夜の中で
新章開始です!今回はちょっと短め回
草木も眠る丑三つ時……かどうかは分からないが、夜通し騒ぐかと思われた町の酒場も店じまいした頃。俺は夜の街を一人歩いていた。
別に夜更けに出歩く不良に目覚めたわけではない。そんな思春期はとうに過ぎている。ただ最近、夜の静けさに言い様のない不安を煽られる。
オーガとの戦闘で腹に風穴を開けられ、自分の魔法でとはいえ何十分も炎に包まれ、密着状態で三人に自爆されて。どれも少なくとも無事ではなかったが、本来それはどれも死んでいるものだ。なのに俺は今こうして平然と生きている。
それは俺のスキル、ドラグニールの召喚術で可能性を付与されドラグニールの血で開花させられた「不老不死」の力だ。
正直初めは半信半疑だったこのスキル。しかしこうなると信じざるを得なくなる。勿論このスキルのおかげで既に三度生き延びられたのだから有難いのだけれど、それがどうしようもなく不安になる。
噴水に腰掛け月明かりに照らされ水面に映った自分の姿を見る。
「不老不死」。死なない。老いない。永遠の命。
スキルの「不老不死」もその通りだとすれば、俺は一生、いや、永遠にこのまま生き続けるのではないだろうか。何年も何十年も何百年も生き続けて、知り合った人も死んでいって、一人残って。
夜はそんな不安にどうしようもなく襲われてしまうのだ。
――人間らしい、下らん悩みだな。
下らんって……。
――下らんさ。我は既に五百年生きた身。永遠に等しい時間を生きた先達として言ってやるが、常に何かを求め続けることだ。争いでも、友でも、愛でも、求め続けることだ。別れることが恐ろしいのならば、それ以上の出会いを求めよ。それを放棄した時点で、そやつは生物ではなく生きるモノと成り果てる。
言うは易し、ってやつだよな。理屈は分かるけどそうそう割り切れねぇよ。
――……まあ、徐々に慣れるだろう。それに……。
それに? それになんだよ。
――何でもないわ。さっさと寝床に戻れ。明日に響くぞ。
……そうだな。今から何十年も先のことを考えても仕方ねぇ。慣れるかどうかは分からねぇが……。
俺は意地の悪そうににやりと笑いからかう様に言った。
「少なくとも、お前はずっと一緒に居てくれるんだもんなっ」
――……さっさと寝ろ。そして下らん事は忘れろ。
さっきまでの不安も何処へやら。俺はにやにやと気分よくギルドへ戻ったのだった。





