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闇を照らす

 祭も終わった翌日。後片付けや名残惜しさでまだ賑やかさが各所で残るが、それも今日が最後だろう。明日になれば、貿易国家としての賑わいに戻るだろう。

 そんな最中、アリアは白亜の塔の円卓の間に呼び出されていた。


「そういう訳で、君を我々の組織に迎え入れたいと思う」

「…………えっ、あ、はい」


 特に前置きも無く日常業務のような淡泊さのユリウスの言葉を聞き逃しかけてしまったのか、一瞬遅れてアリアが返事をした。


「まあ冒険者登録やパーティ申請などとは違って書類などは必要ないが……まずは我々について話しておかなければならんな」


 一度咳払いをし、再び口を開く。


「一般の冒険者やギルド職員にとってはただのギルドマスター、そして最上位の位置づけとなるSランクの冒険者。だがこれほどの権力と力を有している我々が所属するこのパーティ、当然普通のそれとは同じであるはずもない。では我々の目的とは何か。……そもそも、”今ここにいる我々”はギルドマスターでも冒険者でも無いんだ」

「……独立した存在、ということですか?」

「ほう、理解が早いな。流石に立場上難しい点もありギルドの特別なパーティという体裁をとっているが、本質は完全な独立組織だ。前置きが長くなったがその目的は、世界の平和、秩序を守る。この一言に尽きる」

「それはまた……随分と……」

「夢見がちな理想論かと思うかね? しかし君も以前似たようなことをレイに口にしたそうじゃ無いか。同じ事だ。一冒険者ではどうしても限界がある。知り得る情報にも成せる仕事にもだ。しかし我々は多くのことを成せる。例を挙げるとすれば……」


 ユリウスが思案のために口を止めると、代わりにレイがアリアに話しかけた。


「アリア。この前、孤児院の子供が襲われた事があったでしょう?」

「……はい」

「結局なにも出来なかったけど、あの時私達に出来た最大限の事は、犯人を捕まえて子供達を助ける。これ以上のことは出来ないよね」

「そう、ですね。それ以上のことは私達だけでは出来ない──まさか?」


 あることに気づきレイの目を見ると、彼女は頷き、返した。


「あの馬車と死体から奴隷商の身元と所属する組織を割り出して、この間全部壊してきた」

「全部って……」

「全部。人も、物も、全部」


 どこか冷たいその言葉に、アリアは生唾を呑み込む。

 命を奪ったことがないなど今更言うことなど出来ない。少なからず人すら斬った。それがどれだけこちらに非が無かろうと、そうせねば自分の命が危ないとしても、後悔に近い感情は小さなしこりとなってアリアにずっと残っていた。しかしレイは、ここにいる全員はそうではないのだろう。


「そういうことだ。我々ならば動ける範囲が格段に広がる。君の理想も叶いやすくなるといえよう」

「そうですね。ここで断ったらどうなるかが分からないほど愚かではありません」

「理解してくれているようで助かる。我々としても不死者の君をどう処分すれば良いか考えあぐねていたのでな。以前から思っていたが君は見た目に反して成熟しているな。ガルシオにも見習ってほしいものだ」

「あァ?」


 そりゃまあアラサーに片足突っ込んでますから……ん? 今とんでもない言葉が出なかったか?


「あの、不死者って……」

「あ? バレてねぇとでも思ってたのかよ。こちとら証人が二人もいるんだぜ、なあ?」


 ガルシオに突然振られたニナは狼狽しながらも、おずおずと小さく頷いた。


「まあそういうことだ。加入するにあたりこちらの人員の素性や能力は話すが、当然君のものに関しても話して貰わなければならない……とはいえギルドマスターに限って言えば特筆することもないがな」


「……分かりました。ここで反論や嘘を並べる代償の方が大きそうですし、そもそも言うまでもなく知られてるようですし」


 自嘲気味な笑みを浮かべるユリウスにアリアは諦めたような溜息をついた。


「能力はドラグニールを憑依させた事による身体能力及び魔力の向上。またドラグニールの使う魔法は練度は別ですが全て使うことが出来ます。主武装は二振りの刀。そしてスキルは、不老不死です。出自や憑依の経緯に関しては記憶が無いためお話しすることが出来ません」

「うむ。最後だけが気がかりだが、君の人柄を信じよう。そして我々も君の誠意に応えねばならない」


 ユリウスが立ち上がると、続き全員が同様に立ち上がった。


「改めて。アルガーンギルドのマスター、ラウドだ。スキルは相手の能力を視る事が出来る目……とはいっても、君を見破ることは出来なかったし、最近は弱体化もしているがね」

「レイ。スキルは神速、武器は刀、魔法は使えない。改めてよろしくね」


「オルシアギルドのマスター、ドルガンだ! テメェの熱い戦い、間近で見せて貰ったぜ! 大歓迎だ!」

「……ガヴァールだ。すまんなウチのマスターは五月蠅くて。見ての通りドワーフ、戦いよりも物作りの方が得意だな。これといったスキルや魔法はねぇが、普通の鍛冶師じゃ到底作れねぇものなら任せとけ。……ついでにお前の仲間の鍛冶師、今度会わせてくれ。旨い酒が飲めそうだ」


「ヴォクシーラギルドの長、サルヒールです。正直、私個人としてはまだ貴女を信用し切れてはいませんが、私情を持ち込んでは物事は進みません。お互い仲良くしましょう」

「シーナだ。試合では世話になった。基本的には試合通り弓術と魔法が主体だ。スキルは……説明が難しくてな、空間から無数の矢を射出する技。アレがスキルによるものという認識で問題ない。よろしく頼む」


「メイガルドギルドのシュナよ。ふふ、可愛い子が入ってくれて嬉しいわ、よろしくね?」

「えっ、と。ニナです! み、皆さんのように戦いとかは苦手……なんですけど、回復魔法なら得意です! スキルは生命操作っていって、試合中に使ってたのもそれです。あの、えっと……よろしくですっ」


「イシュワッドギルドのユリーンっていいます。予選の時にちょっと会ったけど、覚えてるかな? 何はともあれ、これからよろしく。お互い頑張っていこうね」

「……めんどくせ」

「こらガルシオ!」

「わーってるよ。あー……名前はわかんだろ。戦い方は……何でもありだな。魔法は使えねぇからそれ以外な。スキルはあれだあれ、怪我しても一瞬で治るって奴だ。よろしくなクソガキ」


「では最後だな。アルプロンタギルドの長を務めるユリウスだ。これといった力を持たぬ知恵と経験のみの老骨だが、よろしく頼む」

「で、僕が最後のメンバー、エクシア。メインは背中の両手剣。魔法も結構使えるよ。スキルは英雄っていう僕には荷が重いスキルだけど……その時ピンチであればあるほど強くなるってスキルなんだ。よろしくね!」


「よろしく……お願い、します」

「……まあ一度で覚えられる筈も無かろう。後々で良い。それと加入した事によるお主の変化だが、特に何も変わらん。お主は今まで通りアルガーンギルド所属の冒険者で、二人の仲間を持つパーティの主だ。ランクがAからSに変わった位だの。基本は今まで通り過ごし、呼びかけがあれば応じる形で良い」

「あ、それどうなるのか聞こうと思ってたので、安心しました」

「うむ。では改めて。ようこそ我等”暁の地平”へ。お主の加入を歓迎しよう」


 拍手で迎えられ、アリアはぎこちない照れたような笑みを浮かべ会釈した。


「それでは早速お主に最初の任務を与えよう」

「えっ」

「これよりイシュワッドへ赴き任務を遂行せよ。詳しい内容は道中ユリーンから聞くように」

「えっ」

「あ、この任務ガルシオも共同だからね?」

「えっ」

「はァ!?」

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― 新着の感想 ―
[一言] 怒濤の転回 さらっとSランクに上げられてる
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