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訓練開始

「刀は両手剣と比べても当然、両刃の片手剣と比べても軽い。重量に任せて叩き切るのでも突き刺すのでも無く、その切れ味を活かして斬る。けどその代わり、他のどの武器に比べても刀身は薄く脆い。正面から重い一撃を受ければ折れるし、堅牢な守りに下手に斬り込んでも刀身が耐えられない。そもそも普通に受けたら刃こぼれしちゃう。まずは受け止めるんじゃ無くて受け流す感覚を掴むところから」


 淡々と静かな顔で説明するレイ。対する俺はレイの猛攻を必死に受けていた。

 あらゆる角度から斬り込まれる剣戟を即座に判断し受け流すように如月で斜めに受け流す。その度に金属がぶつかる甲高い音が響くが、その音はレイが三回斬り込む内に一回鳴れば良い方だ。殆どが防御が間に合わず寸止めで終わっている。


 刀の戦い方を教えてあげると言われ数時間、他の武器との違いを簡単に説明され、以降はこうして刀の防ぎ方を身に染み込ませるべくひたすらレイの剣戟に対応している。


「ただ正直に刀を動かすだけじゃ無くて順手と逆手の使い分け、鞘を使うことも意識して」


 度々こうしてアドバイスをくれ、それを活かせる軌道で攻撃してくるから着実に身についているという実感は確実に得られる。ただそれを差し引いてもキツい!


 ダルナ初めギルドの教官の特訓は合間合間でフィードバックの時間が設けられるし、ドラグニールの特訓は何度も死ぬから精神的な摩耗は少しはあるけど、疲労という面ではそれ程無い。それに二つとも自由に動けるという点も大きいのだろう。それに対しこの訓練はひたすらその場でレイの攻撃を防ぐだけ。休憩が無いこともそうだが、ほぼ動かないと言うことが身体的に疲労している体を精神的にも疲労させてくる。


「はい。今日はここまで」


 体力の限界を感じた瞬間、唐突に攻撃の嵐は止み、ふらりと蹌踉めいた俺をレイが受け止めたところで俺の意識はゆっくり消えていった。



         ***



「ほう。こちらで目覚めたか」


 俺はドラグニールとの特訓の精神世界で目を覚ました。


「恐らく肉体の疲労は回復しておらぬが、精神は眠ったことにより回復してこちらで目覚めたのだろう」

「……肉体が回復してないならそのまま寝とけよ俺」


 社畜精神がまだ残ってたのか?


「しゃーない、折角だ。ちょっと相手してくれよ」

「全く。我をそのような扱いをするのは貴様だけだろうよ。……ふむ。たまにはこう言う趣向はどうだ?」


 ドラグニールは少し考えそう言い、何か呪文を唱えるとその巨体は徐々に縮み姿を変え、やがて俺と瓜二つな見た目になった。違いと言えば髪は赤く、尻尾と翼はそのまま残っている。……何か既視感があるな。


「先程までの訓練を活かすならこういった姿の方が良いだろう。武器は……これでいいだろう」


 ドラグニールが両腕を振り下ろすと、まるで剣のように爪が伸びた。


「ほれ。行くぞ」


 尻尾を地面に叩き付け速い初速を得、更に翼で加速し襲いかかる。

 振り下ろされる右爪に対し、俺はその勢いを利用するように如月を右手で逆手に持ちドラグニールの攻撃を右手側に滑らせ空いた右脇に左手で鞘を叩き込む。


「甘いわ!」


 しかしドラグニールは鞘の当たる直前、翼をはためかせて空中で回転し俺を吹き飛ばし距離を取った。俺は体勢を崩さないよう着地し、今の動作を確かめるように如月を握る右手を見た。


 今の動き……かなり自然に出来た気がする。前なら出来たとしてもここまで無意識的には出来なかったと思う。即日でこんな効果が出るものなのか?


「ほら、続けていくぞ!」


 次々と襲い来るドラグニールの連撃。同じ人型とはいえ飛行しているから対人の太刀筋とは違うのだが、それでも前までなら受け止めるだけだった防御が今では反撃に繋げる初動として機能していた。


 刀身での防御はあくまで攻撃の軌道を逸らすだけ。受け止めるのは鞘か手甲。ただ防ぐのでは無く次の行動への繋ぎをイメージして体を動かす。


 ただひたすらレイの攻撃を必死に防ごうとしていただけだが、ただ防ぐという一点に関しては一気に経験値が上がったようで、かなりスムーズに出来るようになっている。ただ……。


「――ふむ。受けの攻撃、いわゆるカウンターか。その動きは以前までに比べれば格段にあがっておるが、それ以外は全くだな。一度も我に当たっとらんぞ」

「そっちはまだだからなぁ。今までのやり方も、この受け方からの連撃って考えるとちょっと違和感あるし」

「明日の貴様に期待だな。ほれ、もう時間だ」


 その言葉を最後に俺の意識は落ち、そして目を覚ます。


「おはよう」


 ぐっと伸びをして、声をかけられた方を振り向く。

 思えばこうして起き抜けにおはようと言われたのはいつ以来だろうか。いや、もしかしたら初めてかもしれない。


「おはようございます」


 俺はレイに挨拶を返し、新しい一日を踏み出した。


 ……もうレイの部屋で寝ていたことに関しては考えるだけ無駄なのだろう。

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