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短編小説集 *何気ない毎日を*

真実の愛

作者: 成瀬史織

《明日の夜、会えない?》


スマホに、彼からの急なお誘い。


心に溢れてくる嬉しさで、表情を崩さないように


〈空いてるよ〉


そう短い返信をする。


気持ちを表に出さないように振る舞うことにも


もう随分と慣れた。


《よかった。早く会いたくてたまらない》


会いたい、だなんて


そんなストレートな言葉は困る。


私はスマホの通知に眉間を寄せて


〈そんなこと書かないで。履歴ちゃんと消しなよ?〉


そう返信すると


《大丈夫。あいつ体調崩してもう寝たから》


なんて


彼からの返信はとても最低な言葉だった。


彼は、彼女と同棲してるのに


しかも彼女の体調が悪いのに


違う女に愛を囁くような、最低な男だ。


でも


文末に書かれた


明日会えるの、楽しみにしてる


その言葉に、胸が高鳴る私も


これまた最低な女で。


最低な女の私は


〈私も楽しみにしてる〉


という返信を、いつも通り彼に送る。


明日の夜は


きっと長い夜になるだろう。


彼との夜は


情熱的で


その愛に


私はいつも酔いしれてしまう。


まるで私を1番に


愛してくれているかのような彼の態度は


私にとって、手錠のようなもの。


もうやめよう


何度もそう思っては


その手錠をかけられる。


『彼女のことは家族のように思えるんだ。だから、女として見れない』


自分も男として彼女を愛せない


そんなことを言って


彼は私に諦めさせてくる。


私が自ら、手錠を外すことを。


けれど彼が言うには


彼女のことも、愛しているらしい。


彼と彼女の関係は


私よりも遥かに長く


尽くしてくれる彼女を


今更、突き放せないのだと


彼は優しく笑っていた。


家に帰ると


毎日ご飯を作ってくれていて。


今日はパスタだよ


一緒に食べよう、なんて


帰りを待っていてくれて。


美味しいよって言うと


よかったって喜んで。


これ、食べたいって言ってたよね


冷蔵庫から出してくれたのは


人気店のケーキ。


これほどまでに


愛されていて


それでいてなお


1人だけを愛せない。


私のこの気持ちを理解できるのは


きっと彼だけ。


誰もが羨む


理想の家庭。


それを手に入れていても


その愛を一身に浴びていても


私はまた、彼に会いに行ってしまう。


大好きなのに


こんなにも愛しているのに


何故?


何故私は、満たされていないんだろう。


左手の薬指から


そっと指輪を外す。


内側に刻まれた


結婚記念日の数字を手でなぞって


「結婚できて、幸せ」


そう呟くと


『僕も君と結婚できて、幸せだよ』


そう優しく笑ってくれた


その笑顔に


もう罪悪感を感じなくなってきてさえいる。


「明日、帰り遅くなるから先に寝ててね」


『また飲み会?』


「そう、急に誘われちゃって」


嘘は言ってない。


彼への愛も、嘘じゃない。


私の愛は


どれも真実なのだから。


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― 新着の感想 ―
[一言] ごきげんよう、今回も投稿ありがとうございます。 恋愛って、麻薬のような断ち切りがたい魅力が溢れる、得体の知れない魔物感が溢れるお話でした。 第三者からの横槍はもちろん、関係している人々の介…
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