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お嬢様の珍道中

「あら、その子が例の駆け出し冒険者? 随分と貧相ね!」


 アルガーンの中心部からやや東にそれた位置にあるギルドから西門までずっとラウドをジッと睨みながら馬車に揺られること数十分。下りた俺を迎えたのは従者と思われる男と、まるで高飛車お嬢様のテンプレートの様なエルフの女だった。


 後ろで編んだ長い金髪。気の強そうな翡翠色の目。すらりと伸びた手足とスタイルのいい体に、緑を基調とした高価そうな防具を纏い腰にレイピアを携えている。


「これはエリシア様、お待たせしてしまい申し訳ありません。こちらが今回護衛していただくアリアです」


 ラウドがにこやかに手もみをしながらエルフの女――エリシアに挨拶し、俺を紹介した。


 護衛していただく……上手いこと言ったな。誰が誰をとは言ってないもんな。嘘は言ってないな。


「はっ、はじめまして! 今日はよろしくお願いします!」


 俺は少しどもりながら挨拶し頭を下げる。どうよこの初心者ムーブ。少女ムーブを得る過程で演技力が大幅に上がってしまった感があるな。もしかしたら俺には演技の才能があったのかもしれない。


「ええ、光栄に思いなさい。この私の助力を得られることを。何よりこの私の初陣を共にできる幸運を!」


 エリシアは胸を張りどや顔でそう言った。


 すげぇ。お嬢様だ。本物のお嬢様だ。滅茶苦茶甘やかされて自信満々な高飛車お嬢様だ。


「……ラウド殿。本当に大丈夫なのでしょうな? 確かに実力を持った弱そうな見た目の者と無理を言いましたが……」

「ご安心ください。見た目こそただの少女ですが、彼女のランクはA。実力だけならSとも引けを取りません」

「なら良いのですが……」


 少し離れたところでラウドと従者の人がこそこそと話している。……まあそう簡単に信用は出来ないよな。仕方ない。


「あっ、UFO!」

「え、ゆ? 何ですの?」


 俺は声を上げながら勢いよくエリシアの背後の空を指さし、エリシアが後ろを見た瞬間に身体強化の魔法で瞬間移動の様な速さで従者の背後に移動。従者が振り向いて驚いた顔を浮かべたのを確認すると、すぐさま元の場所に戻った。


「ちょっと。何もないじゃないの。……というかゆー……ふぉ? ……って何ですの?」

「えっと……何でしょうね。あはは……」


 正直ここまで誤魔化す方法を考えてなくて愛想笑いを浮かべることしかできなかった。ああ止めて、そんな気の毒そうな目で見ないで。 


「た……確かに大丈夫そうですね」

「でしょう? ははは」


 ラウド気楽でいいなぁ……。


 そんなこんなで俺とエリシアは、森の中の薬草を採取するという名目の元、冒険に出発した……のだが。


「食らいなさい! 風刃(エアリアルカット)!」

「かっこいー!」

「震えなさい!  焔吹衝(フレイムブレス)!」

「さっすがー!」

「これで最後です! 疾風雷轟(エクトアバースト)!」

「えっと、これか!」


 待ってこれすっげぇ大変。


 次々とレイピアを指揮棒のように振り魔法を繰り出すエリシアに合わせ、まるで自分が繰り出したかのように思わせるように後ろからばれない様に後ろからその魔法を放つ。


 詠唱の瞬間までなんの魔法かわからないからかなり反射神経使う。ドラグニールがかなり多く魔法持ってたお陰で何とかなってるけど……それにしても。


「慄きなさい! 豪炎衝波(フレイストーム)!」


 火球を打ち出す魔法。他の炎魔法に比べ炎そのものの火力が高くちょっとやそっとの水魔法では無効化できないもの……なのだが。すぐ俺の同じ魔法で見えなくなるけど、レイピアの先から豆の様な火球が出るのが一瞬見えた。


 詠唱して出てるんだから豪炎衝波(フレイストーム)に違いはないし、使用者によって威力に差は出てくるけど……こんなに低威力で出てくるものなのか? それに一応これ……というかちょいちょいさっきから使ってる魔法もそれなりに上級のものだし……低級魔法で低威力ならわかるけど、仮にも上級魔法でこんなことがあるものなのだろうか。


 ――何をやっとるんだ全く。おいアリア、気づいているか?


 ああ。国の中からだけど、ずっと大勢に見られてるな。ちゃんとお目付け役が付いてるってか。甘やかしも度が過ぎてきてるな。


 ――阿呆。こんなもの縛り以外の何物でもないわ。

 

 え。それってどういう……。


「なんだか今日は調子がいいわね。いつもより威力が出てるわ! さあ、どんどん行きますわよ!」

「え、ちょっ、ちょっと待ってくださいー!」


 その後はもう任務そっちのけで、テンションの上がったお嬢様が満足するまで連れまわされるのであった。

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