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俺の非日常/私の日常

 レイとの特訓が始まって、半月が過ぎた。


 最初の数日はあの孤児院で過ごしていたが、寝床や食事でお世話になりっぱなしと言うのも申し訳ないと食事分だけでもお金を払おうとしたが、孤児院が子供から受け取るわけにはいかないと拒否されてしまった。だからといってそのまま過ごすというもの気が引けるので、今はギルドから孤児院に向かうようにしている。

 ギルドの訓練室の方が設備も整っているしこっちでやればとも思ったが、レイがしょっちゅうギルドに出入りするとラウドがあまりいい顔をしないらしく、幸い孤児院までそこまで遠くもないので毎日通っている。


 そう、毎日。毎日朝から晩まで体で覚えろとばかりにただただレイと打ち合う毎日。最初の頃本人も言っていたが、レイの言葉で説明する能力が絶望的なせいもあって、何度か口頭での説明も試みた場面もあったが結局は実戦の中で身につける訓練となった。

 とはいえ、刀の使い方の基礎を口頭で説明する代わりの実戦だからか、確実に身にはついてきている。言語化能力が低いだけで教える能力はあるのだろう。ただその代わり毎日朝から晩まで猛特訓だ。


「どうりで最近見かけねえはずだ。ここんとこずっとあの女剣士と特訓漬けだったのか」

「えぇまあ……。クラガさんはどうしてました?」


 とある日。ラウドがレイに用があるとかで特訓が出来ず、俺は久しぶりにクラガと一階の酒場で昼食を取っていた。


「俺もまあ教官と特訓だな。後は腕が鈍らねぇよう武器打ったり……ま、いつも通りだな」

「まあそうですよね。……そういえば、エリシアさんってどうしてるんです?」

「あ? あー、そっか。あいつマジで言ってねぇのか」


 俺の質問に、クラガは溜息をつき誰に言うでもなく呟いた。


「えっ、何、エリシアさんなんかあったんですか?」


 クラガの反応に不安を覚え詰め寄ったが、クラガは苦笑を浮かべ手を払った。


「んなたいしたもんじゃねぇよ。ほら、あいつって貴族のお嬢様だろ。冒険者になる前に父親と本音で話し合ったらしくてよ。お前は家柄に縛られず自由に生きろってお許しを貰ったらしいんだけどよ、だからといって冒険者になるのは自由が過ぎるだろうって今絶賛喧嘩中なんだと。無用な心配はかけたくないからお前には言うなって言われてるんだけどな」

「あー……」


 正直よく冒険者になる許しが貰えたなとは思ってたけど、そこまでは貰えてなかったのか。まさか隠してたとは……。


「エリシアさんってああ見えて実は私たちの中で一番無茶しますよね」

「本当だぜ。普段しっかりしてる分余計に際立つよな」


 俺たちはひとしきり笑い合うと、ギルドに出入りする冒険者達に目を向けた。


 依頼を受け向かう者、終えて帰ってくる者。前者が持つ気合いや闘志、希望を持ったまま帰ってくる者は、果たして全体の何割だろうか。いや、そもそも帰ってこれないこと自体それほど珍しくもない。

 日本とは全く違う日常。世界に目を向ければ話は別だが、少なくとも俺の知る常識はこの世界にはない。この世界に来て半年は過ぎているが、自分でも多少は慣れたと思っていても、朝挨拶を交わした人が帰ってこない日常にはやっぱり慣れそうもない。


「まあ、仕方ないですよね。いくら危険が隣り合わせの世界だからって、身内がその危険にわざわざ近づくなんていい気はしないでしょうし」

「そりゃあな。冒険者になんてなるやつなんざ、良くも悪くも訳ありな奴だけだからな。そう言う意味じゃあ、あのレイっていう女剣士、あいつはなんで冒険者になったんだろうな。割と縁遠い感じじゃねぇか?」

「そう言われれば……まあ他人が踏み込むことでもないですしね」

「それもそうだ。よしっ、お前も今日は暇なんだろ? 刀の具合見てやるよ。ついでに防具とか諸々調整して、慣しに任務でも行こうぜ」


 クラガは切り替えるように声を上げてると、彼らしいからっとした笑みを浮かべて立ち上がった。俺も続いて立ち上がって、いつか当たり前になるこの世界での日常に向かった。




          ***




「……で、どうだ?」


 ギルド最上階のラウドの私室。窓を背にし座るラウドは、正面に座るレイに重く問いかけた。


「何が?」

「アリアに修行をつけているんだろう? 何か感じるか?」

「あの子自体はそこまで強くないよ。冒険者になれるかも怪しいくらい。けど内面が底上げしてる感じ」

「憑依しているものか?」


 レイの言葉に、ラウドは少し眉をひそめそう問い返した。


「それもあるけど、あの子の精神的な意味。見た目とちぐはぐな感じはする」

「まあ確かに、見た目からは想像がつかん程しっかりはしているな」

「総合してみたら、十分だと思う。特訓が終わった頃だったら迎えても良いと思う」

「そうか……」


 ラウドは目を瞑ると、重く溜息をついた。


「全く、嫌になるな。お前みたいな女だけでなく、あんな少女にまで頼ろうとするとは」

「たまたま私たちが役割をこなせる力を持っていただけ。気にすることじゃない」

「はは、お前らしい。……彼女の修行、いつ終わる」

「あと半月もあれば完成すると思う」


 ラウドはそれを聞くと、机においてある紙を手に取る。


「丁度いい。ここで見極めるとしよう」

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