調査開始
「さっきから気になってたんですけど、なんで私のことちゃん付けで呼ぶんですか? そんな柄じゃないでしょう?」
「は? アリアちゃんがお前の名前じゃねぇのか? 前一緒にいた女がそう呼んでたろ」
オーガと一時的な協力関係を結んだ俺たちは森の中を当てもなく歩いていた。
「いや、ちゃんは愛称ですって」
「マジかよ」
こっちこそマジかよ。こいつ本気で驚いてるぞ。
俺とオーガがそんな他愛も無い話をしている後ろで、クラガとエリシアが顔を青く染めてこそこそと話していた。
「……なあ、さっきは勢いに任せてあんなこと言っちまったけどよ」
「……ええ。あの魔王オーガにあんなことを言ってしまうなんて……」
「俺らの冒険者人生、短かったな……」
よくは聞こえないが、何となくお葬式ムードになっているのは分かる。
オーガに対する恐怖心もあるんだろうけど、魔物と手を組むっていうこと自体に忌避感があるのだろう。俺がこの世界の人たちと一番ズレを感じる点だけど、やっぱりこの感覚は順応は無理でもその場しのぎであっても合わせるべきかもしれない。
ただまあ、正直魔物がどうかっていう区別ってあんまり分かってないんだよな。見るからに異形の姿をした魔物もいれば、ぱっと見は普通の動物のような魔物もいる。その反対もだ。なら襲ってくるのが魔物かと言えば、野犬とか、それこそ人間だって襲ってくる。ならば意思の疎通、なんてのは考えるまでも無い。大体、エルフやドワーフも作品によっては魔物という扱いだったし……ドラグニール、分かるか?
――下らぬ。我からすればすべて等しく狩る対象でしか無い。
そう言うやつだよお前は。エリシアに聞けば教えてくれるだろうか。多分この世界の常識みたいなことだろうけど、記憶喪失って設定だしそこまで不審がられないだろう。……まあ、その前に。
「オーガさん。一応聞きますけど、暴走している魔物の扱いは?」
「気にすんな。ああなった時点でもう戻らねぇ」
その言葉を聞き俺は如月を構え、オーガは右肩を回す。
「クラガさん、七時方向からガーゴイル一。エリシアさん、四時方向からコボルト三」
それだけ言い、俺とオーガは前方へ駆け出し、二人もすぐさま行動を開始した。
前方から現れたのは一つ目の巨人――サイクロプス――と羽の生えた巨大なトカゲ――バシリスク――。
「良いねぇ。力比べと行こうじゃねぇか!」
「じゃあバシリスクやりますね」
お互いの敵を確認し、俺たちは戦闘を開始した。
 





