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人造魔物

 朝の森特有の爽やかな匂い。小鳥のさえずり。鼻腔をくすぐる甘い匂いに俺は目を覚ました。


「おう。起きたか」


 ぐっと伸びをしていると、木製のコップと皿を持ったクラガが声をかけてきた。


「はい。おはようございます」

「ん。ほら食え」


 そう言ってミルクの入ったコップとフレンチトーストの載った皿を置くと自分の分を作りに戻った。


 え、クラガ女子力たっか。意外だ。


 一口食べてみると、外は程よくカリッと香ばしく、中はふんわりとろとろで、今まで食べた中で一番おいしいフレンチトーストだった。


「っ、美味しいっ!」

「そうか? 昔妹にせがまれて作ってたんだが、まだこっちの腕も錆びてねぇみたいだな」


 俺が目を輝かせていると、自分の分を持ったクラガが隣に座った。


「ん。まあ久しぶりだしこんなもんか」


 一口食べて感想を言うクラガ。よく見ると俺の分に比べてクラガのは少し焦げてるように見えた。


 新しいの作ってきたにしてはすぐ戻ってきたし、うまくできた方を俺に渡したんだろうな……なにこのイケメン。


 朝食を終えるとクラガはまた一人で片づけ、その間に俺は軽く体を動かし、それから結晶洞窟へ向かった。


 道中魔物に遭遇することもなく山の中を進み、やがてそれが見えてきた。


 ぽっかりと空いた横穴。まるで山が大口を開けているようだった。


「やっと着いたな」

「ギルドの情報だと中は明るいらしいですけど……普通に暗そうですよね」


 外から見える範囲ではごく普通の洞窟で、外の明かりもほとんど届いていないようだった。


「確かある程度進むと鉱石と光苔が出始めるんだ」

「なるほど……ところでやっぱりクラガさんも一緒に行くんですか? 中は結構危険みたいですし私一人の方が……」

「アホが。お前鉱石の採り方わかんのか? そもそも俺はお前みたいなガキよりもっとまともな冒険者の方がよかったってのに」

「まだ言ってるんですか。いいじゃないですか。ランクも実力も満たしてるんですし」

「そういう事じゃねぇって……ほら行くぞ」


 クラガは頭をかいてため息をつくと、先に洞窟に入ってしまった。

 

 ……やっぱ、昨日ドラグニールが言ってた通り、俺と妹さんを重ねてるのかな……って。


「ちょ、先に行かないでくださいよ!」


 俺は慌ててクラガを追いかけ洞窟内に入っていった。


 掌から小さな炎を出す魔法名もない単純な魔法で辺りを照らしながらしばらく進み、百メートルほど進むと、そこには幻想的な光景が広がっていた。


 群生しているかのように洞窟の壁に所狭しと生成された色とりどりの鉱石。その鉱石を輝かせる光苔。


 この光景を言葉で言い表したら、少なくとも俺の語彙力じゃ陳腐なものにしかなんねぇな……。


 それほどまでに俺はこの光景に心奪われていた。


「綺麗……」

「だな。話には聞いていたが想像以上だ。まあ手前の奴は装飾品用の鉱石ばっかだから用はないな。目的のオリハルコンはこの洞窟の最奥にあるらしい」

「確か奥に行けば行くほど貴重な鉱石があるんでしたよね」

「ああ。その分奥の方が厄介な奴がいるんだが……俺も鍛冶仲間から又聞きしただけだしな。お前のギルド情報の方が信用できんだろ」

「そうですね。えぇっと……」


 俺はギルドからもらった結晶洞窟の情報の載った羊皮紙を広げる。


 凄いな。洞窟内なのに文字がはっきり見える。明るいとは思ってたけどここまで明るかったのか。


「洞窟内にいる魔物は 結晶人形(クリスタルゴーレム)の一種類のみ。しかしそれは同種個体ではなく、洞窟内の同種の鉱石が一定以上生成されたものに自然に、または人工的に魔力が蓄積されることで 結晶人形(クリスタルゴーレム)へと変化する。その特性は元になった鉱石に由来する……だそうです。人形っていうのは、人為的に作って操れるってところからの由来みたいです」

「聞いてた通りだな。ついでに言うと、普通に鉱石採掘するより 結晶人形(クリスタルゴーレム)の鉱石の方が質がいいらしいぞ。……ただまあ今回はパスだな。オリハルコンさえ採れればそれでいい」

「そのオリハルコンが 結晶人形(クリスタルゴーレム)になってたらどうするんです?」

「それはまあないだろ。オリハルコンの特性は最強の高度、耐腐食性とかまああるが、唯一の特性は耐魔力だ。自然に蓄積はおろか、人工的にでも魔力を流せたなんて話は聞いたことがねぇ」

「なら大丈夫ですね」


 なんかフラグ的な台詞だけど、そういうのは物語の中だけだろう。


 それから俺たちは周囲を警戒しながら歩き、時々希少なのかクラガが鉱石を採掘のために立ち止まり。一時間ほど歩いた辺りで身を隠せるように生成された赤い鉱石の影で休憩を入れた。


「今どの辺りまで来たんでしょう……」

「この赤いのは……フレニウムか。耐火性が一番あるやつだ。これで作った武具はどんな炎魔法でも耐えるが、それなりに希少で高価なんだよ。それがあるってことはそこそこ奥まで来たんじゃないか」

「それにしても……」


 俺は一旦言葉を切り魔力探知の範囲を少し広げるが、何の反応も見られなかった。


結晶人形(クリスタルゴーレム)、全く見ませんね。ギルドの情報だとそれなりに発生しているからBランクの位置づけの洞窟なんですけど……」

「奥の方が良い鉱石があるからこれから出てこられる方がやっかいだが……まあ出てこないに越したことはないだろ」

「そうですね……。そろそろ行きましょうか」


 そうして再び歩き始め、しばらくすると魔力探知に奇妙な反応が現れ始めた。


「ん……なんだろこの反応」

「どうした?  結晶人形(クリスタルゴーレム)でも出たか?」

「いえ……魔力の反応はあるんですけど、洞窟の壁の中っていうか、鉱石の中っていうか……」

「多分自然に鉱石に魔力が集まってる最中なんだろ」

「そうですね……これだとそっちの反応に気を取られて使ってる意味ないかも」


 辺りから魔力の反応があるせいで隣のクラガの反応も薄っすらと反応しないほどまともに機能しないので、魔力探知を切って歩き始めた。


 そして。


「ここ……ですよね?」

「分かれ道も確認しながら来たからそうだとは思うが……なんだこりゃあ」


 辿り着いた洞窟の最奥。そこにあったのは直径五メートルはあろう、大きな窪みだった。


「これ……へこんだっていうよりここにあったのが取れたって感じですね」

「まさか……オリハルコンか? ただこんな量があったなんて聞いてねぇが……まさか他の奴らに先を越されたか?」

「可能性はなくはないですけど」


 俺はそこで思い出した。受付のお姉さんから聞いたことを。


 未確認の魔物が発見されたから気を付けてね。


 未発見の魔物が発見されたなら直ぐギルドの情報に追加される。しかしこのギルドの情報は最新で、この洞窟にいる魔物は 結晶人形(クリスタルゴーレム)の一種のみの記述……。


 最奥の窪み。見当たらないオリハルコン。新種の魔物と更新されないギルドの情報……まさか!


 俺は急いで魔力探知を発動しようとしたが――。


 ――アリア、後ろだ!


 ドラグニールの言葉と同時に腰の刀に手を添えながら振り返る。そこには二つの影があった。

 

 一つはごく普通の成人男性のようなシルエット。黒を基調としたスーツに紫の蝶を象ったマスク。


 そしてもう一つは……。


「おやおや。この子の性能テストから帰ってみれば、ゴミが二つ。困りますねぇ。ねぇ?」


 男は芝居がかった仕草で隣のそれに話しかける。


 透き通るような蒼。その鉱石で作られた巨人がそこにはいた。


「クラガさん……あれって……」

「ああ……オリハルコンだ」


 俺とクラガさんは一歩下がろうとするが、そこは既に壁。出口は正面にしかなく、そこは既に塞がれている。


「ふぅむ。男の方は戦うことが本職ではない。子供は……おや、少しは戦えるようだ。これは意外。まあそれまでですね」


 男は俺たちをじっと観察すると、それだけで言い当てられてしまった。


 ドラグニール……どう思う?


 ――あの岩人形もそうだが、あの男がより厄介だ。それこそいつかの鬼のようにな


 それってつまり……奴も四大魔王だかの一人の可能性があんのかよ。運悪すぎだろ……。


「性能テストの最終調整……にも満たないでしょうが、やってしまいなさい」

『グゥォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!』


 男が命じると、 結晶人形(クリスタルゴーレム)は洞窟内に響き渡る雄叫びを上げこちらへ迫ってきた。


「クラガさんごめん!」


 俺はとっさにクラガを蹴り飛ばし距離を取らせると、抜いた刀で振り下ろされる拳を受け止めようとした。


「馬鹿! そんな鈍らで!」


 クラガの言う通り、その拳はいとも簡単に俺の刀を砕き、地面に叩きつけられた。


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