最強を冠する
「アリア!」
クラガの叫びは、轟音にかき消された。
結晶人形の巨拳はアリアの防御などなかったかのように地面に叩きつけられた。
「おや。おやおやおやぁ? これは予想外ですねぇ?」
紫のパピヨンマスクの男は愉快そうな声と演技がかった身振りをして振り下ろされた拳の先ではなく、結晶人形の頭上を見ていた。
「風刃・全力版!」
刀が折れた瞬間俺は脚力を咄嗟に強化して後ろに跳んで拳をギリギリで回避して、そのまま上に跳躍。体を反転させて天井に着地し、蹴りだすのと同時に加減なしの風刃を手刀で放ったが、結晶人形に直撃した風刃は傷一つ付けることなく霧散した。
「ああもう! そんな気はしてたけど無傷はこっちが傷つく!」
俺は結晶人形の肩を足場に落下軌道を変更しクラガの側に着地する。
「クラガさん、大丈夫ですか!?」
「お、おおっ。大丈夫だ。お前こそ……」
「大丈夫だけど……」
俺は苦い顔を浮かべ結晶人形とその足元に転がる折れた刀を見る。
動き自体は鈍い方だから攻撃自体は躱せないことはない。けど問題はあいつの性能だ。結晶人形の性能は元になった鉱石に依存する。あいつの元になった鉱石は多分オリハルコン……魔法と物理に高い耐性、それに腐食耐性もだったな。……どう倒せってんだ。
「貴女、中々面白いですねぇ。先ほどの魔法の威力も上々。まっ、私の作品には及びませんがね。しかしこれは、最終調整以上の成果が得られるかもですねぇ」
「さっきからその物言い……まあ見るからにですけど、貴方がこの結晶人形作ったんですか? オリハルコンって魔力を通さないって聞いてたんですけど?」
「ふぅむ。まあ協力のお礼にお教えしましょう。魔力を通さないとは言っても、全く通さないというわけではありません。正しくは百の魔力の内五程度しか通さないです。更に魔力の分解性も高く、せっかく通った五の魔力も直ぐ無くなってしまうのです。ですのでその吸収性を踏まえて大量の魔力を一気に流せばいいというだけです」
男はくるくると回りながら大仰な身振り手振りでさも当たり前のことのようにそう言ってのけた。
一気に流せばいいだけって……つまりあいつの魔力が膨大も膨大ってことだよな? やっぱあいつ自身もとんでもねぇな。しかし……。
「……ところで、時間稼ぎの成果はありましたぁ?」
男はにたりと笑って大きく首を傾げた。
「……ばれちゃってた。クラガさん、なんかいいアイデアない?」
「いや時間稼ぎとか俺聞いてねぇし。そもそも戦闘は専門外だしな……」
「ですよねー」
ドラグニール。お前はどうだ?
――鉱石など相手にしたこともないしな。業腹だが分らんというのが正直なところだな。
……これ以上ない程万事休す。
「そろそろいいかい? 待つのも飽きてきたよ」
男がパチンと指を鳴らすと、結晶人形がゆっくりと動き始めた。
「ちっ。クラガさんは離れたところにいてください!」
言うが早いか、俺は地面を強くけり駆けだした。
倒せる方法は思いつかないけど、兎に角色々試すしかない!
結晶人形の横薙ぎの剛腕をジャンプして躱し、そのまま腕を足場に駆けて加減なしの身体強化をした蹴りをその頭部に叩きこんだ。しかし――。
「いっづぁ……!」
蹴りをした瞬間その足から強い痛みが発せられ、まともな着地もとれず地面に叩きつけられた。
とっさにその場から転がりながら離れ、回復魔法を放とうとした右足は赤黒く変色していた。
「そりゃあそんな全力でオリハルコンなんか蹴ったら折れて当然ですよねぇ?」
「だったら身体硬化込みで!」
――阿呆が!
回復魔法を終えた俺は硬化魔法を発動しようとしたが、ドラグニールの言葉で中断させられた。
――あれの硬度はあらゆる物理攻撃をものともしない程だ。そんなものに硬さで挑んだところでこちらが砕けるのが落ちだ!
「……くっそ。どうすれば……」
「はぁ……。最初は期待できるかと思いましたが、結局その程度ですか。これ以上は出なさそうですし、さっさと外の集落にでも行きましょうか」
「外……? ここの周辺にはそんなのなかったはず……」
「おや? ギルドの情報の更新も意外と遅いのですねぇ。最近ここの鉱石の精錬を目的にした鍛冶街……とでもいうのですかねぇ、そういうのが出来てるんですよ。単体相手のテストは何度もしましたが集団戦もやっておかないとですしねぇ」
最悪逃げようかと思ってたけど、逃げずらくなったな……待て、鍛冶? そういえば……。
「クラガさん! 報酬ってこのオリハルコンを使った武器でしたよね!?」
「あ、ああ! けどそれが何だってんだこんな時に!」
「ってことはオリハルコンは熱は有効ってことですよね!?」
「そうだが……いや待て! オリハルコンは熱で精錬が出来はするが、強力な炎魔法レベルの熱に長時間……それこそ数日間入れなきゃなんねぇ! それにあんなデカブツ相手じゃ何日かかるか……」
ドラグニール! 一番強い炎魔法は!?
――炎魔法はそれなりにあるが、有効だとなる熱量のものとなると……それにやはりあやつの言う通り直ぐ倒せる熱量のものは……。
……ドラグニール、もう一度聞く。一番強い炎魔法だ。お前に憑依されてそれなりに経つからな。教わってない魔法も自分のものとして認識できるものが増えてきている。あえて教えてないってことは何かあるんだろうが……そんなのは宝の持ち腐れだ。
――……知っておるくせにわざわざ我から言わせようとしたのか。ふざけよって。だがよい。それでこそだ! さあ唱えよ! 我が名を関するその魔法を!
俺は一度深呼吸をし、目の前で悠然と見下ろす結晶人形を見上げる。そして俺はその魔法を唱える。かつてこの世を手中に収めたという、その竜の名を冠する魔法を。
「邪竜黒獄炎!」
全開は気になる感じで終わりましたが、今回も気になる感じで終わっちゃいました。ごめんね!