76 晩餐会を前に
国王陛下はダンジョンの街のスタンビードや終末の化け物討伐の功労者として俺達のためにパーティーを主催してくれた。
いや、心苦しい。
あれはみんなのおかげで、凄い偶然が重なったり、運よくクリティカルヒット出して、運のいいごっつぁんゴールを決めただけなのに。
それに俺のこと快く思わない者もいるみたいだ。アリーから聞いたのだが、真の勇者に最も近いと言われる第一王子レオンは俺の存在は疎ましく思っているらしい。
「晩餐会用の服なんて、初めて着たな……」
慣れない豪奢な服を纏って居心地が悪い。
俺は勇者パーティメンバーなら当然経験している筈の社交界へ初めて顔を出す。
何故かクリスの顔の眉間の皺が急激に増える、アリーとリーゼの眉間も険しい。
なんでだ?
よくわからん。
「アル、パーティには綺麗どころの御令嬢がわんさかとやってくるわ。だから、わかってるわよね?」
「何が?」
不思議な質問である。見目良い貴族の御令嬢がたくさん来るのである。
これはもう、可愛い女の子、それも出来れば胸が大きい子と親睦を深めるチャンスだ。
それ以外の何をわかる必要がある?
「その顔はやっぱり貴族の御令嬢と親睦を深める気ね?」
「いや、普通、男の子は好みの女の子に興味もつだろ?」
クリスから謎の黒い瘴気が立ち登る。
「アルが揉むべきはFカップの私の胸だけよ! 他の娘のはダメ!」
「ていうか、なんでクリスは俺の性癖知ってるの?」
結構謎だ。
「アル君、うふふ……そんなの簡単なことだよ」
涼やかな声と共にアリーが話しかけてくる。
いつもと雰囲気が違う、まるで王女様だ。
「幼馴染の女の子は盗聴器を仕掛けたり、魔法ビデオを仕込んで24時間監視するのが普通」
「それ普通? 普通に犯罪じゃないの?」
「何を言ってるのアル君は。幼馴染なんだよ。私はフィン君のオカズのタイトル全部記憶してるよ」
俺は軽く狼狽えた。
いや、犯罪をそんな簡単に当たり前のこととか言われると引く。
それに俺の性癖がバレてる。
「まあ……アルのオカズはFカップ女子高生モノばかりだからね」
「ク、クリス! 止めてよ!」
幼馴染でも知られたくないよね? 俺のプライバシーは? 人権は?
「いくらなんでもご主人様のこと24時間の監視とか酷いのです」
「そんなことよりアルは私の胸ばっかり見て、私の胸にしか興味ないんでしょ? 」
俺は焦った。そんな……俺がクリスの胸にしか興味がないなんて……なんでバレた?
「ち、違う。俺はクリスと一緒に育って、毎日プロレスして、思い出が忘れられなくて。勇者パーティでもクリスだけが俺の心の支えだった。クリスのこと大好きだよ」
これは本当だ。俺はクリスがいなかったら、前向きに生きられなかっただろう。
今のクリスを見ていると胸にばかり注意を惹きつけられるけど。
「じゃあ、リーゼはどうなのです? ご主人様はリーゼの気持ち知っているのです。それなのに、返品だとか言って、そのくせ私の胸ばっかり見てるのです!」
げっ! バレてたの?
実はリーゼの胸は推定Fなのだ。
俺好みの容姿のアリー。
俺好みの胸のクリス。
容姿も胸も俺好みのリーゼ。
え?
ならリーゼ一択だろって?
馬鹿言うな!
コイツ、内面最悪だぞ!
しょちゅう俺のことくさすし。
しかし、リーゼの誤解は解いておかないと。
「そ、そんなことないよ。俺は最初、性のはけ口としてリーゼを買ったけど、魅了の魔法が解けてそんな気持ちは無くなったよ。それに今のリーゼは大好きだよ。だから大切にしたいと思う……Fカップだし」
これも偽りのない気持ち。
ちょっと、最後に本音がダダ漏れだったような気がするが。
「じゃあ、アル君は私のことどう思ってるの? 私、Cカップだよ?」
アリーが聞いて来る。
もちろんアリーのことも嫌いじゃない。
あれ?
いつの間にか俺、アリーとリーゼのこと大切な仲間と思うようになってたな。
前なら一発ヤッて逃げようとか思ってたけど、今はそんな酷いこと出来ないし、一緒にいたいと思う。
「ア、アリー。胸とかじゃなくて、俺、アリーのこと好きだよ。一緒にいたい思うよ」
しまった。
つい、アリーに本音が出た。
今すぐ結婚しようとか言われたらどうしよう?
「アールー!」
「ご主人様!」
ヤバい、クリスとリーゼの目が怪しく赤に光っている。
「もう、胸だけじゃなくて、片っぱしから誰でもいいんじゃねえか―!!」
ぼくっ!
俺はクリスに見事なアッパーカットをくらってのけぞる。
そして。
ごぼっ!
続けてリーゼの腹への重いボディーブロー。
ガブッ!?
口から血が! 内臓をやられた。
そして、最後にアリーがとどめのアッパーカット、身体強化(大)で!
な、なんで?
なんでアリーまで殴るの?
「アリー? なんで? 俺、君への本当の思い言ったのになんで?」
「アル君は馬鹿かな? ついさっきリーゼちゃんへの想いを言ったばかりだよね? その口も乾かないうちに好きとか言われても、いまいちだよ」
「そうよ。それにアルは忘れてるんじゃないの? 私の目の前で他の子好きとか……命知らずね」
「ひ、ひぃ」
俺は思わず悲鳴が出た。
ごめんなさい。
忘れてたでち。
俺の彼女はクリスだった。
不誠実だった。
俺はクリスとアリーとリーゼに散々グーで殴り回された。
最後にクリスが治癒魔法をかけてくれたが……俺、クリスに監視されていたことを知り、愕然とするが、パーティに向かう頃には仲直りした。
「……そんなことより、アル?」
「何なの、クリス?」
何故かクリスがモジモジとして、恥ずかしそうに俺に何かいいたげだ。
なんだろう? と考える。そして、改めてクリスを見る。
そこには可憐な女の子がいた。少し、頬を赤らませて、恥ずかしそうにして。
クリスは今日のパーティのために、かなり時間をかけて着飾ってきた。
俺でもわかる。
クリスは着飾った自分を褒めて欲しいんだろう。
まあ、実際、めちゃくちゃ可愛いのだが。
「……ク、クリス、その……よく似合ってるよ、そのドレス。か、可愛いよ」
「……ア、アル」
自分で言って、思わず赤面してしまう。ちらりと見ると、クリスも顔が真っ赤だ。
「ぷぅぅぅぅぅぅ。アル君!」
「ご主人様は女心がわかっていないのです」
俺はアリーとリーゼのことも褒めちぎった。
けど、効果薄いみたい。
やだ、俺、なんか涙が出てきた。
だって男の子だもん。
俺はパーティ会場にクリス、アリー、リーゼの3人をエスコートした。
「あれが英雄のアル殿か? フツメンにしか見えんが?」
「エスコートしているのが噂の美少女達か? 素晴らしい、本人はともかくなんという美しさか!!」
なんで俺だけこんなに酷い扱いなの?
英雄はフツメンだとなれないという法律でもあるの?
クリスやみんなが綺麗なのは同意するけど……
俺にはもったいないことはわかるけど……
時々全員返品したい衝動に駆られる。
だが、俺達はまさか記念パーティで一波乱あるものと夢にも思っていなかった。
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