数十年後の真実
そこまで悲恋ではありません。短いです。
その頃のぼくはちょっとやさぐれていた。
毎日毎日、王子とはこーだあーだと七歳のぼくに教え込む。七歳だよ?
いくら出来が良いぼくとはいえ、まだまだ遊びたい盛りだ。
その日はこの国の宰相でもあるボルトム公爵家にお邪魔していた。公爵家の蔵書と素晴らしい庭園を見に来ていた。
そして、その日…ぼくは天使を見た。
庭園を見せてもらっていた時に、そこに天使はいた。
名前も分からない小さな白い花を摘んで、ぼくに向かってとててと走ってきた…と思ったらこてんとこけた。持っていた花は散らばり、かわいらしい顔にある大きな瞳からは大粒の涙が溢れ出した。
天使に見惚れすぎて、ぼくは駆け寄ることが出来なかった。助けたのは侍女だった。
その子はひとつ年下の公爵家の娘だった。ひとめぼれだった。
その日、すぐボルトム公爵殿に婚約のお願いをした。
「本当に我が娘で良いのですか?」
何度も何度も同じことを聞かれた。
もう少し娘のことを知ってから、と何度も言われた。だけど、ぼくの意志は固い。
「ぜひ、娘さんと婚約させてください」
ほどなくして、ぼくと公爵令嬢との婚約が決まった。
ただ、何故か会わせてもらえなかった。
ぼくに釣り合うまでは会えない、とのことだったので全く会えなくてぼくは想いを募らせた。
しかし、学園に通う15歳になれば必然的に会うことになると思ったから我慢できた。
貴族は学園に通うことが強制されているからだ。
何なら王子の特権で同じクラスにしてもらおうかと考えたが、もし離れたとしても、それはそれで楽しいと思ったので権力を使うことはやめた。
「早く入学式にならないかな」
本当に楽しみだった。
何年も待ち望んだ入学式当日。
ようやくぼくの天使に会える。嬉しさと緊張でドキドキした。
いつの間にか才色兼備と噂にまでなった令嬢だ。あれからどんなに美人になっているだろうか。期待に胸が高鳴る。
その時はやってきた。
公爵家の家紋が入った馬車から降りてきた令嬢に手を差し伸べる。
「リリアーナ嬢、お久しぶりです。婚約者のセインです」
挨拶をして、ぱっと令嬢を見ると…あれ?美人ではあるが、思い描いていた雰囲気とは違う。
たしかに当時の面影はあるのだが、何だか違う気がした。
が、
「ありがとうございます、セイン王子。婚約者となってから会わずにおりました非礼をお詫び申し上げます」
可愛らしい声音と美しい微笑みに思わず見惚れた。やはり変わっていないと思うことにした。
昔よりも少しつり目気味だし、雰囲気が固い気がしたが、何年も会っていないのだ。笑顔は変わっていないと思ったので、思い出の中ではなく今の令嬢を愛していこう。
そしてそのまま恙無く結婚まで終えた。
男女の子どもにも恵まれて幸せな日々を送った。
そして、平穏な日々が過ぎ、ついに真実が明かされる。
「セイン様…死の間際の告白で申し訳ございません。わたくし、ずっと騙しておりました。幼少の頃、セイン様にお会いしたのはわたくしではございません。わたくしの…弟でございます。
あの頃の弟は本当に天使でございました。今は騎士として仕えるほど鍛えあがり、見る影もございませんが、あの時にセイン様と出会ったのは間違いなく弟でございます」
「そんな…では君は嫁ぎたくもない私のところへ来てくれていたのか?」
「いいえ、滅相もございません。わたくし…当時のわたくしは…かなりふくよかな娘でおりました。セイン様と直接お会いはしておりませんが、自室よりお見かけしておりました。わたくしはセイン様とは不釣り合いな見た目でした。好いていただけるように、とにかく努力いたしました。学園の入学時に何とか間に合った次第です。セイン様が手を差しのべてくださった入学式当日…努力して良かったと思いました。セイン様に心惹かれてしまっていたからです。
でも、セイン様の一目惚れのお相手は弟。ずっと心苦しくございましたが、墓場までわたくしだけの心に留めようと思っておりました。ですが、死の間際までこんなに愛されて幸せな日々で…こんな時まで告白出来なかったわたくしを責めていただいても結構です。
ただ、これだけは…
貴方のことを愛しています」
そう言って、リリアーナはこの世を去った。
たまに見せていた寂しげな表情はそういうことだったのか、と納得したが同時に切なくなった。
何十年も一緒に過ごしていて、どうして彼女の苦しみに気付いてやれなかったのか。
もし、当時の話をされたとしてもぼくが彼女を愛しているこの気持ちは決して変わらないのに。
いくら悔やんでももう届かない。
ぼくは、彼女が死んだ後も彼女だけを想い続ける。
生まれ変わったとしても、リリアーナという令嬢だけを愛すると誓って。
読んでいただきありがとうございます。
何となく書いてみた話。