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勧誘

「うぅん……」


 その日、俺はギルドの受付の側の掲示板の前で唸っていた。


 めぼしい任務がなくて唸っていたのではない。任務の張り出してある掲示板は隣、俺が今見ているものはパーティ募集用の掲示板だ。


 パーティとはそのままの意味で、冒険者同士のチームだ。人数に上限はなく二人以上で申請を出せば登録でき、受理されると個人の冒険者ランクとは別にパーティごとのランクがつけられる。そのランクはそのパーティの冒険者のランクによって決まるが、大体はその平均辺りのランクになる。つまり唯一自分のランク以下の任務が受けられる方法なのだ。


 もちろんパーティを組む目的はそれではない。本来の目的は生存確率の上昇だ。

 冒険者への任務の九割は魔物退治、もしくは魔物からの護衛。なりたての冒険者は当然、腕の立つものであっても何があるかわからないのが冒険者の仕事だ。人数が多い方が安全に任務を行えるのは当然の理だ。任務報酬は個人であってもパーティで合っても据え置きだから取り分は少なくなるけど、命あっての物種だ。とはいえ……。


『Bランク以上。回復魔法使える後衛職募集』『ランク不問。どんな戦闘スタイルも歓迎。笑顔の絶えないアットホームなパーティです』『Cランク以上。前衛職希望(イケメンに限る)』エトセトラ……。


 ろくな募集がねぇな。というか二つ目のはなんか見覚えあるな、元の世界で……。


 まあ有望な冒険者にはまずパーティからスカウトが来るし、有名なパーティには募集をせずとも加入希望者が詰めかける。それに言ってしまえば連携がものをいうパーティはロイやダイモ、ケーデ達みたいな元々の知り合いで結成されるものが多く、つまりこの掲示板はそれほど実績も実力もないけれど強い冒険者が欲しいパーティが、声がかかるほど強くもないがどこかの条件のいいパーティに入って安心感を得たい冒険者の仲介所なのだ。……何か不毛だな。


 自分で言うのもあれだが、俺の冒険者としての立場はAランクの前衛職。募集してるパーティからすれば優良物件だし、実際何度か声もかけられている。ただまあその時は特にパーティに入るって考えてなかったし、生存率って点で言えば死ぬことはないわけだし。


 ――ではなぜ急に考えを改めたのだ?


 死なないっていっても痛みは感じるからな。死なないせいで余計痛みは感じちまうし。それにそろそろ約束も守ってやろうかなと。


 ――約束? 誰とのだ?


 お前とのだよ。最初に言ってたろ? 外に出たい。外の世界を再び知りたいって。唯一の遠出がクラガの任務で行った洞窟くらいだしな。数日掛かりの遠征任務ってのはパーティでの受注推奨だし。まあ、そんなとこだよ。


 ――貴様、案外律儀なのだな。正直忘れておるのかと思ったぞ。


 案外とは失敬な。ようやくこっちでの生活にも冒険者っていう職業にも慣れてきたからな。とはいえ中々なぁ。


 パーティとはその場限りの協力関係ではなく、命を預け合う仲間だ。ちょっとやそっとじゃ決められないし、パーティによってはノルマとかあるっていうし、自由に行動できないってのもあるしなぁ。


 その辺り考えるとケーデのパーティに入れてもらうのが一番だろうし、多分入れてもらえるだろうけど……なんか善意に付け込む感じあるし。


「おや? これはアリアさん。パーティをお探しですか? でしたら是非我がパーティに!」


 掲示板の前でずっと唸っていると、後ろからやたらキザったらしい口調の男が話しかけてきた。


 俺は気づかれないようため息をつくと、にこりと笑顔を作って振り返った。


「あ、ロイヤードさん。こんにちは」

「ええ、こんにちは。ご機嫌麗しゅう。本日も可愛らしさと美しさを兼ね備えておられる」


 青いタキシードのような服装の金髪の優男。ギルド内では冒険者、職員、教官問わず女性人気が凄い男だが、俺は苦手だ。


 ロイヤードは芝居がかった手ぶりで挨拶して跪くと、俺の手を取り手の甲にキスをした。


 ああ鳥肌ヤバイキツイキツイ!


 俺は手を引きそれとなく後ろに回すと、手の甲を全力で拭きながらなんとか笑顔だけは保つ。


 ――流石の我も貴様の成長を認めざるを得んな。演技力だけだが。


 ほっとけ。ほんとほっとけ。


「ロ、ロイヤードさん。今日は任務には行ってないんですね?」

「ええ。冒険者といえど休養は必要ですからね。皆も休ませています。それよりもアリアさん、ここにいらっしゃるということはパーティを探しておられるのですよね? でしたら我がパーティは如何でしょう? 貴方でしたら歓迎いたします!」

「あー、えぇっと……」


 ロイヤードのパーティは人数こそさほど多いとはいえず中規模程度だが、その全てがBランク以上からなる精鋭集団としてギルドでは有名なパーティだ。入団にはリーダーであるロイヤードに認められる必要があり、その基準は強さ、そして何より美しさが求められるらしい。馬鹿かよ。


 実は過去に勧誘されたうち、ほとんどがこのロイヤードだったのだが、その時はまだパーティには興味がないとなんとか逃げていた。ただ今回はその言い訳はさすがに苦しいな。


 強いパーティだし、人数もほど良くてそこまで厳しいノルマがあるわけではないらしいけど……リーダーが変人だしなぁ。そうだ。


「パーティを探してるというより、パーティを作りたいなぁって思って。それでどんな募集があるのか参考にしようと思って」

「ほう。なるほど、そうでしたか」


 興味深そうにうなずくロイヤード。即興の言い訳にしては中々ではないだろうか。


「確かに強さという点であれば貴女はリーダーの器足りえるでしょう。ですがそれだけでは人を率いるということは難しいものです。何か芯になるもの、簡単に言えばどういったリーダーになりたいかですね、何よりも重要なのはそちらですね。それを学んでからでも遅くはないと思いますよ」


 予想に反してまともなことを言うロイヤード。そうだよな、変人だけどギルド有数のパーティの長だもんな。変人だけど。


 しかし困った。ロイヤードはこの機会を逃すつもりはないらしく、あの手この手で逃げ道を塞いでくる。

 

 本当にパーティを作るかどうかは置いといても、さっきのロイヤードの言葉にも一理あるし、いっそもう入ってしまうか……。


「どういったリーダーになりたいか、ね。そりゃあ確かに大事だが、やっていく中で見つけていくのもいいんじゃねぇか? それに」

「私たちは、アリアがどんな人か知っています。貴女にならついていきたいと思っています。ですので」


 半ば諦め交じりの決心をしようとした寸前、ロイヤードの後ろから二人の声がかけられた。聞きなれた、二人の友の声が。


「俺らをお前のパーティに入れてくれねぇか?」

「私たちを貴女のパーティに迎えてくれませんか?」

「クラガさん! エリシアさん!」


 そこにいたのは見慣れない大きな布袋を背負ったクラガと緑のローブで少し顔を隠したエリシアだった。

 パーティにって……まさか二人とも冒険者に?

 

「まっ、俺らまだ冒険者じゃねぇけどな!」


 えぇ……。

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