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祭典への誘い

 目の前で武器を構え立っているのは、まるで影のような真っ黒な人型の何か。両手に逆手で構えた小刀も体と同じく黒く染まり、刀身は窓から差し込む日光を反射すること無く吸収しているようだ。

 勢いよく踏み込んできた影の横薙ぎの小刀を、体を反らして躱しそのままバク転のように手をつき振り上げた足で影の顎を狙うが、影は小さく身を引き躱し、再び空いた間を詰めようと再び駆け出す。

 着地した俺は直ぐさま両手を突き出し火球を三発横並びで打ち出し、中央の火球に続き身を潜めるように走る。影もそれを読んでいるのか、火球をギリギリの高さで躱すよう高飛びのように飛ぶが、事前に左右の火球を繋げておいた鋼糸を引き寄せ、影を押し潰すように挟み込ませる。――が、影の背中に突然羽が生えたかと思うと、そのままはためかせ急上昇し火球を躱した。


「おまっ、それはずるくね!?」

「ハッ。誰も人間体だけで相手すると言っておらんぞ。むしろ貴様は人間体じゃない相手の方が多いだろう」

「その通りだけど……その通りだけど!」


 実際間違ってないんだけど、途中で変身はやっぱずるくない!?


「これはまた……随分変わった訓練をしているな」


 地面に降りてきた影に悪態をついていると、訓練室の扉を開けてラウドが入ってきた。


「ふむ……。単純な命令だけを実行できる、おとりや陽動で使う影人形(シャンブルドール)を君の中の憑依体が操作念糸(マリオネツトリール)で操ることで、一人でも実践訓練を可能にしているのか。それに少なくとも君は対人訓練とは違い相手の生死を気にする必要は無い。なるほど、よく考えたな」


 興味深そうに俺と影を交互に見ると、難なく状況を言い当てた。

 すっげ。分かるもんなのか。

  

「何か新しい訓練方法無いかなってずっと考えてて、それでようやく思いついたんです」

「なかなかの発想力だ。だがまあ、遠慮が無くなった分威力も上がっているようだな」


 ラウドはそう言って刀や魔法で傷ついたり抉れたりした壁や床を見ながら苦笑を浮かべた。


「す、すいません……」

「ははっ、気にするな。ここは訓練室、存分に使い込んでいけ。だがまあ、壁や天井に穴を開けることだけは勘弁してくれよ。しかしまあ、君がここまで考えるようになったのは、レイに言った目標の影響かな?」

「あ、えっと……まあ」

「ああ、すまない。別に馬鹿にしようとしているわけでは無い。寧ろ感心しているんだ」


 歯切れの悪い俺を見て誤魔化そうとしていると思ったのか、ラウドはやや慌てた様子で訂正してきた。


「魔物被害を無くす。冒険者になろうとする者は大なり小なり似たような目標を抱えているものだ。だがどうしてもその後どこかで無くしてしまう。自分の限界を感じてしまってな。だが君は逆だ。冒険者としての道中でその目標を拾い上げた。私の経験上、そう言った者は強くなるぞ」

 

 そう言って笑みを浮かべるラウド。そして何か思い出したのか、慌てて一枚の紙を差し出した。


「おっと、すっかり本題を忘れていたよ。君はアルプロンタという国を知っているかい?」

「いえ。聞いたことも無いです」

「ふむ。まあアルガーンからは遠く離れているからな。アルプロンタという国はここより西に位置する国でな、規模としてはアルガーンより遙かに上回る大国だ。そこで年に一度こういった催しが開かれるのだ」


 受け取った紙は、 その催しの申込用紙のようだった。


「コンバートル……フェスティバル?」

統合武道祭典コンバートル・フェスティバル。アルプロンタのギルドが主催で行われる武道大会……とでもいえばいいか。各地の冒険者は勿論、傭兵、兵士から荒くれ者まで。腕に覚えのある者が集まり武を競う祭典だ。勝者には賞金や数多くの名誉も贈られるが、何より各地の猛者と競うことが出来る。良い経験になるだろう」

「なるほど……」

「まあ直ぐに返事が必要というわけでも無いが、行くとなればそれなりの準備も必要だからな。明後日辺りには返事を聞かせてくれ」


 ラウドが訓練室を後にし、俺は寝転がって受け取った紙を眺めた。


「んー、どう思う?」

 ――どうと言われてもな。良い機会なのでは無いか程度しか言えんぞ。

「そりゃそうか。でもまあ実際、良い機会なのかもな」

 ――ここのところ我との訓練が主だったからな。初見の相手にどの程度やれるか計るには良いだろう。

「どういう形式かは分かんねぇけどな。でもまあ……」


 今の自分がどれだけやれるのか。レイやドラグニールとの特訓でどれだけ変われたのか。

 ――誰かを救えるくらいには、強くなれたのか。


「行ってみようかな」


 何より自分が、試したくてわくわくしてるんだ。

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