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統合武道祭典・予選開始

 高揚。威勢。驕り。

 そこは戦いを前にした者達の気迫で溢れていた。


 円形の会場の周囲には四メートル程の壁があり、その上に観客席がすり鉢状に広がっている。

 アルプロンタ名物。コロシアム。


 祭りの目玉でもあるこの会場には既に出場者は勿論、観客席も満席を優に超える人が押し寄せていた。


「はー。すげぇなこりゃ。とんでもねぇ盛り上がりだ」

「ええ、本当。凄い人ですわね。こんな衆人環視の中、実力を出し切れるか……アリア? どうしました?」


 辺りを見渡して二人がそんな感想を漏らしてる中、うずくまっている俺に心配したのかエリシアが声をかけてきた。


「えっと……緊張しちゃって、えへへ」


 ぎこちない笑みでそう返す俺。

 いや人多くない? そりゃある程度観客も多いとは思ってたけど、めっちゃ多くない?

 元々人前に立つのは苦手な方だけど、こっちの世界で過ごす内に割と大丈夫になったかもって思ったが全くそんなことなかったようだ。


「お前が緊張? ハハッ、柄でもねぇなぁオイ」

「ちょ、なに馬鹿にしてるんですかもー!」

「だってよぉ、俺やエリシアならともかく、お前が今更人に見られてるからって緊張するタマかよ。なあ?」

「クラガ。流石にそれは言い過ぎ……でもないかもしれませんね」

「エリシアまで!?」


 エリシアにまで否定され割とショックだったが、お陰で少し緊張が和らいだ気がする。

 両手を一度強く握り、力を抜いて開いて指先の震えがなくなった事を確認していると、突如コロシアムを震わせるほどの歓声が上がり、驚いて上を見ると観客席の一角に作られた来賓席のような場所に一人の老人が立っているのが見えた。手には青い結晶を持っており、軽い咳払いが各所に設置された身の丈ほどの同じ色の結晶から発せられている。恐らくマイクとスピーカーの役割を果たしているのだろう。


『諸君。長らく待たせた。アルプロンタギルドの長を務めるユリウスである。今年も変わらず我が国での盛大な興行を催せたことは、国内外問わずここにいる皆の尽力のお陰だ。まずはその事に礼を述べよう。では早速ではあるが、ここに統合武道祭典コンバートル・フェスティバルの開催を宣言する』


 その言葉を皮切りに、割れんばかりの声が響いた。

 観客は立ち上がって手を叩き、選手達は雄叫びを上げ闘志を鼓舞する。


『おうおうテメェら、毎年毎年威勢が良いなぁオイ!』


 ユリウスに変わり前に出てきたのは、褐色の隆起した筋肉が特徴的なドワーフだった。


『オルシアギルドマスターのドルガンだ! 今年も俺が恒例の試合形式を発表させて貰うぜ! 準備は良いかテメェら!』


 ドルガンの言葉に更に膨れ上がった声が上がる。……真ん中にいたのは失敗だったかもしれない。盛り上がりに乗る前に鼓膜が心配になってくる。クラガは鍛冶仕事で大きな音に慣れているのか周りと一緒に盛り上がっているが、エリシアも少し困惑気味に耳を塞いでいる。


『今回の試合は一対一、なんの捻くれもない正真正銘真っ向勝負だ! 勝ったら進み、負けたら終わりのトーナメント戦! 準備は良いかテメェら!』


 ドルガンの口上に、コロシアムの熱気が更に膨れ上がる。

 一対一のトーナメント……視線が避けようもなく集まる奴だ。


 再び胃の痛みを発しようとしたとき、あることに気づいた。

 会場にいる出場者は俺達が来た時点で少なく見積もっても三百人。それからも増えてたから五百人は超えていてもおかしくはないだろう。一回戦ごとに半分になっていくとはいえ、いくら何でも時間がかかり過ぎないか?

 しかしその疑問は、すぐ解消された。


『で、だ。いくら何でもこの人数でトーナメントは何日かかるんだよ、そう思ってる奴もいるだろうよ。実際俺もそうだ。そこでまずは予選を始めるぜ! 早速今からな!』


 動揺する出場者をよそにドルガンが拳をあげると、フィールドを四分割するように地面に十字の白線が現れ、丁度境目に立っていた俺達が跨がないようとっさに避けると、線が光り半透明の壁を形成した。


「あっ」


 何も考えず避けてしまったが、クラガとエリシアと丁度バラバラに分かれてしまった。二人も同じようにやってしまったような表情を浮かべているのが分かる。

 予選の形式は分からないが、これだけ人数いて三人も残れないって事は無いだろうから出来れば一緒にいて協力できた方が良かったが……まあこの際仕方が無い。


『今からテメェらには既にトーナメントでシード権を持ってる奴らと戦って貰うぜ! ルールは単純、十分経って倒れてなきゃ本戦出場だ! もしそいつを倒せたなら倒した奴が代わりにシード権を得られるぜ! それじゃ早速、開始だオラァ!!』


 威勢の良いかけ声と同時に、フィールドを囲む壁の扉が開く重い音が響く。

 予選のルールを把握した俺達は一度壁越しに向き合い、拳を突き出して強く頷いた。ただそれだけで、お互いの意思は十分伝わった。そして背を向けると、我先にと雄叫びを上げ突き進む集団の最後尾に加わった。


 言っても二百人弱の最後尾だ。相手が何人だろうと、十分後って事を考えればあまり戦わずに済むかもしれない。

 そんな淡い期待を持ったのも束の間、直ぐ前を走っていた男が急に振り向き、そのまま斬りかかってきた。


「――っ! ちょ、いきなりなんですか! 相手は向こうでしょ!」


 虚を突かれて抜刀も間に合わず避けるのも間に合わないと判断し、ギリギリで両腕を交差させ手甲で受け止めた。


「あぁ? 分かってねぇな嬢ちゃん。こんな人数いるんだ、その相手ってのも余裕だろうよ。ならもっと人数減らした方が、後から楽だろうがよぉ!」


 更に力を込め剣を押し付けられ、その場に押し止められる。同じような考えの奴は他にもいるのか、そこら中で戦闘が始まっていた。


「へへっ、嬢ちゃんも可愛い顔に傷つけられたくねぇだろ? 俺のもんになるってんなら見逃すどころか、この後助けてやっても良いんだぜ?」


 ああもう生理的にキモいなぁ!

 男の下卑た笑みから顔を逸らしていると、ぐしゃりと俺の直ぐ後ろに大男が落ちてきた。


「は?」「え?」


 同時に間抜けな声を漏らす俺と男。周りの奴らも戦いの手を止めて落ちてきた男を見ていた。


 こいつ……どこから飛んできた? こいつに視界遮られてるから殆ど見えないけど、少なくとも前の集団の半分より前は確実だぞ……?


 一瞬の静寂、そしてそれを切り裂くように怒声と、悲鳴が前方から響き渡った。

 明らかに向こうには何かがいる。数十人を同時に相手し、怯えさせさえする何かが。


 そういえばドルガンはなんて言っていた? そいつを倒せたら……そいつ『等』じゃなくて?


 声の波が近づいていることが、ソレの接近を如実に教えてくる。

 俺の中には一人の姿が思い浮かんでいた。この人数を相手にしても涼しい顔で戦っていそうな、俺の師匠。


 声の波は勢いよく近づき、やがて止んでしまった。最後に聞こえたのは目の前の男が発した短い悲鳴だけだ。近づいてきたソレに顔面を掴まれると、そのまま乱雑に投げ飛ばされた。

 そうして現れたのは銀髪を靡かせる刀を携えた女性――、


「お、俺が当たりか」


 ――ではなく。銀髪の目つきの悪い、ヤンキーの様な男だった。

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