78晩餐会でアホな貴族を救う
「それで、僕がはっきり言って何だと言うのだ? それと君。名は? 爵位は?」
王族主催のパーティである。彼がいるのは不思議でも何でもない。しかし、パーティの始まりの際の国王陛下の祝辞で、第一王子レオンは残念ながら不在。急遽魔物討伐に向かったと聞いた。だからこの愚かな貴族も安心して、第一王子への暴言など吐いたのだろう。
もっとも、不在でも一歩間違えれば第一王子の敵と取られかねない。
どんな事情があるのか、突然パーティーの会場に姿を現した第一王子レオン。
彼は最初俺を睨んで歩いていたが、声を発すると、例の伯爵に視線を変えた。
「はっ、はい! アタナス・フーシェと申します! 伯爵の地位を賜っております」
「そうなんですか。で、あなたは今、何と言ったのかな?」
まずい。この王子、確実にこの伯爵を害するつもりだ。言葉は丁寧だけど、声が冷たい、その顔は穏やかに見えるが、目が恐ろしく冷たい。心中、激怒しており、この伯爵への処罰を検討しているとしか思えない。
「もう一度聞きたいな。君は僕のことを何と言ったのかな?」
「ひぃッ」
「まさかとは思うけど、僕がこの新参者の貴族の末席のアル君。いや、彼を馬鹿にしている訳じゃないよ。ただ、実績を考えて欲しいな。それでも。この僕がこの勇者パーティで落ちこぼれだったこの男に負けると? 僕が劣っていると? そう言ったのか?」
「め、めめめめ滅相もございません!」
顔色は悪くなり、冷や汗をだらだらと流し、首を激しくふり、狼狽する伯爵。
「へえ? この後に及んでシラを切るんだ。わかったそれはまあ良い。では、僕が周りが見えていないって、何? 僕が間違いを犯したとでも言うの?」
「い、いえいえ、アル殿の戦果! 私はそこにまいってしまったのです。それだけです。決して、レオン殿下が思慮に乏しいなど!」
「僕は思慮に乏しいだね?」
「い、いえ、私ごときからすれば、計り知れないこと! どうか、どうかご容赦をッ!!」
「まったく小賢しい。この男は価値があるどころか、害のある魔族かも知れぬ存在。まあ、僕と違い君たち凡人には大局的に見る事などできないんだね。それを正しい道へ導いてあげるのが僕の役目だね」
今、第一王子レオンは俺のことを魔族かもしれないと言った。師匠の顔が脳裏に浮かぶ。
師匠は英雄だったにもかかわらず、魔族と一方的に断定され、迫害された。
あの終末の化け物を倒した功績も人の利害によっては害になる。
この伯爵が言っていたレオンの思慮が浅いと言うことは明白だ。有名な話だ。ただそれをはっきり指摘することがはばかれる身分なんだ。
それに、俺のごっつぁんゴールと違い、殿下は堅実に災害級の魔物討伐で功績を挙げている。
さすがに許すと思う。こんな小物を咎めるなど器が小さいにもほどがある。
許しを期待して伯爵が恐縮していた顔を上げる。
「で、では……!」
「しかし!」
てっきり許しの言葉があると思った直後、レオンの放った言葉は冷たく冷酷な韻を含んでいた。
「君は過ちを犯した。目先のことに惑わされ、僕がこのアルという男より下だと言った!」
「ご、誤解でございます! 殿下が誰かの下などと言うはずなどございません!」
「いや言おうとした。言ったのだ。僕が下だと! 完璧な僕が下だと! 君は絶えず僕のことを馬鹿にしてたんだね?」
既に被害妄想である。この貴族は確かにレオンは俺よりはっきり言って……とは言ったが、そこから先は言ってない。レオン自身がそう言っている。しかし、直後に言ったと断言し、更に話を身勝手に解釈する。
この愚かな伯爵は別にレオンのことを馬鹿になどしてはいないだろう。それなら、そもそも発言に気を付けるだろう。単にバカなのだ、この伯爵は。
「で、殿下! 誤解です、誤解なのです、どうかお慈悲を──」
「追って沙汰を下す。連れて行──あ?」
王子は最後まで言えなかった。何故なら、俺が手に入れたスキルの中の『膝カックン』を使って、王子の膝をカックンしたからである。
王子は突然姿勢を崩し、倒れそうになる。
「殿下! 大丈夫ですか?」
「な、何が? 一体?」
俺は白々しくレオンのそばにより、気遣うフリをした。
犯人、俺なんだが。
「殿下、お疲れなのではないですか? 魔物討伐を早々に済ませて、わざわざ俺達のために来て頂いたと思われます。臣下として、感動致しました」
「お、お前があのアルか?」
「はっ! 終末の化け物に止めを刺すことが出来ました。仲間の努力あってのことですが、殿下が勇者パーティ時代に見守って頂けたおかげです! それにいざとなったら、殿下が駆けつけて助けて頂けると解っていたので、思い切って戦うことが出来ました。全ては殿下の掌の上でのことと解っておりました」
「へえ、君は中々わかってるね」
俺は心にもないことを連発したが、これも、この哀れな伯爵のためと割り切った。
「は! 殿下の勇者の力に比べたら。俺の魔法など児戯です。俺なんて魔物10000匹を一瞬で粉砕する位の力しかなく。殿下なら、きっと、魔物100000匹丸ごと消し去ってしまわれるのでしょう」
「魔物10000匹を?」
「は、殿下に比べたらまったくの未熟者。仲間の冒険者達の頑張りに女神様が答えてくれたのです。俺の聖剣の力が無自覚に発動して魔物を蹴散らすことができました。でも、あれはみんなのおかげなんです」
俺は殿下に必死に自分の功績がみんなの頑張りの上にあって、たまたま目立っただけなことを強調した。
無用な争いは避けるべきだ。
それに、実力を過大に評価されるのもなんだと思う。
「見上げたヤツだね。そこまで謙虚とはね?」
「ありがたきお言葉です。今日はお招きありがとうございます」
俺は腰を折り曲げ貴族の礼で王子へ敬意を表わした。もちろん、心にもない。
「そうか、お前があのアルなのか……」
さすがに落ちこぼれとは言わなかったが、顔色には言外に、そう思っていると見てとれる。
「わかった。君に免じてその愚かな伯爵の罪は見逃してあげる。だけど、以後気をつけてね」
気をつけろといい、王子が視線を向けたのは俺の方にだった。
この王子、俺の方に悪意を抱いてない?
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