87勇者レオン穢れた聖剣を抜く
王宮の自室に帰ってきたレオンは、自室に戻るなり椅子やテーブルを床に叩きつけた。
「おのれぇ!!!」
レオンは自室へ帰り謹慎することが許された。
だが、その怒りを発散させるこに余念がない。
しかし、こんなことで収まる筈もなかった。
その時レオンの部屋のドアをノックする者が現れた。
「誰だ?」
「私です。レオン様」
それは煉獄魔導士アンネだった。
「入るがいいさ」
レオンが入室の許可を与えるとアンネはおずおずと入って来た。
「一体何のようだ?」
不思議な話だ。
王位継承権を失ったレオンには価値はない。
明日からこれまでの取り巻きは手のひらを返したように消えるだろうと思っていた。
「わ、私、申し訳ございません。せめてレオン様を慰めたくて……」
もっともらしいが、もちろん裏がある。
だが、冷静さを失ったレオンにはそれがわからない。
そしていつものように振る舞う。
「そうか、それはいい心掛けだ。ならすぐにショーツを下ろしてケツ向けろ」
酷いいいようだが大人しく従うアンネ。
「レ、レオン様、あん! あの聖剣の力を手に入れて下さい。レオン様が最強の真の勇者だとわかれば誰もがひれふすでしょう。あん!」
「なるほどな。確かにな……わかった、これは褒美だ」
「ああん!」
どこが褒美なのかさっぱりわからないが、レオンは怒りをアンネを散々犯すことで紛らわせる。
「こうなったら、伝説の聖剣を……」
レオンはそう決意する。
ぐったりしているアンネを部屋に残して部屋を出た。
そのままレオンは王宮の地下の入り口へと向かった。
もちろん、地下へに入り口には監視の騎士がいた。
「で、殿下!? 何故こんなところに――」
監視の騎士がレオンが王族でも簡単には入れない地下へ向かっていることに気が付き。
殺された。
レオンの手には血のついた短剣が握りしめられていた。
密かに地下の通路を進んでいくと、大きな扉に行きついた。
扉を開けると、部屋の中央に祭壇があり、そこには一本の剣が突き刺さっていた。
「……せ、聖剣!!」
それは王家が代々受け継いできた【真の勇者の聖剣】であった。
その存在は王家の人間にしか知らされておらず、王室の人間であってもむやみに触れることは許されていない。
初代国王にして勇者エルファシルがかの邪神の一部を討った剣とされている。
絶大な力を持つこの剣も、邪神の血で呪われている。故に何人たりとも触れてはならない。
しかし、その漆黒の聖剣をレオンは――引き抜いてしまった。
剣を手に掴んだ途端――
レオンは全身に力がみなぎるのを感じた。
「……ふふッ ふふっふ!!!」
思わずこぼれる笑い声。
レオンは圧倒的な力を得たことを感じた。
「これで僕は元の一番に返り咲ける……」
それが邪神の一部を封印していた聖剣だとも知らずに。
そしてその目はみるみると金色に。人外のモノへと変わって行った。
☆☆☆
俺はリーゼ達と王宮で国王から謝罪を受けていた。
しかし突然。
ががーん。
外から大きな音が聞こえた。
また、とんでもない魔物の襲来か?
最近とんでもない化け物が出ることに慣れてしまった俺は普通にそう思ってしまった。
騎士達が騒ぎ始める。
「報告します!!」
そして偵察に行った騎士が報告したのは信じられないことだった。
「レオン王子が王都で多くの市民を殺害し、民の家などを破壊しております」
「なんじゃと?」
ドドーン
再び聞こえる轟音。そして、陛下もみな俺の方を見ていた。
「陛下、討伐のご指示を!」
「うむ」
陛下の顔には決意が。それは親としてではなく、国の主としての決意が現れていた。
クリス、アリー、リーゼの4人で街へ飛び出す。
すると。
火の海と化した街が見えた。
そして、爆心地に向かうと,爆炎と粉塵が舞い落ちる中に。
「はははははは! アル! そんなところにいたのか!!」
漆黒の剣を携えて、レオンが俺を待っていた。
「お前、その剣、一体どうしたんだ……?」
俺は思わず聞いた。それほど、その剣は異質だった。
立ち上る禍々しい魔力の奔流、心の底から沸き起こる恐怖。
それが全て、レオンの持つ漆黒の剣からあふれ出ていた。
「……ぼ、僕は。ふふっふ、強いんだよ……そしてようやく悟ったんだよ。この僕が世界の中心であり、秩序であると。おろかな王も民も罰が必要だろう?」
相変わらず自らが世界の中心だと信じて疑わない。
この男は罰を受けても何一つ変わらないのか。いや、むしろより酷くなっている。
王への怒りはともかく、何故民を巻き込む?
片手に剣を携えたまま手を広げて、大げさな演技で語り続けるレオン。
「さぁ教えてやろう。自分勝手な誤った判断で、いたずらに国を乱した愚か者たちの末路をな!!」
レオンが剣を掲げ、魔力を高めた――その時。
「レオン王子、あなたを討伐します。国王から既に王命を拝命しています」
「小癪なジジイめ。お前を殺した後、首を刎ねてやろう」
「アル、気をつけて、あの剣……」
「アル君」
「ご主人様」
クリス、アリー、リーゼが俺を気遣う。それだけ、あの剣がただモノではないことを理解しているのだろう。
「任せてくれ。……あの剣の禍々しい瘴気。ただの剣じゃない。おそらく邪神がらみ。いずれ邪神とは対立する。それにレオンにはわからせる必要がある」
コクリと頷くクリス、アリーとリーゼ。
「さあ、アルよ、死の覚悟はできたか?」
相変わらず自身の優位性を信じて疑らないレオン。威圧的で、高圧的。
この男にはわからせるしかない。もう、この男は最強ではない。そして、強いからと言って何もかもが許される訳でも、何もかも自分が正しいということにはならない。
何も迷わず、疑わず――何一つ考えることなく、ただ信じて疑らない自身だけの正義。
正義は力ではないのだ。正義を貫くために力が必要なだけだ。
この男は根本をはき違えている。
この男の根拠のない正義漢、根拠のない自信。
全て壊す。
「――ああ、できたが」
レオンの問いへの答え。やはりレオンは誤って解釈している。
歪んだ笑顔を見せるレオン。俺を屈服したと信じて疑らない表情。
だから、俺はこう続けた。
「お前をみじめに倒す覚悟がな!」
こうして、遂に堕ちた最強の勇者との戦いが、始まった。
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