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それぞれの戦い

 国を挙げた祭の最終日。しかし人の活気は衰えるところか終わりに向かって更に上がっているとすら思える。


 そんな昼前の時間。俺はクラガとエリシアと一緒にカフェのテラスで作戦会議をしていた。


「アリアの決勝まで後二時間ほど。それまでに対策を練りましょう!」

「おう。アリアの代わりに準決勝のガルシオの試合はしっかり見てたからな!」


 というか二人がやたら盛り上がっていた。


「えと。二人とも凄い気合い入ってますけど……どうしました?」

「「そりゃあもう!」」


 二人は勢いよく立ち上がり。


「折角ここまで来たのですから、アリアには勝って欲しいのです!」

「優勝したらガッポガッポじゃねぇか!」


 一人は欲望ダダ漏れだった。


「ま、まあ理由はともかく勝ちたいのは私も同じですから……で、準決勝はどうでした?」


 エリシアに睨まれるクラガに助け船を出すようになんとか話題を切り替える。俺個人としても負ける訳にはいかないから、この作戦会議は正直助かる。


「見た感じは徒手空拳での近接格闘主体。防具も手と脛に申し訳低度のプレートがある程度だ。それも見てた感じ防御用ってよりは攻撃用な感じだな」

「戦法としては苛烈なまでの超攻撃派。正直違和感すら覚えるほどです」

「違和感って……どんなですか?」


 俺の質問にエリシアはなんとか言語化しようと腕を組んで唸った。


「どういったものか……今回の戦いですが、通常下手をすれば死の危険がある事じゃないですか。ですが常に規格外の回復魔法があることによって致命傷すら問題にならず、軽いものなら痛みすら感じず治ってしまう。それは事前に知っていますが、だからといって傷つく事を恐れず戦えるかと言われれば別問題じゃないですか」

「まあそうだな。相当覚悟すれば別だけど普通は反射的に引いちまうよな。そう言われれば確かに」

「ええ。彼は傷を負うことを恐れてなさ過ぎている……そう感じました」


 恐れてなさ過ぎる……なんとなく、分かるような?


「同じSランクのガヴァールさんでさえガルシオさんの拳を防いでいるのに関わらず、彼はあの戦斧を防ぐどころか避ける動作すら二の次にして攻撃を優先させていました」

「……えぇ」


 思わず引いてしまった。なにその狂戦士(バーサーカー)。そんなん今日は安全だからその戦法でって出来るわけないじゃん。


「その辺りを考えると……有効な手段は遠距離を保って魔法で戦う事でしょうか」

「あ? むしろ近接戦闘だろ」


 ガルシオの生の試合を見た二人の提案がまさかの正反対のもので、再び睨み合ってしまった。


「少なくとも彼は遠距離戦闘が出来るタイプではないでしょう。今までの試合傾向からもあの格闘技術からもそれは確定的です。であれば安全な遠距離を保った戦法が最適解でしょう」

「確かにそれは認める。だがあの強さの奴が遠距離主体の相手と戦った事がないなんてあり得ないだろ。生半可な魔法じゃ避けられるだろうし、当たったとしてもあいつは怯まず詰めてくる。ならアリアも得意な近接でやることに集中する方がいいだろ」

「は?」

「あ?」


 話題を転回する間もなく睨み合う二人。なんで今日こんなに相性悪いの? 祭? 祭の高揚感が二人をそうさせるの?

 俺が二人を交互に見てあたふたとしていると突然後ろから肩を掴まれた。


「アリア!」

「わっ、え、レイさん!?」


 振り返って見たレイは肩を揺らし顔には焦りが浮かぶ、初めて見る状態だった。


「ど、どうしたんですか、そんなに慌てて」

「ニーアが……ニーアが攫われた!」


 その言葉に、かつての向日葵の園での出来事がフラッシュバックした。


「攫われたって、一体」


 エリシアの問いにレイは焦りながらもなんとか説明してくれた。


 レイは朝からラウド達に呼び出され白亜の塔──アークスに行っており、園の人達とは昼に落ち合う予定だったのだが、レイが合流した時には既に攫われていたという。

 犯人は白いローブの人間。人通りがある場所にも関わらずニーアを攫うと屋根上に跳躍してそのまま逃走したという。それを聞いたレイは直ぐさま探しに出たが一向に見つからず、そんなときに俺達をたまたま見つけたらしい。


「──すいません二人とも! 作戦会議は中止、手分けして探します!」

「当然!」

「おう!」


 俺の言葉に二人も直ぐ返事してくれた。


「二人は聞き込みをしながら別方向に行って下さい。祭の中とは言え白いローブはかなり目立つと思います。私とレイさんは機動力を活かして走り回ります。レイさん、ラウドさん達に知らせて手伝って貰うことは出来ますか?」

「多分……でも、アリア。今日ってもうすぐ試合じゃ……」

「そんなの関係ありません!」


 思わず声を荒げてしまう。レイもSランク……もしもの場合に俺を殺す人の立場だ。あの場にいなかったとはいえ、恐らく知らされているだろう。だが今はそんな事は関係ない。

 俺もクラガもレイも、勿論こうなったら手伝うだろう。だが俺達には一つの記憶が過っていた。クラガとエリシアが冒険者になることを決意した事件。俺達をあの時襲ったのも──白いローブの集団だった。

 その記憶が俺達を更に駆り立てていた。


「一度二時間後にコロシアムに集合と言うことでお願いします。じゃあ行きましょう!」


 そうして俺達はカフェを後にした。


 幸いこの辺りはそれほど人通りも多くはない。レイさんは瞬く間に姿が見えなくなり俺はやや遅れて別の道に入った。クラガとエリシアも途中の分かれ道で手分けして行ってくれているだろう。


 ──おい、闇雲に国中探し回る気か。途方もないぞ。

 そんなこと言ったって他に方法ないだろ!

 ──落ち着け。自分に出来る事を思い出せ。あの小娘とは何度か会っている、ということは魔力探知を用いた索敵が使えるだろう。

 そうか!

 ──おい、ちょと待て!


 ドラグニールの提案を受けその後の制止も間に合わないうちに魔力探知を使ったが、その瞬間強烈な頭痛が襲い鼻血も吹き出した。


「ガッ……は……!」

 ──阿呆! こんな人の多いところで人の魔力対象で探知すれば膨大な情報量がなだれ込む。人の脆弱な脳で受け取れるわけなかろう!

「だ、だったらなんで……」

 ──我が受け持ってやる。貴様はただ索敵に掛かるように走り回れ。

「そうか……でもお前、なんで急に」


 恐らく現状一番見つけられる方法だけど、普段のドラグニールなら絶対協力なんてしないだろう。ましてや自分から言い出すなんて……。


 ──あの小娘には我も思うところがある。それを得体の知れん奴らに掠め取られるのが気にくわんだけだ。さっさと走れ。

「おう!」


 まだ僅かに頭痛は残っているが、直ぐに収まるだろう。既に止まった鼻血を拭い再び走り出した。


 


          ***




 ──止まれ! 右手側に一瞬捉えた。


 その言葉に返答する間すら惜しく俺は無理矢理進路を変え、近くにあった脇道に入る。そして抜けると──。


「うわ、何だこれ!」


 運が悪くそこはアルプロンタのメインストリート。しかも更に運が悪いことに、最終日に行われる最大の盛り上がりを見せるパレードが行われていた。

 中央を派手な仮装をした人や動物などを模した巨大な乗り物が進み、左右には見物客が身動きもとれないほどひしめきあっている。


「チッ。これはどこかで回り込まねぇと……」

 ──いや、上だ!


 視線を上げると、大通りの向かい側。高い建物の屋上を横切る白いローブの男が見えた。そしてその脇に抱えられている赤毛の少女の姿も。


「見つけた!」


 俺は急いでその後を追いかけるが、あまりの人混みでまともな身動きがとれない。一度人の居ない路地に戻って屋根上に上ろうとしたが、小さいからだが災いして中途半端に進めてしまい戻るのも時間が掛かる。その間にまた見失う可能性も……どうすれば。

 今無理矢理に人を押しのければ身体強化も使って追いかけられるが、怪我人が出るのは必至だ。周りに影響がなく、かつここから上に行く方法……そうだ!

 必死に考えていると、昔見た映画のワンシーンが脳裏に浮かんだ。出来るのかは分からんけど悩んでる暇はない!


 俺は建物の屋上に向かって手から魔鋼糸を伸ばす。鋼とついているが要は魔力で編んだ糸だ。その性質は応用が利き、ダルナが使うように硬さに振ることも出来れば──。


「……よし」


 ──粘着性を持たせて引っ付けることも……出来た! あとはこれを引き寄せられれば……ゴムのように伸びている訳でもないし、単純に上ってれば時間が掛かる……なら!

 俺は手先から伸びている糸を見る。体内の魔力と糸になってる魔力が手から伸びている感覚はある。恐らく行けるはずだ。俺は意識を手先に集中させ糸として出した魔力をそのまま戻すイメージを浮かべる。するとそのイメージ通りに糸を戻しながら俺の体は浮かび上がりそのまま屋上に飛び乗れた。


「よしっ、上手くい……おえっ」


 屋上に着いた瞬間、強烈な吐き気に襲われた。え、なにこれ。


 ──正気か貴様。一度魔法として出した魔力を引き戻すなど……正直ドン引きだぞ。

「え、俺今何したの。魔法関連抜いた例えで教えて欲しいんだけど」

 ──口から出した吐瀉物を再び呑み込む感じだ。

「……くっそ。聞かなきゃ良かった」


 必死にイメージを忘れて俺は走り出す。引き離されたがまだ何とか視界には捉えられてる。一度大通りの向こう側に移る必要はあるが多分追いつける!


 ──……おい、アリア。気づいてるか。時間だ。


 しばらく走った後、ドラグニールがそう切り出した。あいつらを見つけるまでに思っていたより時間を食ったらしい。だがドラグニールのいう時間は最初に行っていた一度集合の時間ではなく……。


 ──もうすぐ試合開始の時間だ。今戻れば試合には間に合う。恐らく試合に出られなければ、我等は討伐対象と見なされるだろう。

「……ああ。そうだな」

 ──あの小娘が死んだところで、我等の生死には関わらない。貴様が選ぶ道は決まっているだろう。

「勿論」


 ドラグニールの問いかけに、俺は走る速度を緩めずそのまま走り続ける。


 ──……それでこそだ。それでこそ我が認めた人間よ。アリア、少し魔力を借りるぞ。こちらは任せた。




          ***




「クラガ、いましたか!?」

「収穫無しだ。その様子じゃそっちも同じか」


 コロシアムの前、クラガとエリシアは落ち合ったがお互い本人どころか情報も得られなかった。


「二人とも、どうだった?」


 やや遅れて合流したレイだったが、首を横に振った二人の答えに肩を落とす。


「後はアリアだが……」

「アリア……そうだ!」


 クラガの言葉に、レイは思い出したようにコロシアムの方を振り向く。


『もうすぐ試合開始時刻だが、アリアの嬢ちゃんがちょっと遅れてるみてぇだ! お前等その元気そのままで待ってな!』


 吹き抜けの構造故、ドルガンの声が外にも聞こえる。


「事情が事情だ棄権になってもしゃあねぇだろ」

「ええ、そうですね」


 そういう二人にレイは逡巡し、やがて口を開こうとすると。


「なんとか間に合ったか」


 三人の元にアリアが合流した。


「アリア! どうだった、何か……おい待て」

「どうして貴方が……」


 そのことに気づいたクラガとエリシアは疑問を問いかけるだけだが、それで済んでいるのはこの二人だからだ。大してレイは既に腰の刀に手を伸ばしている。


「……信じられない。本当だったなんて」


 そこに居るのは間違い無くアリアだ。その姿に寸分の違いもない。だがそこから発せられる気配はアリアのものというにはあまりに攻撃的過ぎた。


「案ずるな小娘。我はあいつの代理で戦いに来ただけだ、中の小僧とな。貴様等はあいつの手助けにでも行ってやれ」


 それだけ言うとアリア──ドラグニールは三人に大凡の位置を伝え会場へと入っていった。

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[一言] ドラグニールの戦い! 分身とかできたんだ
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