見た目は裏切りそうな人
『WORLD of DEAD』。
それがこのゲームの名前。主人公を男女で選べ、数多のキャラとの友情、好感度を育みミッションや本編ストーリー上の選択肢などで様々なルートが分岐するゲーム。
主人公達は装具を使い特撮ヒーローのような姿で戦うというちょっと変わったバトルも売りだ。
大まかな流れとしては『彼岸の園』で秘匿研究されていた主人公が佐条美波に保護され、その高い装具への適性から墓守として働くことになる、というもの。
そして数々の出会いをして、政府の闇を知っていく、といったストーリーだ。選択次第では『彼岸の園』につくルートもあるし、政府に隷属させられる未来もありうる。まあ良識的な政治家の護衛になってこれから世直ししよう、で終わるエンドもあるが。
本当に色んなエンドがあって………その七割がバッドだろうとグッドだろうと死に別れるという異質なゲームだが。
赤騎士ことホムラもその一人。バッドエンドだと周囲を巻き込んで死ぬし、グッドエンドだと笑顔で焼け死ぬ。グッドエンドのいくつかのパターンのうち生存ルートが一つしかないのは赤騎士ホムラと白騎士ヒカリの二人だけ。
まあ全員もれなく死に別れするグッドエンドは用意されてるんだけどね。
キャラデザも良く、変身した姿は特撮好きにもSF好きにもたまらない。服を着た変身ヒーローってかっこいいよね。
俺も良くコスプレしたものだ。
因みに成人向けバージョンでは死者が蘇る世界だからか、グロシーンも目茶苦茶あった。
そう、グロいことになる脅威もあっちこっちにある世界なんだよなぁここ。
「まあそれでも、未来を知ってりゃ墓守にならない選択肢はないんだが」
冷蔵庫から取り出した缶ビールのステイオンタブを開ける。カシュッと炭酸が抜け泡があふれる。
それを飲みながら窓を開ける。
「今日も未来は真っ暗、お空も真っ暗〜♪」
かつての世界とは比べ物にならない程発達した太陽光発電は、光を歪め一筋の光として発電施設に到達させる。結果として地球温暖化は止まり莫大な電力も得たが、24時間空は暗い。
必要な場所に豊富な日光を送り室内でも作物、家畜を育てているが、裏を返せば人類は電力会社とそれを支配する政府の膝下でしか自給自足ができないということ。
まあ人類の生存領域からある程度離れれば日光が地上に降り注ぐが、それはつまりアンデッドや旧時代の自立兵器が蠢く致死の領域で過ごすということ。
そんな事出来るのはホムラやヒカリみたいな規格外を含めても100にも届かないだろう。まあ浅層ならその限りではないが……日光が届く場所ともなればそこそこの深層だ。
「ほんと、厄介な世界に産まれ直したもんだ」
墓守の党首は今の世を憂いている。だが解決策を用意できない。当時まるで自分が神とでも言わんばかりに振る舞っていた行政に入り込み、結果として国民の生活は多少マシになったが………。
それでも道端に寝転ぶ姿もよく見かける。冥府領域の直ぐ側で暮らす者達もいる。俺の生まれもその辺り………人らしい暮らしをするには、墓守になるのが一番確実。
人格者かつ実力者で言うなら『私は全ての人間に裏切られるまで、全ての人間を憎まないよ』という名言を残した【魔女】天眼綾華とかだけど、あの人も生存ルート3つだけだし『村』は高確率で滅ぶしなぁ。
主人公が闇落ちしない限りは一番生存率が高いのは墓守なんだよなぁ。とはいえ、原作ではアンデッドロードの一柱を打ち倒して終わり。設定上もっとやばいのがいるんだよなぁ。
超死星とか………。
「はあ、憂鬱。そろそろ出勤しねえと…………」
墓守の隊服を着込み、装具を腕に装着する。
主人公が保護されたなら、教育期間もあるし原作開始まで後2年の筈。それまでに可能なら中級の装具が欲しいな。生き残る確率も増えるってもんだ………。
墓守達の本拠「葬儀社」。41世紀の技術で作られた64階建ての高層ビル。
その63階の、一角に存在する集会室。
「佐々木隼人一等兵士、到着しました」
扉が開く。中には、幹部達。
全員が全員、変身した俺を変身するまでもなくぶっ殺せる化け物達だ。
「良く来てくれた。それじゃあ、報告してもらおうか」
眼鏡をかけた優男。墓守党党首にして、墓守総長の五条宗一郎。
善人の類ではあるが、ご先祖様の初代と同じく犠牲を許容するタイプ。『裏切りそうな見た目で、結局主人公の信頼と自分の心しか裏切らなかった男』と呼ばれている。
一般人を一人でも多く、確実に守れる手段を選ぶ。そして、墓守になった時点でこの人にとってはただの駒であり、命の価値はないと判断している。いや、そう割り切り人々を救う道を選んでいると言うべきか。
女主人公を選択して深い関係になってもルート次第では見捨ててくるんだよなぁこの人。
『君達は力なき人々を救うための大切な道具だ』という作中の台詞通り道具扱いして、大切な道具だから名前を覚えている。そんな男だ。
「そうか、ありがとう」
竜に『彼岸の園』教徒のアンデッド、そして赤騎士の情報を聞き、礼を言う宗一郎総長。ふぅ、と息を吐く。
「辛い目に合わせてしまったね。これは、僕達のミスだ」
「いえ。情報が誤りであったとしても、対処できなかった我々の責任です」
事前調査を行ったのは政府のドローン。ここに届けられる間にすり替えられたのか、政府役人がそもそも嵌めたのか、ドローン操縦者が信者だったのか………どれだろうと対処できない時点で責任があるだろう。相手が思ったより強かったから負けました、なんて言い訳は最悪がすぎる。
というか戦う組織が自分達の技術盗んで使用してる輩に助けられたとか普通に考えて良くないよなぁ。それが理由でぶっ殺す、なんてことにはならないと信じたい。
「よおは盗人に助けられましたってかあ? けっ、そうなるぐらいならアンデッドに挑んで死ねよ」
と、柄の悪い白髪の男が吐き捨てる。アンデッドとなった弟を自らの手で殺した過去を持ち、『彼岸の園』絶対殺すマンとなった藤堂蛍葬儀官。階級は大隊長。
男主人公で好感度を上げると頼れる兄貴分になるんだよな。因みに女主人公ではツンデレ。
ネームドの幹部だけあって滅茶苦茶強い。変身しなくても装具の異能を使う後天的異能者で、ルート選択ミスるとぶっ殺される。白騎士と同じく光を操る装具使いだ。ただし適性は白騎士より高いから光学迷彩とか色々出来る。
「駄目だよ、蛍。命は大切にしなくては」
「………………」
総長と同じく戦うことを選んだ時点で命に価値はないと考えている蛍葬儀官。けど総長の本質はそうでもしないと目的を成せぬという諦念で、蛍葬儀官は普通に戦うことを選んだなら死ぬまで戦えやクソがを地で行く人だ。
とはいえ総長を尊敬しているから黙り込む。
「生き残ってくれたことを、まずは褒めよう。赤騎士には感謝しなくては」
「五条総長……奴は犯罪者です」
と、美波葬儀官が困ったように言う。何なら何度か助けられているが、軍隊組織が奪われた銃で助けられました、なんて都合好く認めるなんてことはできないのだ。
「そうだね。でも、赤騎士も白騎士も………あれを使用できる高い適正値を持っている。それに、墓守にも一般人にも死者はいない」
どちらも試験段階で調整前の装具だからな。
量産品の【PLAIN】ですら最低限の素質が必要。それ以上は変身を繰り返し適合率を上げたうえで自分にあったのを選び、そこから出力を上げていくって感じだ。
元々適正がある者をスカウトするのはもちろん、普通の適正者でも適性率を上げずに使えば死ぬような装備を平然と使う二人の騎士は、そりゃ引き入れたいだろう。
まあ原作側も二人が墓守につけばその時代の問題は解決する、と言い切る最強キャラ達だしな。
宗一郎総長は二人があの装具を盗んだ理由も二人の正体も知ってるし、なるべく近くで見張りたいのだろう。
「報告ありがとう、隼人。昨日の疲れもあるだろう、今日は身体検査して、良く休みなさい」
「はい」
労いの言葉を貰い、部屋の外に出る。
装具の使用により人間を辞めてる奴等の威圧感に息が詰まるかと思ったわ。
そのままエレベーターに乗り階を移動する。
薬の匂いがする、医療エリア。そのまま進もうとすると………
「あ、やっと来たぁ。遅いよ、先輩」
「………………」
声をかけられ振り返ると、青色の髪をした背の低い少女と口元に傷のある187センチの腕を組んだ男が立っていた。
教習生時代の同期と、研修遠征の際俺が付き添いとしてついたチームにいた後輩だ。どっちもネームド。
適性率
ゲーム設定におけるレベルとスキルツリーを意味する。高くなればなるほどステイタスが上がり使用できる装具も強力になっていく。
後天的異能者
生まれながらではなく後天的に異能を使えるようになった存在。もちろん先天的異能者も存在する。