなってんの!
最後にユキ。
髪色は白髪に変化。気高く白く輝く賢者のローブがゆらめきながら出現し、華奢で長身な体をすっかり覆う。
生地の表面に浮かび上がる文様は、縫い込まれた高度な呪文だという。
特大の宝石付のロッドと魔導書が現れ、神々しい賢者の姿に変化した。
それぞれの変化に、見物客から「おお」という声が上がった。口笛を吹く者もいる。
黄色い声も多少聞こえる。
トイロ・ミクトはわかるが……ユキへの声援は一段高い気がするんだよな。まあいい。
前の世界で魔王討伐した時の状態がなぜ、としおの一言で再現できるのかわからないが、これで思う存分やれるぜ!
ミクトが「ドラゴンの護り」を詠唱すると、あたりが夕陽を浴びたように明るくなり、遠くから金色のドラゴンが風に乗ってやってきた。
ドラゴンは、動物が懐くようにミクトの体に頭を擦り付けるとすぐに離れ、俺達の周りをぐるりと一周した。
すると、ゴーストと俺達の周りに透明なドーム型のバリアが張られ、シャボン玉の中にいるような塩梅になった。
ゴースト「たまり丸」は魔法で動きが止められたままだ。
俺が弱体化してトイロが攻撃、を繰り返した。
「そろそろだな」
トイロが槍で一点を突くと、ゴーストの体にわずかにヒビが入った。
いいぞ! その調子だ。
さらにトイロが攻撃し、ヒビの数は増えていった。
もう少し。
その時。
「やめて! たまり丸を攻撃しないで」
少年がこちらに向かって走ってくる。
ゴーストは急にガクガクと揺れたかと思うと、縮んで半分ほどの背丈になった。
もう脅威は感じない。俺達はモードSからスーツ姿に戻っていた。
「うわ……奇跡が起きたぜ。見た? 見た? ねえ……あの子の一言でゴーストが小さくなっちゃったよ!
愛というか……温かい気持ちがゴーストを鎮めたんだろうな!」
トイロがはしゃいでいる。
「いえ、動きを封じる魔法が解けたので傷を回復したことにより、多くのエネルギーが消費されたのでしょう。その結果、縮小化せざるを得なかったのだと考えられます」
ユキがトイロの口を封じた。
「たまり丸……ごめんね」
ガクッ……ガクッ……ガガガ……ガ……
再びゴーストが揺れ、また一段、一段と小さくなり、最終的には少年と同じぐらいの背丈になった。
「オナカ……スイタ……」
ゴーストがつぶやいた。
「たまり丸!お腹すいたんだね。ちょっと待ってて」
「マナタクン……」
「これ、前にお婆ちゃんたちにもらったお年玉と、お母さんに頼んでもらってきた来月分のお小遣い。全部食べていいよ」
「まずいですね、また巨大化するんじゃ……」
少年とたまり丸の間に割って入ろうとするとしおを、トイロが止めた。
「おっさん、まあ見てろよ」
190センチ近い長身で筋肉隆々のトイロに腕を掴まれて振り払える奴などいない。
「……」
少年の差し出したお金を見つめ、ゴーストは言った。
「マナタくんのお金が……なくなっちゃう」
「いいんだ。たまり丸の方がお金より大事だから。
僕はお腹が空いたらご飯が食べられるけど、今のたまり丸はお金しか食べられないんだもん。
お金は、たまり丸にとってはご飯なんだよね。
それで、僕はたまり丸の飼い主だからご飯をあげるんだ。
それが責任を持って飼うっていうことなんだ」
グーッ……
「食べてよ」
「うん」
ゴーストはお金を吸い込むと満足そうにキラキラ光りだした。
光の中から、黒い猫が現れた。
「たまり丸!」
少年はたまり丸を抱き上げると泣き出した。
「いっぱい撫でてあげよう」
ミクトが言うと少年はは頷いて、たまり丸を抱えながら撫でた。
たくさん撫でてもらったたまり丸。
最後ににゃーと鳴いて消えてしまった。
「たまり丸、いなくなっちゃった」
少年の頭を撫でながら俺はちょっと格好つけて言った。
「たまり丸は、マナタくんがたくさん可愛がってくれたから、満足して天に昇ったんだよ」
「うん」
ジャラジャラと音がしたかと思うと、道路に大量の硬貨が現れた。
たまり丸が憑代としていた招き猫型の貯金箱もあった。
拾い上げると修復しきれなかったのか小さいヒビが残っていた。
俺は貯金箱をマナタくんに渡し、さよならを言った。
としおが両手にバケツを持って走ってきた。
「これはいったん、市の拾得物として収集しますね」
みんなでお金をかき集めバケツに入れた。
「ユキはああ言ったけどさあ、やっぱ愛のチカラじゃないか?」
小銭を拾い集めながら、トイロが嬉しそうにユキに絡んでいる。
「そうでしょうか。偶然だと思いますが」
「お前はどうして!どうしていつも!もっとさあ……この朴念仁が!」
「トイロさん、大事なこと忘れてませんか?」
「大事なこと?……何だ?」
「フッ……」
珍しい。ユキが笑っている。
「何だよ、教えろよ」
「朴念仁なのでお答えできません」
「ユキ様、賢者様、ユキチカ大明神、賢さ一等賞! 天才ユキちゃん!
……なーっ! 教えてくれよ。俺、何を忘れてるの?」
「フフッ」
「なあ、ミクト。俺らアレを延々聞きながら帰らないといけないのか」
「そうみたいですね」
「皆さん、シートベルトをしてくださいね」
としお……
「モードS」発動ってなんだったの。どういうシステム? お前、何者?
色々と聞きたいことがあったが、心地よい揺れのせいかどうでもよくなってきた。
うとうとしかけた時にトイロが叫んだ。
「あーーーっ!思い出した!俺の剣!!!」
ーーーー
あれから七日ほど経った。
今日の案件は「排水溝に詰まったゴーストを駆除する」だ。
俺達チーム「色即是空」は、ゴムの長靴にゴム手袋、マスクという格好で、手にはバケツやら排水溝用のパイプブラシやらを手にしている。
捕まえた下級ゴーストは、またどこかに挟まったり詰まったりしがちなので、清め塩を振り浄化魔法を唱えた上で放す。一旦捕まえたゴーストをそのまま放すのは法律違反でもあるらしい。
まあ、さわりだけだけど一応マニュアルというものを読んだわけよ。ゴースト・バスターの仕事を理解するために。
この世のしくみも禄にわかっていないけど、生きていくためには仕事をしなければならないらしいのでね。
前の世界の雑で適当な部分は楽だったなあと感じる。生き延びる力があればの話だけど。
「みなさーん!」
振り返ると、猫の着ぐるみがこちらに向かって歩いてきていた。
極端に短い足には既視感がある。
着ぐるみは「これどうぞ」とティッシュを渡してきた。
・・・皆さまのスーパー『エブリニャン・マルシェ』・・・
「君、たまり丸?」
ミクトが聞くと、着ぐるみが「うん」と答えた。
よくわかったな。
「プリンもらった。みんなで食べて」
配られるプリン。
中身が猫のゴーストの着ぐるみにプリンもらった、俺。
たまり丸の話によると、これまで食べたお金を働いて返すことにしたという。
たまり丸は、猫又からわけてもらった霊力が強すぎたのか、すんなり天に昇ることができなかったようで、辺りをフラフラしていたらしい。
そして、スーパーの倉庫で偶然着ぐるみを見つけ、ちょっと憑依ってみたところスーパーの人に見つかり、アルバイトと勘違いされてそのまま風船配りをさせられた。
「スーパーでの風船配り、みんなに喜んでもらえて楽しかった。
それなのにお金までもらえた。
お金を見て、ボクはみんなのお金を食べてしまったことを思い出したんだ。
みんなにお金を返さないと、って思った」
スーパーの人に正体を明かして働きたいことを伝えたら、正式に雇ってもらえることになったらしい。
「よく雇ってもらえたね」
たった七日の付け焼き刃でおぼえたこの世界の常識。それによるとゴーストが働くのは無理だろうと思った。
「としおさんに、将来ゴーストがヒト社会での労働力となりうるかのケーススタディとなると、説得しました」
いつの間に。この世界でもデキるヤツとは……賢者様め。
「仕事は楽しい?」
「うん」
着ぐるみがコクコクとうなづく。可愛い。
ミクトと並んでいると、なおのこと可愛い。
「たまり丸はプリン食べないの?」
「プリンは食べられない」
「何を食べているの?」
「リサイクル課からもらう銅やアルミ」
「?」
「硬貨の原料ですね」
なるほどーー!
「で、俺の剣は?」
トイロがたまり丸を軽く睨んだ。
「なんのこと?」
たまり丸、先日の件は途中から記憶がないらしい。
「だーかーらー! お前が飲み込んだ俺の剣!」
「まあまあ」
「まあまあ」
ユキと俺、珍しく気が合った。
「就労祝いにあげたってことにしたら」
ここぞとばかりに勝手なことを言ってやる。トイロにはいつも勝手なことを言われっ放しだから。
「そうだな。わかった、やるよ!」
ピカピカのトイロの笑顔に、たまり丸はとまどっている。
「??うん? ありがとうトイロさん」
「神か」
そうだった。トイロはこういうヤツだった。
あれを手に入れるのにどれだけ辛酸を舐めたか憶えてないの?!
選ばれた戦士だけが持てる最強の剣だぜ?
俺の心を見透かしたようにユキが言った。
「トイロさんの剣は消耗品扱いと思い、としおさんに補充をお願いしました。
同じものは無理かもしれませんが血税とやらでなんとかするというお返事でした」
プッ。
笑った。
なんか笑ってしまった。
「こいつも神だな」
「マコト、たまり丸に攻撃魔法を教えてあげてよ。
イザという時身を守れるから」
「お願いします、マコトさん」
「任せとけ!」
あいつもこいつも。
神は天にマシマシ、すべて世はなんてことはなし。