迎撃
その日。俺はここ最近……いや、思いつく限りでは最高の気合を入れていた。何しろ俺の今まで打った武器の中でも最高のものの仕上げだ。
俺は机の上に置いた一振りの刀を手に取る。白銀の刀身は日にかざすと薄っすらと鉱石の青い輝きを身に纏う。最高の硬度を誇る鉱石は最強の切れ味を誇る刀に生まれ変わった。だがまだ未完成だ。
普通に造ってりゃあこれで完成だが、俺のスキル『鍛冶神の右腕』で打った刀はまだこの先がある。
このスキルで打ったものは最高の完成度になる……いや、正確には最高の完成度になる器になる。それがこの状態だ。つまり今のままじゃちょっとばかし出来がいいただの刀。真にその最高の域に至るための最終工程が『名入れ』だ。
ただの武器ではなく唯一無二の存在とする……ったく、神サマってのは自分のものに執着するらしい。
しっかし名前ねぇ。何でもいいといやぁ何でもいいんだが、アリアが使うものだしな。俺が適当に決めるよりあいつに決めさした方が良いか。
よし。そうと決まれば善は急げだ。あいつどうせギルドで暇してるだろうし簡単に捕まるだろ。
俺は刀を袋に入れ肩に担ぐと扉を開け。
「ぐほぉおっ!?」
外からいきなり突っ込んできた何かに壁に叩きつけられた。
***
「クラガさん、タイミング良いけど悪い! ごめんなさい!」
最悪扉ごと突っ込もうかとクラガの工房へ向かった瞬間、扉があきそのまま出ようとしていたクラガにタックルする形で工房内へと入ってしまった。
「つぅ……んだよアリアいきなり突っ込んで……てかなんだその恰好!」
「ああもううっさいな! 今それどころじゃ――」
「アリアさん、来ます!」
「――ないんです! 魔障壁展開版!」
俺は両腕を上にあげ、魔力を弾くバリアを工房の周辺に展開し、周囲から放たれた魔法を防ぐ。しかしバリアに当たる振動まではどうにもできず工房内を激しく揺らした。
「おわっ、おいなんだこれ!」
「説明は後! 私の刀どこです!?」
「これだけど、まだ完成してねぇぞ!」
「無いよりは! 使いますね!」
俺は半ば奪い取るような勢いで刀を取り、周囲からの攻撃が止まった一瞬の隙にバリアを解いて外に出、再びバリアを展開。
「……これで全員集合ってか」
外に出た俺を待ち受けていたのは、優に二十を超える白いローブの集団だった。
さっきまでの感じだと、魔法の威力自体はそこまでじゃない。それに基本は遠距離戦主体だろう、近接戦が得意なようには見えない。だったら!
俺は地面を強く蹴り一気に加速し、先頭のローブの男の懐に飛び込むと、鞘に収めたままの刀で殴り飛ばした。
「次!」
そのまま低い姿勢で走り、別のローブの男の後ろに回り込むと膝裏を蹴り姿勢を崩すと首を掴んでそのまま地面に叩きつける。
――おい。何面倒なことをしておる。その刀でさっさと斬ればよかろう。
「んなこと出来っか、よ!」
放たれた火球を刀で打ち返す。
流石クラガ特性のオリハルコンの刀。耐魔力ってすげぇな。
――下らん。奴らは貴様を殺す気だぞ。そんな奴らに手心を加えて何になる。
殺しちまったら俺も奴らの仲間入りだろうが。俺はそこまで落ちぶれちゃあいねえよ。
――……フン。貴様はそういうやつだったな。
そう言ったドラグニールの声は、呆れたような言い方だったのにどこか嬉しそうな声音だった。
俺は刀を握り直し再び駆け出す。周囲から放たれる魔法を鞘に収まったままの刀で打ち返し、近づいては鞘で叩きつけ気絶させる。しかしローブの集団が半分ほどに減ってきた時、それは限界を迎えた。
何度目かの火球を打ち返した時に限界を迎えたのか、発動者の懐に叩きこもうとした瞬間、鞘が砕け散ったのだ。
「しまっ――」
俺はとっさに刀の向きを持ち替え峰打ちをしようとしたが、直前で不自然に持ち替えたせいで勢いが削がれ殆どダメージを与えられなかった。
急いで距離を取ろうと後ろに跳ぼうとしたが、寸前で足を掴まれそのままうつ伏せに倒れてしまった。更に腕と体をそれぞれ別のローブの男に拘束され、完全に身動きが取れなくされてしまった。
しかしそれだけで、攻撃などを仕掛ける様子はなかった。
どういうつもりだ? 狙いがエリシアならさっさと俺を殺してエリシアの方へ向かうはず……いや、現に身動きが取れなくなった今でさえ他の奴があっちに向かう様子もない……まさか俺が今こんな格好してるから勘違いしてるとか……。
俺がローブの集団の意図に思案を巡らせていると、その全てが間違っていると気づかされた。
「――――」「――――」「――――」
なんだ?
俺を拘束している三人のローブの男達がが何か呪文を詠唱している。くそ、仮面のせいでよく聞き取れねぇ。けどこの感じ……攻撃魔法じゃない……?
俺が魔法の効果を考え、ローブの男達が詠唱を終えた瞬間。三人の体は急激に膨張をはじめ――。
「おいまさか!」
逃げ出そうとする間もなく、周囲は巨大な爆発に包まれた。





