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前ディストピア

作者: 永瀬 銘心

その人は天才だった.彗星のごとく現れたその作家は瞬く間に時の人となった.その人の書き連ねる優しい絶望に魅了される人々で街は溢れかえり一種の社会現象とまで呼ばれるようになった.


 あるとき,ドキュメンタリー番組だったか,インタビューでなぜそのような本が書けるのか当然の疑問をぶつけられたことがあった.

 彼は「無意識が教えてくれるのです」と答えた.その人が言うにはふとした瞬間に”いど”に落ちていくような感覚になり,そうなると無意識と会話できるらしい.とにかく常人にはできそうにもない芸当だった.


 それを聞いた世間は更に沸き,これまでにないほど彼をもてはやした.

ところがしばらくして彼は自殺をしてしまった.世間は「彼は期待されているという重圧に耐えきれなかったので死んでしまった」など,とうそぶいた.


 彼に近しい人によると最近はほとんど廃人状態だったらしい.彼は無意識を意識的に見つめるあまり無意識の領域が徐々に狭くなってなくなってしまったのだ.無意識のなくなった彼は本も書けなくなるどころか日常生活を送ることもままならなくなって自殺した.


 その事件からしばらくして意識の大きさを測る機械が発明された.彼の事件から着想を得たのだろう.意識は大きければ大きいほどよいとされ,人の心に価値をつけることが可能になり哲学が意味を持たなくなった.


 いずれ心さえも売ることができるようになって,我々は資本主義に飲み込まれてしまうのではないかという不安が湿度の高い空気のようにまとわりつく.どうか人間の尊厳を保ったまま死ぬことのできる世界を維持することに尽力しようと思う.




 「ようこそ日本2.0へ.ここでは他人や自分の心を含めたすべてのものを自由に売買できる画期的な国です.」

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