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向日葵の園

 この世界には君主制や議会制、小国から大国など多種多様な国が存在するが、その殆どにギルド、もしくはそのギルドの支部が存在する。各国のギルドごとに独自の仕組みがあり全く同じというわけでは無いが、こと冒険者ランクに関しては大きな差は生まれない。


 Fランク。一番最初のランク。冒険者になり最初の二週間はこのランクに固定。その間の活動によってその後上がる事もある。

 Eランク。知能の無い小型魔物を単独で討伐可能。

 Dランク。知能の無い中型魔物を単独で討伐可能。

 Cランク。知能の無い大型魔物を小規模パーティの人数で討伐可能。単独の知能のある小型魔物を単独で討伐可能。多くの冒険者がこのランクに位置する。

 Bランク。知能の無い大型魔物を単独で討伐可能。単独の知能のある中型魔物を単独で討伐可能。

 Aランク。複数の知能のある小型魔物を単独で討伐可能。単独の知能のある大型魔物を単独で討伐可能。


 これがギルドから聞かされている冒険者ランク毎の目安だ。

 

 ランクはFからAまで。まあAが上限とは聞いていないから、あっても不思議では無い。でもあるならば何故目安は伏せられているのだろう。


 ラウドの口ぶりからすれば、Sランクは隠しているという訳では無いがわざわざ言う理由も無い。Aランクまでは単純に強くなればギルドの方からランクアップの知らせが入る。Sランクもギルドから認められてランクアップは同じだろうけど、じゃあSランクの条件は何なのだろう。あのレイの動きを見る限り、やはり強さは最低条件ではあるのだろう。それ以外の何か。何かを持っているか、何かの役割があるのか……。


「集中せんか」


 思考に意識を向けていたせいで反応が遅れ、ドラグニールの手に叩き潰された。一回死亡。


「なあドラグニール。あのレイって女剣士、どう思った?」

「そうさな。実際に戦ってみんことには正確には分からんが、我の知っている中でも上位に入るだろうな。特にあの速さ。あの速度は正直見たことが無い。本当に人間か?」


 ドラグニールの吐き出した炎息吹(ブレス)を避けきれず消し炭に。一回死亡。


「流石に人間だろ。後半は魔力探知で動き自体は追えても、結局は目では捉えられなかったしな。方向転換とか攻撃の瞬間にギリギリ見えるか位だったし。使ってる武器も多分剣って位にしか分からなかったし」

「恐らくそうだろうな。あの速度で意のままに動けるのだ、剣術や身のこなしも相当だろう」


 横に薙ぐ手を跳躍して避け、炎息吹(ブレス)開闢の焔(フラム・プレリュード)で相殺したが、その影から襲ってきた光線に貫かれる。一回死亡。


「面白いように誘導されたな。死にすぎだろう」

「……なんか癖になってきた」

「おい」

「冗談だよ」

「……まあ良い。死を恐れぬようになった分、多少動きはマシになった。明日は避ける事を重点的にするか」

「おう。じゃあまた頼む」


 それだけ言うと俺は目を閉じて、そして開いてベッドから起き上がった。


「……睡眠自体はとれてるから体力的には回復してるんだけど、絶対精神的には回復してないよな」


 だって実質徹夜だもん。連日徹夜だもん。寝てるけど。


 くだらない思考で頭を少しずつ覚醒させながらベッドから降りようとし、頭を壁にぶつけてしまった。


「いったぁ……。壁のある方間違えるとか、やっぱ疲れ溜まってるな……ん?」


 ぶつけた衝撃で寝起きの頭は一気に覚醒し、目の前の壁がギルドの自室の木製の壁では無く白い壁な事に気がついた。それどころか、内装、部屋の広さ、窓から見える景色、どれ一つ見覚えの無いものだった。


「……夢か?」


 でも頭まだ痛いしな。夢で痛みがするならもう俺発狂してる自信あるしな。

 自分の中でそんな整理をつけると、一気に冷や汗が吹き出した。


 いやいやいや待て待て! どこだよここ! 昨日確か普通に自室に戻って寝たよな!? うん寝た! じゃあここどこだよ!? 知らねぇよ!


 俺が慌てて状況を何とか把握しようとしていると、軽いノック音が響き扉が開いた。


「あ、起きてた」

「レイさん……?」


 部屋に入ってきたのはレイだった。服装こそ昨日の軽装とは違い白のシャツに黒のパンツのラフなスタイルだったが、服装くらいでは昨日の戦闘の衝撃は拭いきれず一目で分かった。


「おはよう。結構うなされてたけど、悪い夢でも見てたの? 朝ご飯出来てるよ」

「あ、はい。ありがとうございます……じゃなくて! あの、ここってレイさんの家なんですか?」


 窓から見える景色からして、アルガーン国内ではあるけどキルドのある中心地ではないだろう。この世界にもマンションみたいな集合住宅はあるが、部屋の感じからしてそうでもないように感じた。


「家というか、ここは私の自室だけど建物自体は私の家って訳じゃ無いよ」


 所詮直感だった。


「まあ私の家って言っても間違いでは無いけど」

「それってどういう……」

「来たら分かるよ。おいで」


 それだけ言い、レイは俺の手を握ると部屋から出た。


 部屋の外は長い廊下が一直線に伸びて扉が等間隔に並んでいる。およそ中央あたりに階段があり、俺のいた最上階から二つ下のフロアに降りた。


「レイおねーちゃんおはよー!」

「そのこだれー?」

「きれいなきんいろー」


 道すがら、俺よりも小さな子供達と何人もすれ違い、みんなが笑顔でレイに挨拶したり、見覚えの無い俺に興味津々に話しかけてきた。


 子供だけで無く大人の姿も何人か見え、誰もが忙しそうに動いていたが子供達と仲よさそうに接していた。


「着いたよ」


 一階の奥、食堂と書かれたプレートのある部屋に入ると、ギルドの食堂よりも一回り小さい、けれど同じくらい活気に溢れていた。


「子供ばっか……?」


 3列の長いテーブルに座って朝食を食べているのは、ある程度年の差はあれど、一番高くても俺と同じ中学生くらいの子供達だった。


 レイは挨拶する子供達に軽く手を振り返事をすると、朝食の乗ったトレイを二つ受け取り、一番端の席に座り、俺もトレイの置かれた向かいに座った。


 何も言わずただ食べるレイに俺も釣られ朝食を食べ、豪華では無いが安心する味を堪能し、食後のお茶で一息ついていた。


「――じゃなくて! ここどこですか!」


 しまった。つい流れに流されてのんびりしてしまっていた。


「言ってなかったっけ?」

「ないです」

「こらレイ。また黙って連れてきたのかい?」


 首をかしげるレイに、一人の初老の女性がトレイで軽く頭を小突いた。


「ごめんなさいね。この子いつも言葉足らずで」

「あ、いえ。えっと……」

「私はサリーナ。この孤児院、向日葵の園の院長、みたいなものかね」

「孤児院……」


 優しい笑みを浮かべてレイの隣に座るサリーナ。何となくそんな気はしていたけど、やっぱり孤児院なのか。


「最近じゃあどこの国でも冒険者や国軍が魔物退治をやってくれているけど、魔物の被害って言うのはそれでも無くならないからねぇ。国内で取り残された子ならいいんだが、国外だと魔物に襲われるのを待つだけ。そんな子を、レイに助けても貰っているのさ。あんたもそうだったのかい? 大変だったね」


 そうだったのか。てっきり可愛い子を誘拐してきたヤバい人って印象だったけど、そんな事情が……ん?


「あの……私も冒険者なんですけど……」

「え?」

「昨日ギルドの自室で寝た筈なんですけど、起きたらレイさんの部屋にいて」

「……レイ、説明しな」

「可愛かったから」


 明らかに怒りを含んだサリーナの低い声に、レイは当然の様に答えた。その後のサリーナの言葉は想像に難くないだろう。

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