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70ルナの最後

元族長ルナside




「お前のおかげでアナが死んでしまった!」


「エルザを返して!」


石つぶてが飛んでくる。


私の頭に石があたり血が出る。


それでも誰も止めない。


当たり前だろう。


これから私は処刑されるのだから。


私の罪状は全て里の者に知られている。


人攫いの主犯が私だと知れ渡り、被害者の親や親類が私を罵倒し、石つぶてを投げる。


これで良いのだ。


処刑に里を引き回すなどという前例はない。


だが、私はあえてそうするよう判断した。


族長としての最後の判断。


単に私が処刑されても、被害者の心は晴れないだろう。


いや、永遠に晴れることはないのだ。


世の中には取り返しがつかないことがある。


例え、攫われた娘が帰って来たとしても、多分、彼女らはすっかり変わり果てているだろう。


彼女達の使い道は人族の慰みもの。


自身が娼婦だったから良くわかる。


恨み、辛み、理不尽さ。


その負の感情は本人しかわからない。


ならば、私にできるせめてもの贖罪は?


私は自身を里で引き回し、公開処刑とすることにした。


猫耳族の極刑の中にこの制度があることを知っているものなどいないだろう。


族長になるため、成り上がるため必死に勉強したことが少しは役にたった。


惨めに引き回され、皆の前で処刑されれば、皆の気持ちも少しは晴れるだろう。


私にできることはこれ位しかない。


どうやっても取り返しのつかない罪なのだ。


私は引き回されながら自分の過去を思い出していた。


私の母は娼婦だった。


私の父は誰だか分からないそうだ。


1日に何人も客を取り、いくら気をつけていても子供はできてしまう。


「まったく! あなたさえいなければ!」


いつも母になじられて暴力を受ける。


そして、毎日のように酒場に飲みに行く。


愚かな母はせっかく自分の身体で稼いだ金を飲んでしまう。


そして、大抵里の若い男と夜を共にして朝帰りだ。


母は自分が結婚できないのは私のせいだと言うが、半分事実で半分は違う。


男は女を値踏みする。


母は綺麗な女だったが、股が緩い女だった。


当然女としての価値は低い。


娼婦でも結婚したい男もいるかもしれない。


まともな女なら。


だが、母はダメ女だった。


そして、私もまた娼婦になるのだろうと子供の頃から悟っていた。


私は子供の頃から馬鹿にされ、無視されて虐められた。


だから学校にも行っていない。


私にできる仕事?


娼婦以外ないだろう?


しかし、流石に自分があんなに早く娼婦になるとは思わなかった。


あの日、同じ年齢のリリーと言う女の子が誕生日のお祝いをしてもらえると嬉しそうに話していた。


私は里の唯一の宿に向かう途でそれを聞いた。


羨ましかった。


恨めしかった。


何故なら、私もあの日が誕生日だからだ。


だが、リリーと違い、私には誕生日のお祝いなんてない。


代わりにあったものは。


……初めての客を取る。


母からお前も稼げと言われた。


まさかこんな歳で娼婦となるとは思っていなかったが、ただ、思ったより早いだけだ。


私は反対もせず、里の宿で初めて会う何処の誰とも知らない男になすがままにされた。


乱暴に扱われ、尻を何度もぶたれた。


止めてというと、かえって力強くぶたれた。


そして、私の心は壊れた。


母を恨み、リリーを恨み。


そしてその時、邪神から声をかけられた。


邪神はあることを条件に私に永遠の命を約束した。


私の成長は自分の好きなところで止まる。


娼婦にとって若さは武器だ。


母の母、祖母は餓死で死んだ。


祖母は運よく性病になることもなく、生き残ることができた。


だが、歳を取り、容貌が衰えて祖母は客が取れなくなった。


それを母は捨てた。


数ヶ月後祖母が死んでいるのが発見された。


母はゲラゲラと笑っていた。


自分も同じ道を歩むとか思わないのだろうか?


そしてその母も性病に犯されてあっさり死んだ。


だが、私が生活に困ることはなかった。


既に娼婦として稼げていたからだ。


客は里の男、ハリーが紹介してくれる。


対価は自分の身体だ。


金を払うより楽だ。


そして、私は稼いだ金で本を買った。


本屋のジャックは私が本を買うと聞いて驚く一方、安く売ってくれた。


その時は馬鹿な男と思っていたが、いい人だったと今更理解した。


そして勉強をした。


私は成り上がることしか頭になかった。


原動力は妬み、嫉み。


見返してやる。


そんな中で気がついたことがある。


私が誰の子かわからない?


いや、私にはわかった。


私の父はおそらくハリーだ。


ハリーは私と同じ灰色の髪と灰色の瞳を持つ猫耳族。


そして、母は人族の血が強く、猫耳や尻尾が小さい。


だが、私は母より耳も尻尾も大きい。


父は猫耳族。


そして、里で灰色の髪を持つのはハリーと私だけ。


私は畜生なのだ。


☆☆☆


そして数年が過ぎ、私は娼婦を止めた。


娼婦は短時間でかなり稼げる。


十分な金を貯めた私は商売を始め、里を潤わせた。


商人として成功して、ある日私に里の者に認めらる事件があった。


年寄り会にふらりと訪れて、こう進言した。


「リリーとアイラの両親が死んだと聞きました。貧しい者を保護する制度を設けてください。私のような最低な人間を生み出さないでください」


そう言ってまとまった金も差し出した。


当時の族長は大きく目を見開き、私を見て。


「美しいものは……ど……。いや、良い考えだ」


無論、打算だ。


族長に好意を持ってもらうこと。


そしてもう一つの狙い。


リリーとアイラに待っているのは娼婦となるしかないだろう。


それでは将来計画している猫耳族の人身売買の価値が下がる。


実際、この里は私が事業を成功させるまで、娼婦である私の恩恵にずいぶんとあずかっていた。大した特産品もなく、僅かにある貴重な珍しい品も猫耳族はその価値を知らなかった。


だから、猫耳族の娼婦を抱くためにこの里を訪れる人族は貴重だったのだ。


猫耳族の女こそが最高の特産品だったのだ。


リリーとアイラはずいぶんと私に感謝した。


そして、アイラは勉学に励み、リリーは武芸に秀でた。


アイラあたりはかなりの金で売れるな。


当時そう思った。


私が勉強してわかったのは、知的な女を好む男が多いということだ。


人は死ぬ前に走馬灯のように人生を振り返ると言うが、私は既にそれを見た。


死ぬのは怖い。


膝がガクガクと震える。


だが、私のために何人も死んだのだ。


だから。


男に斬首台に乱暴に押さえつけられて、首に枷をされる。


途中で、リリーとアイラを見た。


彼女達は泣いていた。


リリーとアイラはずいぶんと私に懐いていたからな。


売り飛ばそうと考えていたのにな。


でも、私の為に泣いてくれるのは正直嬉しかった。


そして、歓声と罵声が聞こえ、ザクっと言う音が聞こえた。


リリーが断頭台のギロチンを支えるロープを切った音だろう。


天地がコロコロと回った。


いや、自分の首がコロコロと転がったことに気がついた。


そして、最後に見えたものは……


青い空と太陽だった。


最後に見えたものが青い空と太陽で良かった。


それが最後の記憶……

連載のモチベーションにつながるので、面白いと思って頂いたら、ブックマークや作品のページの下の方の☆の評価をいただけると嬉しいです。ぺこり (__)

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支援職、最強になる~パーティを追放された俺、微妙なハズレスキルと異世界図書館を組み合わせたらえらいことになった。は? 今更戻って来い? 何言ってんだこいつ?~
― 新着の感想 ―
[良い点] なんだろう、70話まで読んで、これが一番いい話。
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