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そして明日へ

 かくして事件は無事解決したのでした。ちゃんちゃん。……とは流石にいかないわけで。


 あれから暫くして。グリワモールは一段落ついたのか立ち上がり「それじゃあ」とだけいつもの調子で言うと、止める間もなく消えてしまった。それから一人で必死に大人二人を担いでイシュワッドギルドのユリーンと合流して事情を話しながら診療所へ。二人を任せるとそのままユリーンに再び詳しく説明するため夜通し話し続け、朝日がすっかり登った頃に眠気とストレス胃痛で倒れたユリーンをベッドに放り投げ、俺も寝る前にガルシオ達の様子だけ確認しておこうと病室に入って、今である。


「おう。ひでぇクマしてんな」

「ガルシオさんの顔ほどじゃないですよ」


 流石の回復スキルというべきか。壮絶な戦闘形跡だったのにも関わらず既に本人はなんともないように目を覚ましていた。


「もう大丈夫なんですか?」

「当たり前だ……って言いてぇが、さっき目を覚ましたところだ。体もまだ全身だりぃしな、スキルが弱ってたときの傷が治りきってねぇんだろ」


 その傷跡をしてだるいで済んでる時点でとんでもないのだが。


「っていうかその後スキル戻ったのならそれで治らないんですか?」

「どうにもそうはならないらしい。今まで常時全力での発動だったから気づかなかったが、治せるのは発動中に負った傷だけみてぇだ。そんで効力はどうにも、俺の気持ちと比例してるらしい」

「気持ちと比例、ですか?」

「ああ。俺の気持ちが折れると、その分効力も落ちるみてぇだな。要は諦めたら終わりって事だな」

「なんか……えぇ……?」


 つまりこの人、今までどんな致命傷を負ってても気持ち全く折れたことなかったって事? メンタルが強すぎるとかじゃ済まないじゃん。ちょっと引くわ。


「って、俺の事なんか良いんだよ。あの後どうなった。ユリーンと話したんだろ」

「あ、はい。えっと──」


 それから俺はさっきまでユリーンと話していたことをガルシオに伝えた。


 一先ずキルト神父の命に別状はなく、おかしな反応もないことから魔導も解除されているだろうということ。

 念のため腕利きの冒険者に国周辺を探らせてはいるが、キルト神父に魔導を使用した帝国兵は見つかっていないと言うこと。

 今回の事件の実行犯としてはキルト神父になるが、帝国の洗脳魔導により操られているだけであったため、事情聴取はあるが罪に問われる事は無いだろうということ。

 本格的に動くのはその事情聴取が終わってからになるが、暁の地平を通し各国盟主と情報共有し今後についての話し合いが行われると言うこと。


「だいたいこんなところです。全部これからユリーンさんが他のギルドマスターに共有するところですけど、概ねこの通りになるかと」

「そうか、まあ落ち着くところに落ち着いたってとこか」


 起こしていた体をベッドに預け、長く息を吐いた。


「……今回、お前には世話になったな。お前がいなかったら、キルトには辿り着いても、助けるとこまではいけなかっただろうしな。だからまあ、なんだ。ありが──」


 何度か言葉を濁らせ、やがて意を決したように口を開きかけた時、病室では到底発生すべきではないほどの声量が飛び込んできた。


「おいおいおいガルシオ! お前がズタボロに負けたってマジかよ! うっわマジじゃん超ウケる! ユートも見て見ろって、ボロ雑巾みてぇ!」

「ちょ、カリナっ。声大きすぎだって」


 入ってきたのはギルド職員の二人の男。騒ぐカリナを咎めながら入ってきたユートと呼ばれた男は足が悪いのか杖をついていたので俺の座っていた椅子を差し出し、彼はお礼を言って座った。


「それにしても本当にボロボロだね。ガルシオがそんなになるなんて初めてじゃない?」

「それな。いつも怪我するといったら俺らだったもんな。いやー……いい気味だな!」

「テメェら……人事だと思いやがって……」


 笑みを浮かべるユートと気持ちいいほどニカリと笑うカリナ。そんな二人に愚痴を溢しながらも、その口元は緩んでいるガルシオ。恐らく三人は旧知の間柄なのだろう。自然とそう思ってしまうほどとても自然で温かな空間に包まれていた。──が、次の瞬間。病室に入ってきた人物が三人から笑みを奪い去った。


「ちょっとガル、あんたなんて怪我してるのよ!」


 ガルシオの姿を見るなり悲鳴にも近い声を上げた女性。長い黒髪を後ろで束ねたガルシオ達と同じくらいの年齢の、とても綺麗な人だった。しかし一番目を引いたのはその顔つきではなく、大きく膨らんだお腹だった。


「いやいやいやいや、お前こそ何してんだよサリナ! もうしばらくは出歩くなって婆さんからうるさく言われてんだろうが!」

「そうだよ! アマンナさんにバレたらなんて言われるか……」


 怯え慌てる二人を余所にサリナと呼ばれた女性はガルシオに近づき、勢いよく首襟を掴み上げた。


「あんた、今がどういう状況が分かってんでしょうね?」

「あ、ああ……」

「ふぅん? じゃあ分かった上でそんなになるまでやってたってこと?」

「い、いや……ちが、いや違くは……」


 あの。あの暴虐武人我が道を行く、というのは流石に言い過ぎだがそれに近しいとは思っていたガルシオがこれ以上無く押されている。一体何者なんだ……。

 しばらくの沈黙の後、サリナはパッと笑みを浮かべて手を離した。


「なんてね。あんたはそれが仕事ってことは分かってるし、ちゃんと帰ってきてくれるだけで十分よ。えぇ、ほんとに」


 その言葉は徐々に小さくなり、目元には涙がにじんでいた。そんな彼女をガルシオは一言すまんと謝り、優しく抱き寄せた。


「あの……もしかしてあの人って」

「うん、ガルシオの奥さん。僕たち四人は昔からの付き合いで……って、もしかして君がアリアさん? ユリーンさんから話は聞いてるよ。ガルシオを手伝ってくれてたんだって?」

「あー、お前がそうなのか! ちっこいのにすげぇ強いんだってな。いやあ助かったぜ、ありがとうな」

「いや、そんなそんな……って奥さん!?」


 あまりにさらっと言われたので一瞬流しそうになってしまった。ガルシオ……おま、お前……。


 なんだか少し生暖かくなった視線をガルシオに向けていると、突然びくりとサリナの体が震えた。


「ど、どうしたサリナ」

「……ヤバい、来たかも」

「来たって……おいまさか」

「うん……赤ちゃん」


 その瞬間、病室内は過去最高の騒がしさになった。


「おおおおおおいユート、走れ! 走って誰か捕まえてこい!」

「わわ、分かった! 取り敢えず誰かを痛ったぁ!」

「おま、ユート!そんな足で走れるわけ無いだろうが落ち着け! オイアリア、お前飛んで医者連れてこい! 窓から飛べば直ぐだ!」

「分かりまし──あれ、診療所から飛んで医者を探しにどこへ……取り敢えず行かなきゃ!」

「ちょ……馬鹿四人落ち着いて……」




          ***




「僅か数年前までは邪魔者と思われていた赤子が、こうして慌てふためきながら祝われるようになる、ですか」


 アリア達のいる診療所から遙か遠く。イシュワッドを囲う城壁の上から指で作った輪を通して慌てて窓から飛び出すアリアを見ながら、グリムワールは静かに呟いた。


「人間というのはいやはや、変わりやすいのは変わらない……おや、なんだか矛盾したような言葉になってしまいましたね。しては無いですが」


 その声音はいつもほどふざけてはなく、目を細めた表情も無感情とも言えるほどだった。


「なに感傷に浸ってるのよ、柄でもない」


 呆れた女性の声がその場に響く。しかしどこにも姿はなく、あるのはグリワモールの前を舞う白い羽だけだった。


「気のせいですよ、気のせい」

「あっそ。それよりちゃんと仕事はしたんでしょうね?」

「ええ。例の魔導を神父に施した帝国兵。やはり潜伏場所はそれほど離れてはいませんでした。解析したときに分かりましたけど、ある程度離れてしまうと効果が切れてしまうようですし、そもそも調査も出来ませんしね」

「ふうん、あんまり便利な物じゃないみたいね」

「いえいえ、効果自体はしっかりしていますしね。魔法のマの字も知らなかった帝国にしては中々ですよ。まあ」


 言葉を切って、足下に転がる四つの首を軽く蹴飛ばす。


「所詮はこの程度ですがね。放置していいとは言いませんが、まだ手を出す必要は無いかと」

「そ。分かった。……ったく。オーガの馬鹿は相変わらず好き勝手ばっかで、こっちの負担が増えてばっかよ」

「はは、彼はそれが仕事みたいなところもありますからねぇ」

「それはそうなんだけど……そうだグリワモール。もう一件の方はどうなの?」


 羽の質問に、グリモワールの雰囲気が一瞬変わる。愚痴を溢し合っていたような苦い笑みはそのままだが、その場の空気は静かに、僅かな瞬間、しかし明らかに重苦しい緊張が走っていた。


「まあ素養はありますよ。あの集団に入れてる位ですからね。あとは精神面での切っ掛けがあれば……じゃないですか? 私達と同じように」

「……それもそうね。私達だって、選んだのは自分でもそうなった原因は違うものね」

「ええ。焦らずのんびり待ちましょう。もしハズレでもどうとでもなりますよ」


 グリワモールのその気楽な発言に、今までふわりと漂っていた羽が根元をグリワモールを突き刺す様に眼前で静止した。


「それ、本気で言っているのかしら?」

「どう思いマス?」

「……チッ。私実は、オーガより貴方の方が何倍も嫌いなのよね。特にそういう態度が」


 飄々としたグリワモールの態度に、悪態をつき再び漂う。


「お褒めに預かり」

「はいはい。まあ焦っても仕方ないってのは本当だしね。私も私でやることあるから、また連絡するわね」

「ええ、それでは」


 軽く振った手に触れて、というより叩いて羽は上空へと消えていった。


「……さて、これからどうなることやら」


 再び指で輪を作り覗くと病室にはやや年老いた女性が増えており、ガルシオが先程まで寝ていたベッドにはサリナが代わりに寝ており、男三人とアリアは女性の指示に従って慌て動いていた。


「一先ずは、無事に生まれる祈りと健やかなる成長を願い──魔王の物で恐縮ですが」


 芝居がかったお礼をし、パチンと指を鳴らすと風と共に消え去った。

次は幕間的なもの二話やって新章突入いえーい

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