任務終了?
「結局今回の原因は何だったのでしょう?」
洞窟内での戦闘も終わり、俺たちは洞窟の入り口に戻ってきた。
「あ? 何ってそりゃあ、ここに封印されてたドラグニールの魔力だろ」
気絶したオーガを背から下ろしクラガが当然のように答えた。
「ええ。大本の原因はそこなんですが、私が言っているのは何故その魔力が漏れ出したかと言うことです。私たちが来たときにはこの扉はオーガによって壊されていましたが、そもそもそれ以前から開いていた理由です。どうやらこの扉にはかなり強力な封印の魔法が施されていたようです。この形式は……魔物のみに特化した封印魔法のようですね」
オーガによって歪んだ扉に触れながら施された魔法を読み解くエリシア。
凄いな。そんなところまで分かるのか。最初にここから普通に出られたのは人間には作用しない魔法だったからか。
――ああ。その分我のように強力な魔物も封印できるようになったということだろう。
「それに……外からは種族に関係なく入れなくなっていたようです。ねえアリア。貴女が何故洞窟内にいたのか、ドラグニールと憑依関係を結べたのかは聞きません。貴女たちがここから出てきたとき、この扉は閉めましたか?」
「えっと……」
どうだっただろうか。あの時は憑依された激痛でそれどころじゃ無かったし……。
――閉めておった。こういう事態になることは想定できたからな。
「閉めてました」
「そうなると、この洞窟内にはアリアさん以外に人間がいた、ということになるんですが……心当たりはありますか?」
――あの洞窟内に足を踏み入れたのは貴様と我を封印した勇者だけだな。しかしそやつも我を封印して直ぐ洞窟を出た。その他に人間などいるはずも無い。無い……筈だが。
珍しく歯切れの悪いドラグニール。俺とその勇者以外にはいなかったという確信が、今回の事態によって揺らいでいるのだろう。
「まあいいじゃねぇか。事態は解決、全員無事。万々歳じゃねぇか!」
徐々に沈む空気を吹き飛ばすように俺とエリシアの肩に手を置きながらクラガが声を上げた。
「そうですわね。結果としては全部解決したんですし」
「そうですねっ。初めてのパーティ任務だって……あれ?」
初めてのパーティ任務。甲殻剣脚蜘蛛五体の討伐、及びその脚の採取。
「……採取した脚ってどこに置いてましたっけ?」
「……確か、オーガを追いかけるときに、その場に置いてきましたわね」
「その場所って……覚えてるか?」
流れる沈黙。伝う冷や汗。
夕暮れを迎える森に、三人の叫び声が響き渡った。
***
アルガーンのギルドの最上階。夕日が差し込む一室にノックの音が響き渡る。
「入れ」
夕日を背に座る男――ラウドが答えると、一人女性が扉を開けた。
年は二十前後。青い軽装の鎧に身を包み、腰には獲物を納めた鞘を携えている。長い銀髪を一つに束ねて後ろで纏め、その表情は髪色と青い瞳と相まって氷のような冷たさを抱かせる。
「レイ=ソルワード。帰投しました」
「おお、ご苦労。想定よりも早かったな」
「いえ、元々かなり余裕を持った日程でしたので」
淡々と読み上げるように話すレイにラウドはなれたように対応する。
「まあ掛けなさい。報告を聞こう」
「はい」
そう言って入り口からソファへと歩くレイ。ラウドも自分の机から移動しようと立ち上がったとき、ふとレイの後ろに小さな少女がいることに気づいた。
「……レイ。その子はどうした?」
どこか怯えた表情を浮かべた少女。以前にも新人の冒険者のパーティが迷子の少女を連れてきたことがあった。それはいい。彼らならいいだろう。だがレイに限っては、少女の反応を見る限り油断できないことをラウドは既に承知していた。
「可愛いから、拾った」
「元の家に帰してきなさい!」
ラウドの悲痛な叫びがギルド中に響き渡った。





