68反撃
「ご主人様! まずいのです……! 回復しないと!」
アリーと二人で抱き合っていて、使いものにならなかったリーゼが俺に回復魔法をかけてくれた。
「ありがとうリーゼ、助かった」
「ご褒美に、リーゼの為に勝つのです。勝ったら、リーゼのこと好きにしていいのです」
「アル君、私も勝ったら好きにしていいからね!」
リーゼもアリーも頼む。
ちょっと前の俺なら狂気乱舞してたけど、今は魅了の魔法が解けて、まともに戻った。
二人共、もう少し自分を大切にした方がいいよ。
俺にはクリスがいるんだ。
何よりクリスに袋叩きにあうだろう?
クリスがいなければ、喜んでたかもしれんけど。
しかし、俺の目は虚ろで見えにくくなっているし、身体はフラフラとし始めている。もう、限界だ。体力的にも、HP的にも、精神的にも……何もかもが俺の限界を示していた。
その時。
『ごめんごめん。昼寝してたから遅くなったけど、さっき終末の化け物のちっちゃいヤツ倒したから経験値1億入ります。レベル1201になりました。スキル【レールガン】が宿りました』
人が死にかけてる時に昼寝って、このクソ天の声ぇ!
『クソとかは酷いじゃないの。私とアル君の間柄でそれは酷いわよ。とりあえずレールガン使うといいわよ。魔力弾を電磁力で加速して極超音速で打ち出す強力なスキルよ。1000年前の真の勇者もこれで終末の化け物を倒したわよ』
「ふふふ、ずいぶんと女にモテるようだな。だが、その女達を殺したら、さぞかし恨み、負の感情を拗らすのだろうな。さあ、今その女達のどれかを殺してやろう。私に対抗できる技など人族にはないだろう、ふっはははは」
「なるほど、お前、1000年前、真の勇者に【レールガン】で倒されたんだな」
「…………な?」
みなの視界から、俺は姿を消した。重症を負っていた筈の俺は、ふっと、突然、何の兆しもなく泡沫のように消えたように見えた筈だ。
「な、何?」
俺は一旦終末の化け物の視界から姿をくらまし、自身の身体を鑑定した。
「流石終末の化け物。攻撃する一方、毒の中に回復魔法を無効化する毒素も混ぜていたとはね」
「ほう、気がついたか? 我の分身を倒しても触手を斬っても毒で犯されるだけでなく、回復を阻害する毒にも犯されたのだ。しかしわかったからと言ってどうする? 詰んでいることには変わりは……な? いや? まさか? そんなまさか!?」
終末の化け物は話している途中で気がついた。俺がスキル【レールガン】を起動したことに。終末の化け物の声に焦りが見える。
俺の手にはバカでかいバスターランチャーみたいな太古の大型の銃のようなものが現れていた。そして、ヤツには魔力の流れがわかるのだろう。尋常ではない聖なるの魔力の翻弄が渦巻いている事に気がついたのだろう。
ヤツだけではない、それまで俺のことを心配していたクリス達も恐怖の悲鳴をあげる。
俺からの尋常ではない量の魔力がほとばしる、魔力が無いものでも、その膨大な魔力の奔流に、恐怖するだろう。
この終末の化け物に勝ちうる手段は【レールガン】しかないないのだろう。
そして、俺にそのスキルが宿ったのだ。
「今度は俺のターンだな!」
「いや!? 嘘だ! あれは真の勇者にしか宿らない筈!」
ヤツは声を上げる。ヤツでさえできない極超音速で打ち出される物理エネルギーと聖なる魔力弾の究極の単体攻撃手段、それを俺は繰り出すつもりだ。
終末の化け物が形を変えていく。さっき俺の聖剣の斬撃を耐えた時と同じだ。
だが、ヤツの声色はすっかり変わっている。それほど、俺の持つ銃から溢れ出す魔力の力の奔流に言い知れぬ恐怖を覚えているのだろう。
「そ、そんな馬鹿な! お前が真の勇者の力を使うのだなんて!!」
「お前のおかげで殺された猫耳族の少女や族長ルナの仇、とらせてもらう!」
ゴゴゴゴゴと魔力の量と勢いが増し、これから俺がとんでも無い一撃を繰り出す事明らかだ。その場にいる皆の髪をなびかせ、畏怖を与え、俺の銃の弾丸が発射される。
「いけー!!!!! レールガン!!」
「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉ!?」
凄まじい射撃音と共に、終末の化け物にあまりにも大きすぎるダメージが襲う、直前に化け物は防御魔法を唱えた。しかし、俺のレールガンの魔力弾は魔力の密度だけでなく、物理的な速度、膨大な速度エネルギーを持つ。化け物の防御魔法すら貫通し、減衰無く化け物を襲った。
こうして勝負がついた。俺が放ったレールガンの射撃で終末の化け物は消えていった。
そして。
「流石アル!」
「アル君凄い!」
「ご主人様凄いのです! また一人でいいところを持って行きやがったのです」
「い、いや、俺にも良くわかんないだよ!」
クリスやアリーは褒めてくれるけど、クソ奴隷はまた俺だけいい所を持って行ったとか言いがかりを! しまいに売り飛ばすぞ、このクソ奴隷が!
売り飛ばす前にクリスに見つからないよう一発やっとこ。
しかし、そんな時、突然大勢の騎士達が乱入してきた。
「しゅ、終末の化け物はどこだ!」
「俺達近衛騎士団が来たからには安心しろ!」
何故か100人以上の騎士達が乱入して来た。
「あ、あの、あなた達は?」
「我らは猫耳族の戦士リリー殿の救援要請に応じて馳せ参じた」
えっ? リリー達がこの場を去ったのはついさっきだよ?
「アル殿! 間に合って良かった! 私の気転で猫耳族の秘宝、転移の魔道具で王都まで一瞬で行って、知人の近衛騎士団に頼んで応援に来てもらったのです!」
リリー、余計なことするな。
このことはなかったことにしたかったの……
俺が一人で終末の化け物を倒したとか思われたらどうする?
「ありがとう。よくやってくれた。リリー。でも、どうも終末の化け物は幻だったみたいだ」
「へ?」
「いや、気にしないでリリーさん、アル君は謙虚だから、また一人だけで伝説に残るような活躍をしちゃったことがバレたくないのよ。心配しなくても、化け物の残骸調べればわかるわよ。あれが本物の終末の化け物だってことがね」
ええ? そんな事言う? 俺、本気で困るんだよ。
「こ、この禍々しい魔力の残骸、間違いなく伝説の終末の化け物としか思えん」
「これを一人で倒すとか……頭おか……」
酷いでち。
この騎士、俺のこと頭おかしいって言いそうになった。
俺は部屋の隅で師匠みたいに膝を抱えて床を見て、ぐすんぐすんと泣いていた。
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