「一兆円のお賽銭?」
ひさびさの八木裕民の冒険シリーズ
おーぷん2chに立てた彡(゜)(゜)「一兆円のお賽銭?」というSSスレを手直ししたものです、元スレで本人の確認は可能です
パラレルワールドですので八木の設定は毎回変わります
登場人物
八木 裕民 (やぎ ゆうみん)・・・学生、高校生ぐらい
原 (はら) ・・・学生、八木の友人
八木「正月は楽しいなあ、おせちは美味しいしタコあげも楽しいし」
八木「初詣は近所の神社や! 穴場やからすいてるで」
八木「おや、なんかおっさんの先客がいるな」
八木「なんや……!? 札束を賽銭箱に詰め込んでるで」
※
八木「お、おっさん、何してんねん」
???「ちょ、ちょっと手伝ってくれるか」
八木「このおっさん頭にパトランプ乗せとる……レベルの高い変態や……」
???「変態と違う、ワイは宇宙人や」
八木「宇宙人な上に変態や……」
※
???「まず名乗っとこうか、ワイはパトランっちゅうもんや」
八木「パトランプ乗せてるしな」
パトラン「これは気にせんでええ。今ちょっとな、この賽銭箱に一兆円入れんとあかんねん」
八木「話が1ミリも見えてけえへん……」
パトラン「最初から説明するわ」
パトラン「ワイは会社を持っとってな、つい最近、大きな商売をすることになった」
八木「ほーん、社長なんか」
※
パトラン「そんで願をかけたんや。商売がうまく行ったら一兆円を納めさせていただきますってな」
八木「一兆円は納めすぎやろ、いくら儲かったんや」
パトラン「50京円ぐらいかな。一兆円の50万倍や」
八木「さすが宇宙人やな、ケタが違う」
パトラン「ほんで一兆円を納めようと思ったんやが、全然入らへん」
八木「一兆円持ってきてるんか?」
パトラン「そこに軽トラ三台ぐらいあるやろ、あれに積んでる」
八木「軽トラにそんな大役させるなや」
※
パトラン「どないしたらええかな、なんとか入れる方法ないか」
八木「うーん、じゃあちょっと知り合い呼ぶわ」
八木「あと初詣の客が来たらあれやから、人払いしたほうがええで」
パトラン「せやな、工事中の札とか持ってくるわ」
八木「ちょっと迷惑やけど、しゃあないな」
※
原「急に呼び出してどうしたの、録画してたゆく年くる年見てたのに」
八木「録画してまで見るもんかな……?」
原「あれ好きなんだよ」
八木「こいつはワイの友人や」
八木「頭のいいやつで、もうなんかホンマに頭がいい」
八木「どのぐらい頭がいいのかというと、マネーアイドルエクスチェンジャーで50連鎖を決めたほどで」
原「誰に言ってるの?」
※
八木「このおっさんがな、そこの賽銭箱に一兆円入れたい言うてんねん」
パトラン「頼むわ、大事な願掛けなんや」
原「い、一兆円……いや、入るわけないよ」
八木「なんで分かるんや?」
原「ええとね、そこの賽銭箱、目算だけど容積が120×60×60とするよ」
原「容積は432リットルになる」
原「そして一億円の体積というのは12.2リットルほどなので、35億円ぐらいで満杯になる」
パトラン「35億」
八木「そんなもんなんか、意外と入らへんな」
パトラン「あの賽銭箱にいくら入ると思う?」
パトラン「…………」
パトラン「35億……ふふっ」
八木「何わろてんねん!!!」
※
原「賽銭箱のほうを大きめに見積もったから、実際はもっと少ないと思う」
八木「35億円も入れたら十分やろ、この小さな神社には多すぎるぐらいや」
パトラン「そうはいかんねん」
パトラン「ワイらにとって願掛けは重大なことなんや、一度口に出した以上、絶対に守らなあかん」
八木「困ったなあ」
※
原「まあいくらでも方法はあるよ」
八木「ほんまか」
原「その一兆円を銀行に預けて小切手を切ればいい、約束手形でもいいし」
八木「一兆円の小切手とか漫画でも見いへんな」
パトラン「いや、あかん」
原「? どうしてですか?」
※
パトラン「願掛けの言葉を正確に言うとこうや」
パトラン「『神様、どうか次の商売うまく行かせてください、うまく行ったらこの賽銭箱に一兆円の札束を納めさせていただきます』」
パトラン「これをちゃんと守らんといかん、札束じゃないとあかんのや」
八木「めんどくさいなあ、別にワイらが儲かるわけでもないし……」
パトラン「一兆円入ったら一万円やる」
八木「全身全霊で手伝わせていただきます!」
原「庶民の鑑」
※
八木「うーん、しかしどうやったらええんや……」
八木「せや! 一万円より高額なお札を使ったらええんや!」
原「どうかなあ……」
原「世界でもっとも高額なお札は1千スイスフランで、11万円ぐらい」
原「これでもとても入らないし、そんなに大量のスイスフランを調達できない」
八木「500ユーロ札とかなかったか?」
原「2019年で生産終了してるし、調達が難しいのは同じだと思う」
八木「10万円金貨とかもあったやろ、あれでどうや」
原「札束じゃないとダメらしいからなあ」
原「その縛りがなければ、宝石って手段もあったけど」
八木「おぼっちゃまくんの100億円札とかどうやろ」
原「なっつかし……いやダメでしょ」
パトラン「それはワイも考えたけど手に入らんかった」
八木「考えたんかい」
※
八木「というかこの賽銭箱が小さすぎるんやろ、でかいやつに変えたらええわ」
原「そうだね、『この賽銭箱に』って言葉が願掛けにあるけど」
原「神社側が勝手にやる分には願掛けに違反してるとは思えない」
パトラン「せやな、それやったら」
ファンファンファン
パトラン「あ、ダメや」
八木「? どうしたんや、パトランプ回ってるで」
パトラン「今の会話を聞いてもうたからや」
パトラン「ワイの都合で賽銭箱を変える形になるからな、ダメやと感じてしもうたんや」
八木「というかそのパトランプ何なんや?」
パトラン「ワイの星ではみんなつけてる、脳波測定器みたいなもんや」
※
パトラン「ワイの星は神さんを大事にしてるからな、何かにつけて願掛けを行う」
パトラン「たとえ違う星の神さんでも願掛けは絶対なんや」
パトラン「神さんにウソついてると感じるとパトランプが回るねん」
八木「別にそんなん無視したら……」
パトラン「このファンファンがいつまでも鳴ってると、願掛け警察が来て頭パーンされるねん」
原「……こ、怖い」
八木「願掛け警察ってマナーにうるさい人みたいやな……」
※
パトラン「たのむわ、何か他の方法考えてくれ」
原「賽銭箱自体を変えたり、改造するのがダメとなると……」
八木「お札をプレスしたら小さくならんか?」
原「できるとしても、元の体積の半分にもならないと思う」
八木「切ったらどうやろ、紐みたいにして、一部分でも入ってたらオーケーって感じに」
原「一億枚もひも状に切るの大変だなあ……」
ファンファンファン
パトラン「ダメや、全部きっちり入らんとあかん」
※
原「分割で入れたらどうかな、神主さん呼んで回収してってもらえば」
八木「せやな、というか後ろの板外してダダ漏れ状態にすれば……」
ファンファンファン
パトラン「それだと一兆円入ってると言えんやろ」
八木「そのパトランプしんどくならへん……?」
パトラン「生まれた時からかぶっとるから気にならん」
※
グオン グオン グオン
八木「ほげ!? なんや!? でっかいUFOが!」
原「す、すごい、夜みたいに暗くなった」
パトラン「うわ、あかん、願掛け警察や、このままやと頭パーンされる」
パトラン「な、なんとかしてくれ」
原「う、うーん……物理的に入るわけがないし、容器を変えるのもダメ……」
原「願掛けの表現が『現金』なら手形も含まれるんだけどなあ……」
八木「『札束』やからなあ」
八木「……ん?」
八木「せや! お札を燃やしたらええねん!」
原「え?」
※
パトラン「燃やすのはダメやろ、灰になったらそれは札束とちゃうで」
原「元のお札の3分の2まで残ってれば交換してもらえるけど……」
八木「そうやない、商売で成功した分のお金を燃やすんや」
パトラン「は!?」
八木「それやったら商売に成功したことにならへん、賽銭を納めんでもええんや」
八木「……ほら、それやとパトランプ回らへんで」
※
パトラン「せ、せやけど、そんな大量の現金あるわけないやろ」
原「? 僕そのあたり聞いてないんだけど、どういうことなの」
八木「このおっさん50京円ほど儲かったらしいんや、だから一兆円なんてはした金なんやな」
原「……50京円?」
原「…………」
原「そうか、あるよ、札束でお賽銭を納める方法が」
パトラン「おお、ほんまか、はよ教えてくれ」
※
原「教えてもいいんですけど、声に出してこう言ってくれます?」
原「『神様、私はできる限り地球に迷惑をかけません、会社の社員にも徹底させます』って」
パトラン「うぐっ……」
八木「???」
ゴウン ゴウン
原「願掛け警察が来てますよ、さあ早く」
パトラン「……わ、わかった」
パトラン「神様、私はできる限り……」
※
パトラン「えー、地球の皆さんこんにちは」
パトラン「このたび、我が社は地球を征服したんですけど……」
パトラン「特に何もするつもりないです。ただちょっと新紙幣を発行しますので……」
パトラン「これです。100億円札……まあ100枚しか発行しないんですけどね……」
※
八木「すごいなあ、突然の全世界生中継か」
八木「さっきまで会ってたおっさんなのに不思議なもんやで」
原「アメリカのある学者が、『地球の値段』を算出したことがあったんだ」
原「それが3000兆ポンド、約50京円だね」
原「実際には地球の金額なんて決められないから、たとえ話だとは思うけど」
原「あの人の言う商売の成功って、つまり地球を手に入れたってことだったんだ」
※
八木「地球なんて手に入るもんなんか?」
原「誰が売ったのかは分からないけど、あの人たちなりのルールで手に入れたんだろうね」
原「地球の支配者になれば、紙幣ぐらい自由に発行できる」
原「あの人がそれを思いつかなくてラッキーだったよ」
八木「せやな、助かったわ」
八木「……」
八木「でも、そこまで悪い人でもなかったかなあ、願掛けには誠実やったし」
原「……そうだね、勝手に地球を売り渡してしまう誰かよりは」
原「もしかしたら、支配者として優秀だったかも」
八木「せやなあ……」
八木「でも頭にパトランプ乗るのはないな」
原「それは本当にそう」
(おしまい)