祭りの前日
アルプロンタに入った俺達を迎えたのは、正に活気そのものだった。
城門の前は大きな半円状の広場になっており、中央には入国者を出迎えるように女神の細工を施された純白の噴水が置かれ、その奥には中心の白亜の塔に続く大通りが敷かれている。
行き交うは多くの人、馬車。それらが運ぶ物。
言葉にすればアルガーンと同じで、年中を平均してみればあらゆる種族が集まるアルガーンの方がやや賑やからしい。
だが今アルプロンタは祭りの準備の真っ最中。まだ本番ではないというのに、既にアルガーンとは比べものにならない活気で溢れていた。
「おお、こいつはすげえな!」
「ええ。想像以上の賑わいですね」
クラガとエリシアが外の様子を見て目を輝かせて、後ろの馬車からも外の活気に負けない子供達の元気な声が届いている。
……とまあ、冷静ぶってはいるけど。
「わっ、あの噴水すごい! あの屋台美味しそうなの売ってますよ! あ、見てくださいよ、あの剣かっこいい! っていうかあの塔なんなんですかね!? とにかくかっこいい!」
一番はしゃぐ子の姿が先頭馬車にあった。
言い逃れのしようも無く俺だった。
アルガーンに初めて来たときは今まで見たことのない世界を実感しての興奮だったけど、今回のは何というか、初めて大きな遊園地に来たときの興奮に近い気がする。
「ふふっ。はしゃぐのも良いですけど、まずは宿に行きましょう」
馬車から降りると、直ぐにでも走り出しそうとでも思ったのか、エリシアが俺の肩に手を置いて笑いかけた。
いやまあ浮き足だってはいたよ? 顔にも出てたと思うよ? しかしそれは流石に子供扱いしすぎではないだろうか。
名残惜しそうに屋台群から目を離すと、渋々エリシア達に続いて宿へ向かった。
レイ達は別の宿に泊まるらしく停留所で別れてから数分。大通りから少し離れた、けれど十分広い道に面した宿……というよりホテルといった方が似合う白い外観の建物に着いた。
内装も意匠を凝らしたデザインが至る所に見られ、観光客、それも所謂羽振りの良い人間御用達のホテルのようだった。
「……なあ、ここであってるんだよな?」
「はい、ラウドさんから聞いていた所のはず……ですけど」
「ここ、一泊するだけでもかなりの額すると思いますわよ」
何度もラウドから貰った地図とホテルの名前を確認していると、流石に不審すぎたのか従業員が近づいていた。
話を聞けば、ただラウドが事前に部屋を用意していた。ただそれだけで間違っても何でも無かった。遠方のギルドからの参加者で、ギルドマスターが誘った者に関してはこんな感じに部屋が取ってあることはよくあることだそうだ。……にしても豪華すぎる気もするけど。
間違っていないと安心した俺達は従業員に続いて移動し、クラガは一人部屋、俺とエリシアは二人部屋にそれぞれ同じフロアだが少し離れた部屋に案内された。
室内も変わらず豪華ではあるが、エントランスなどの共用部に比べ落ち着いた印象を受ける内装だ。
スプリングの効いた寝心地の良いベッド。氷魔術を封じ込めた箱……というか冷蔵庫。冷水から温水まで調節可能のシャワー。そしてなにより――。
「水洗トイレ!」
ありがてぇ……ありがてぇ……。
思わず声に出して拝んでしまった。後ろでエリシアが明らかに不審な目で見てくるが気にしない。
ホテルに来る途中にショーウィンドウらしきものがあったし、技術としてはアルガーンよりもかなり進んでいるのだろう。
一休みしたところで、ケーデと一緒に装備一式を持ってクラガの部屋をノックした。
「…………あれ?」
「反応がありませんわね。入れ違いでしょうか」
「でも人の気配は……」
盗み聞くように扉に耳を当て集中すると、ギシ……ギシ……とベッドが軋む音が聞こえた。
……ふむ。
古今東西、男の部屋でベッドが軋む状況と言えば人様に見せられない状況が殆どだ。それは世界が変わろうと同じ事。安心しろクラガ。俺とて見てくれは完璧美少女だが男としての年数はお前より上。こんな時に入ってしまう愚行は犯さないさ。
優しい笑みを浮かべ扉から離れようとしたが、不意に当たってしまったドアノブが引っかからなかった事が、鍵がかかっていないことを教えてくれた。
……ふむ。
警備を怠らないことを教える為厳しさを与えることも、先輩としてやらればならないことだ。許せ、クラガ。
「はーいクラガ来ましたよー何してるんですかー!?」
わざとらしく声を上げノリノリで勢いよく突撃する俺とよく分からないまま付いてくるエリシア。そこで俺達は見たものは……めちゃめちゃ楽しそうにベッドの上で跳ねるクラガのあられもない姿だった。
「ごめんなさいって。クラガ、こんな良いベッドどころかまともなベッドこれが初めてレベルですもんね。仕方ないですって」
「いいよ気にしてねぇよ慰めんじゃねぇよ」
こんな感じで十分ほどの後、ようやく元に戻ったクラガに装備の点検をして貰っていた。
「まあエリシアの方はアルガーンで見てから使ってねぇから問題無ぇと思うが……アリアのも大丈夫だな。鍛冶場がねぇからどうしようかと思ったが、少なくとも明日は大丈夫だろ」
「よかった。明日は開会式の後、そのまま本番でしたっけ」
「確かそうでしたわね。例年開会式で種目を決められその日のうちに始めることで対策を取れなくして、本人の実力そのもので争うとか……」
「内容によってはそもそも有利不利とか出てきそうですよね」
「運も実力の内って事だろ。……よし、二人とも問題なしだ。んで、今日はどうするよ」
「そうですね……出店とかも出てはいましたけどお祭り自体は明日からですし、日も暮れてきてますし、何より長旅の疲れもありますしね」
ぐっと伸びをすると、二人も同意見だったようで同じように伸びをした。
「そうですわね。明日の本番に響いてもいけませんし」
「今日はここで飯を済ませるか」
「……めちゃめちゃ絶対そこらのちょっと良い店よりも凄いの出てきそうですよね」
何気なく呟いた言葉に、クラガとエリシアがゴクリと喉を鳴らした。
そして実際に出てきた料理や大浴場のあまりの凄さに目を張り舌鼓を打ちラウドへ行く請求額に衝撃を受けたのは、また別の話。





