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64魔族ミロス

俺達は隣りの領のヨナス-ハウゼン伯爵の屋敷へ馬車で向かっていた。


族長のルナは伯爵への正式な抗議を申し入れるそうだ。


その証拠の人攫いを殺してしまって、どうやってそれを証明する?


俺達はルナ一行の護衛として連れ従ったが、どう考えても罠だ。


おそらく口封じ。


「さあ、着きました。ここがハウゼン伯爵の舘です」


族長のルナの涼やかな声が届いた。


いきなり魔法とかでやられることもあり得るな。


とか、思ってけど、意外とあっさりと舘の中に通された。


そして、領主のヨナス-ハウゼン伯爵が出迎えた。


「ようこそいらっしゃいました。私が領主のヨナス-ハウゼンです。猫耳族の方が来られるのは1年ぶりでしょうか?」


「歓迎に感謝致します。確かに訪問は1年ぶりになりますね」


ここ1年、猫耳族は人族との交流を絶った。


だから1年ぶりか。


「今日は抗議に参りました。1年前からの猫耳族の人攫い。昨日捕らえましてね。犯人はハウゼン様と白状してしまいました」


「で? その犯人はどうされたのですかな?」


「ふっ。もちろん口封じのために私が殺しました」


「そうか、ご苦労。今後も互いに良い関係のビジネスといきましょう」


「なっ!!」


「族長!!」


なんと、族長はいともあっさり人攫いに加担していることを認めた。


「で? 何故わざわざここへ来た? いや愚問か、始末して欲しいヤツがいる……という理解で良いかな?」


「はい。先日から来た招かれざる人族の客人がどうも、ハウゼン様から頂いた魔道具に屈しないようでして。是非、ハウゼン様のお力を。お礼はそこの猫耳族の女2人と人族の女」


「ふふ、いい取引だ。相変わらず君は商売が上手い」


全く、予想通りとは言え、こんなに簡単に白状するとはな。


「やはり族長が加担していた訳で、それを認める訳だな?」


「あら、やはり魅了の魔道具が効いていなかったのですね?」


「ああ、俺には自分に向かう魔法を検知するパッシブスキルがあってね。すぐに君の目を逸らさせてもらった。領主に会うのも俺達の口封じだと最初からわかっていたよ」


俺は剣の鞘に手をかける。


クリスやみんなも同じだ。


リーゼは呪文詠唱を開始する。


「はははは! お前達馬鹿か! そんな手勢で私の舘に来るとはな!」


「それはどうかしら? アル殿の力を知らぬから言える」


「そうね。アルはスタンビードを一人で解決する程の腕よ。詰んでるのあなた達の方よ」


「なっ!!」


リリーとクリスが煽る。


しかし、スタンビードは俺一人の力じゃないもん。


みんなの力を合わせた結果なんだもん。


決して俺一人が悪い訳じゃないもん。


「ま、まさかダンジョンの街のスタンビードの英雄か? ルナ! お前、なんてことを!」


「ふふっ。そのために伯爵様のアレがあるのでしょう?」


アレ?


何のことだ?


絶対ヤバい敵が出てくるヤツだな。


「わかった。人には絶対に勝てないモノがある。私にはそれがある。今、その力を使う時だ。まさかこんなタイミングで使うことになろうとはな。さあ、出てこい化け物よ!」


ハウゼン伯爵が叫ぶと、目の前に無数のコウモリが出現して、そして段々集まっていく。


そして、それは人の形となり、ついには人の姿そのものになる。


「ハウゼン家に伝わる伝説の魔族、吸血鬼だ。この化け物には奴隷の隷属の呪文が施されている。100年前に1000人以上の犠牲を払って手に入れた我家の宝だ。さあ、殺れミロス!」


現れた吸血鬼は青白い顔、黒い衣装に包まれ、首には奴隷の象徴である隷属の首輪が見てとれた。


「ふふ、ご紹介に預かった吸血鬼ミロスです。どうぞお見知り置きを」


もったいぶった動作で丁寧な礼をする吸血鬼。


唯の吸血鬼ではないのだろう。


魔族と言った。


吸血鬼は長く生きると力を付け、災害級の魔物を超えて、ついには魔族となることがある。


魔族とは人が勝手に決めた呼称だ。


師匠から聞いたのだが、魔族には二種類ある。


魔物が進化して、強くなり、言葉や頭脳が発達し、災害級の魔物のレベルを超えた者。


そしてもう一つが人が人外の力を得て、災害級の魔物以上の存在になり、人の脅威と認定された者。


そう、師匠がそうだ。


師匠は本当は英雄だった。


100年前にこの国を襲った大災害級の魔物を討伐した。


しかし、師匠の力を危険視した当時の人々は師匠を人外の魔族と認定し、師匠を迫害した。


師匠は誰一人傷つけることなく逃げ続け、絶えず人知れず姿を消してダンジョンの奥に潜むようになった。


師匠が魔王となったのは、そんな魔族同士には僅かにコミュニティがあり、その取りまとめをする自治会長になったためだ。


師匠、あれでも魔族では人気者らしい。


コミュ症だけど、魔族自体が大抵コミュ症だから比較的面倒見がいい、陽キャに分類されるらしい。あくまで魔族の中ではだけど。


ぷぷ、あの師匠が陽キャだとか、本人からその言葉を聞いた時は笑いが込み上げた。


師匠がめそめそ泣いて、部屋の隅の角で膝を抱えて縮こまったのは言うまでも無い。


魔族の自治会長は魔王と人から勝手に呼ばれる。


魔王や魔族は皆が思っているような存在じゃない。


彼らには言葉も知性もある。


元は魔物でも、高い知性を身につけた魔族は良識や善悪の区別もつく。


確か、吸血鬼の魔族も滅多に人の血を吸わないで耐えている。


吸っても悪人からだったりだし、そもそも吸血鬼化する程吸ったりしない。


師匠から聞いた話は信じるに値する。


それに、そもそも複数の魔族が人族に戦いを挑んだら、滅亡するのは人族の方だ。


魔族を人が捉えるなど信じがたいことだ。


察するに、何かあるのだろう。


俺は吸血鬼ミロスに聞いた。


「魔族ミロス殿、俺はアルと言います。魔王アルベルティーナの弟子です。正直、魔族であるあなた程の方が人に屈したとは思えない。一体何があったのです?」


「ほう、そなた、あのお嬢ちゃんの弟子か? 懐かしいのう。人にも我らのことに理解を示す者もいるのだな。まあ、私は下手を打ってな。人に恋してしまった。そして彼女を人質に取られてしまっての……」


悲しそうな顔をするミロス。


「その恋人はあなたの元へ返してもらえたのですか?」


「いや、処刑されたと聞く。魔族に汚された穢れた存在として……私には隷属の魔法を施されていてな。そして、ある日突然伝えられた」


「……」


俺は唖然とした。


これが魔族と人の真実?


俺達は人のため、魔王や魔族の襲撃に備えるため、勇者パーティを組織し、俺はそのメンバーだった。


だが……


悪はどちらだ?


そして魔族ミロス。


とても俺が敵う相手じゃないだろう。


だが、俺には勝ち筋が見えていた。

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