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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

陽の行方

作者: おおみや

大きい唸り声を上げ、多種多様な色をした大小無数のモノが右から猛スピードでやってくる。やってきたと思ったらすぐさま左へ消えていく。普段は近づくことを許されていない聖なる谷にやってきた。地面が硬く熱い。足の裏がジリジリ焼けるようだ。太陽は頭のすぐ上まで昇っている。

谷底を右から左へ流れていくモノを見ながら長老がやっと口を開いた。

村からここに来るまでほとんど長老は口を開いていなかった。

「ここをまっすぐ走り抜けよ。谷を越えればお前らは立派な大人として認められ、自由になる事を許される」

小さい時から聞かされている成人の儀式だ。

今年儀式に名乗り出たのは、僕とトミーとルーカスだけだった。毎年夏になると成人の儀式が行われる。死なずに谷底を渡りきれれば成人として認めてもらえる。村の中にはいつまでも怖がって成人の儀式を行おうとしない者もいる。トミーとルーカスは小さい頃からよく一緒に遊んできた家族同然の中だ。3人で顔を見合わせる。

「死ぬなよリアム」

「トミー、ルーカスお前らもな」

3人が顔を近づける。

「準備が出来次第ゆけ」

長老は静かに言った。

ここで怖気付くほどの覚悟ならこの場に来ていない。むしろ光栄なことだと思っている。

母は僕を送り出した昨日、泣きそうな顔をしながら言った。

「本当に行くのかい?」

「ああ、覚悟は出来ている」

「また今度でもいいんだよ」

母なら背中を押すものだろ。少しイラッとしたが確かに息子が死ぬかもしれないとなれば寂しいものかとも思う。

「リアム、お前は私の太陽なんだ。」

僕は返事もせずに背中を向けてしまったことが少し心残りだ。この谷を越えたら、そのうち家に顔を出して母に謝ろう。心の中でそう決めた。


「俺から行く」

ルーカスが言った。

「その次は俺が行くぞ」

トミーが言った。

「また俺は最後か」

3人で顔を見合わせ微笑む。

いつも俺は最後だった。小さい時はよく3人で川を聖なる谷に見立てて遊んだ。

その時からいつも最後だった。

嫌ではなかった。2人の勇気ある後ろ姿に勇気をもらい自分も地面を目一杯蹴れる。


3人はここにたどり着くまでに約束を2つした。

1つは、誰かが死んでも気にせず突き進むこと。

2つ目は、生きて谷を越えること。

それを3人は口を揃えて確認する。

ルーカスが「よし」と気合いを入れ、地面を蹴り始めた。続いてトミーが走り始める。

太陽が眩しい。それとも2人の背中が眩しいのか、僕にはどっちでもいい。

リアムもすぐに2人の後ろを追う。足が空回りするほど目一杯に。


貧乏ゆすりが激しくなっていく。タバコの灰が膝の上に落ち余計腹が立つ。

前のトラックが邪魔で前に出るに出られない。

「トラックは左側に寄っておけよな」

舌打ちと独り言が車の中に大きく響く。

二台のトラックが高速道路の二車線を防いでいた。

左車線のトラックが少しずつ後ろに下がってきた。隙間ができたのを見計らってアクセルを強く踏みウインカーを左に出す。

トラックを抜いた開放感から更にスピードを上げる。エンジンが唸る。

左からいきなりなにかが飛び出してきた。

3匹の茶色いウサギ。

反射的にブレーキに足が乗る。しかし踏み込むことはしなかった。

鈍い音がバンパーからなる。血が飛ぶ。

舌打ちが出る。

「ついてねーな。バンパーが汚れた。傷ついたかもな」

バックミラーを見ると撥ねたウサギの近くにもう2匹が近寄っていた。そこに後ろからトラックが真っ直ぐやってきて、残りの2匹を撥ね飛ばした。

「気の毒にな」

陽炎の中を車はまだ加速し続ける。エンジンは大きな唸り声を残す。


「リアム兄ちゃん聖なる谷に行ったんでしょう?」

「そうだよ、きっと今頃渡りきった頃だと思うよ」

「僕もいつかお兄ちゃんみたいに立派な大人になりたい!」

母ウサギは、微笑みながらまだ小さい息子の首をそっと噛み持ち上げ、家の中に入れる。母ウサギの目に浮かべられた涙は、夕日の光に照らされ綺麗な光を放っていた。


太陽は方角を変え、西の空を橙色に染めながらその大きな体を隠し始めていた。


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