73勇者エルヴィン死刑になる
「貴様には呆れてものが言えん! 貴様は死刑だ!」
「そ、そんな、ば、ば……馬鹿な、俺が、死刑!!」
ここは王国王宮、謁見の間。国王マンフレート・フォン・アルデンヌは怒りに満ちて、勇者エルヴィンに死刑を冷たく宣告していた。
人類の希望であったアル擁する勇者パーティではあったが、この勇者は何とパーティの要であるアルを殺害せんとした事実。あまつさえ魅了の魔法で聖女ナディヤや煉獄魔導士アンネと爛れた関係を持った。
いや、二人だけではない。至る所から彼の犠牲者がわんさかと出てきた。
特に犬耳族の被害は甚大で、国王自らおもむき陳謝せねばならないだろう。
それだけではない、ダンジョンの街で自身の仲間である聖女ナディヤの命と引き換えに魔物の餌として、その間に自分達だけスタンビードから逃げた。およそ勇者とは程遠いクズ。
「エルヴィン、我が国に貴様のようなクズの勇者は必要ない、断じてない!」
「た、大変申し訳ありません!! こ、国王陛下! し、しかし、な、な、なんとか死刑だけは再考ください! 俺は心を入れ替えて国の為に戦います!!」
勇者エルヴィンは近衛騎士団に捕まり第一王子からの報告、聖女ナディヤや剣聖クリスの勇者パーティ脱退の嘆願書とその理由。更に調査が行われて詳細が知られてしまっており、処分を受ける。
つまり、死刑だ。勇者の死刑などもちろん、前代未聞の事だ。
「お、お願いします! 本当に心を入れ替えます! 本当なんです!」
必死のエルヴィンは土下座で嘆願するが、国王陛下はあまりの事に聞く耳を持たない。
「目ざわりだ! 直ちに連行しろ!顔を見るだけで腹立たしい!」
「こ、こ、こっ こくおぉうへ……い……か、お、お、おゆゆるし……を……!!!!!」
「黙れ! この卑怯者!!」
騎士の一人がそう一言怒鳴った。エルヴィンは彼に見覚えがあった。C級ダンジョン攻略の際、使い捨てと適当に扱った騎士だ。
「あ、あなたは王子レオン様の騎士、お願いだ! 陛下にとりなしてくれ、頼む、昔のよしみじゃないかぁ?」
エルヴィンは自分のした事を深く考えていない。彼は騎士達を虫けらのように扱ったのだ。自分のした事を考えれば、このような恥知らずな懇願が出る筈もないだろう。
「貴様! 貴様のおかげで何人の騎士が亡くなったと思うのだ? よく、そのような恥知らずなことを!!」
「エルヴィンよ。その騎士から貴様が騎士団をどのように扱ったのかよくわかる事ができた。全く、卑怯が服を着ているような男だな」
「お、俺は勇者です。俺がいなくなったら、我が国はどうやって魔王と戦うのですか? 陛下、俺に今一度、チャンスをください。必ず魔王を蹴散らします!!」
エルヴィンは勇者である自分には利用価値があると心から信じていた。だからこそ、多少の罪なぞ、大した問題ではないし、大事の前の小事であるとさえ考えていた。つまり、アルや騎士達の命なぞ、小事であり、大した問題ではないと考えていた。そして、勇者の自分の価値を再度理解すれば、陛下の考えが変わると本気で思っていた。
「我が国には英雄アル君がおる。貴様は不要だ」
「なっ!? そんなバカな! アルは勇者ではないではないですか?」
必死になおも陛下に縋るエルヴィン、しかし、陛下から冷たい事実を突きつけられる。
「アル君は真の勇者と見た。先日猫耳族の救援にて聖伝にある終末の化け物を滅した。アル君がいれば我が国も安泰、いや人族の希望が甦ったのだ」
「し、しかし、俺だって勇者ではないですか? 人族の為には勇者がいた方が!」
エルヴィンは知らない事だが、事の経緯が詳細にわかったのはナディヤの脱退届けからエルヴィンの魅了疑惑を捨ておけず、調査を開始し、これまでの悪行が発覚した。
彼の被害者は多数に及ぶ、それだけではない。
犬耳族の新族長からやはり魅了疑惑を指摘され、近衛騎士団に確認させた。
そして、まさしくエルヴィンが魅了の魔法を使う現場を取り押さえた。
友好民族である犬耳族に被害を与えるなぞ、まさに国の恥なのだ。国王にとって、この一件は国の威信をかけた問題なのだ。エルヴィンに寛大な処遇などあり得ない。
「して、刑の執行はいつが適切じゃ?」
「恐れながら国王陛下」
陛下は官吏の意見に耳を傾けた。
エルヴィンは一縷の望みをかけて官吏を見た。
官吏が俺の命の嘆願をしてくれるかもしれない。
どう考えたらそうなるのかは謎だ。
「国王陛下の犬耳族への訪問は来週でございます。そのために明日にでも出発する必要がございます。結論をいいますと明日の朝までに執行しては如何かと?」
「なるほど、良い考えだ!! 犬耳族の族長にも我が国の誠意を示せる」
はたりと陛下は膝を叩く、陛下の気持ちが固まったのは明らかだ。
エルヴィンへ死刑は決まった
彼のした事を考えれば妥当な処罰だ。
もう、死刑になるしか道がないと悟ったエルヴィンは声を震わせ、泣き叫ぶ。
「お、お許しください、し、死刑だけは、死刑だけは!!!!」
しかし、裁定は下り、エルヴィンの死刑が確定される。
人の命を軽く見、自身を最上の存在と考えていたエルヴィンは涙を流して床をのた打ち回る。その姿は、人を見下し上位存在であることを傲慢に誇示していた男とは思えないものだ。
他者を駒としてしか考えず、嘲笑い、他者の大切な人を害してきたエルヴィン。仲間を無駄死にされてきた騎士やあるいはアルがここにいたなら、その不様な姿を笑う資格があったろう。だが、彼らはやはりそんなことはしないのだろう。実際この場にいる騎士も彼を嘲笑うような事はしない。こんなクズのことなど記憶に留めるのも煩わしいのだ。
「や、止めてくれぇ!!!!!!!!!!!!」
そして、連行される彼の言葉に耳を傾ける者はただの一人もいなかった。
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