交流戦-3
そんなわけで。
「これからしばらく共にするというのに、我々は互いについて無知すぎる。故の提案だが……流石に全員となると後の訓練に支障が出るな。ふうむ……」
アラヤは交流会の意図について簡単に説明すると、顎に手をやり周囲を見回す。
「ちょうど君たちは互いに思うところありそうだが、言い争った直後というのもな……そういえば、彼は君の仲間じゃなかったか?」
まるで不意に思い出したかのような口調でクラガ達から俺に視線を向けたけど、全部事前に説明済みだ。
つまりそういう流れで持っていくのね、了解。
「ええ、そうです。私のパーティのクラガですね」
私の、の部分を気持ち強調した返答にアラヤは頷いた。
「うむ。では冒険者側の代表は彼女にしよう。君も異論ないね?」
「お、おう……ん?」
異論を唱えるどころか事態を飲み込む隙もアラヤは与えず、クラガがようやく疑問符を浮かべた時には既に次へ移っていた。
「ではこちら側だが……アリア君、取れる時間は五分程度だが、どの程度やれる?」
どの程度、という要領を得ない問い。
ここはつまりあれだ、煽りポイントだ。
「えーっと、そうですね……」
考えるふりをして、ちらりと辺りを見回す。
冒険者側の面々は身内だ。つまり普段の俺を知っている。しかし騎士団側は俺の第一印象しかしらない。
……にやにやと舐めた表情がちらほら見えるとこから、まあ可愛い女の子以上の認識はされてないか。
――可愛いは必要か?
いるだろ。必須だろ。
……とはいえ。自分の団長と一緒に現れたり、さっきまで言い争っていた男のパーティの主っぽい口ぶりからある程度は察してもいいだろうけど……、これが新兵クオリティってことか。
――下らんな。で? どうするのだ。
そうだなぁ。ま、こんな感じで良いだろ。
「後ろ詰まってるなら、一分でいいですよ? そちらの訓練に影響させちゃっても申し訳ないので」
後ろでエクシアが吹き出した気配がしたが無視。アラヤも部下の手前、表情は硬いままだが握ってる手がちょっと震えてる。堪えてんなぁ。
「……すまない。どれくらいの力量の相手という意味で聞いたのだが、一分とは?」
ナイスアシストすぎて面白がってんなあ、この人。
「や、全員相手しても一分くらいですよ。二十人くらいでしょ?」
空気が変わるのを感じた。どこか弛緩したものから、張り詰めた糸が切れる寸前のような。
こんな可愛いことしか取り柄がなさそうな女の子から、こんな分かりやすい挑発を受けたのだ。最強の騎士団に所属している実績しかない新兵にはさぞ効いただろう。
「……ック。いいだろう。お前ら、彼女の相手をして差し上げろ。くれぐれも丁重にな?」
「ハッ!」
騎士団長の言葉に、許しに騎士達は声を上げた。……若干笑いが漏れてたな?
アラヤの言葉は彼らにとって、交流戦という名目でこちらが上だという事をしっかり教え込んでやれと伝わっているだろう。だから恐らくある程度は加減なしでくる。その証拠に、訓練用に刃引きされたものとはいえ剣や槍など各々の武器を構えだしている。相手はこんな幼気な少女一人だっていうのに。
――おい。まだ続けるのかそれ。
いや、だってよ。俺をちゃんと見た目相応に扱う連中って意外と久々で……。
ごほん。
とはいえどうするか。煽るのは煽ったし、あとは勝つだけでいい。んでもって勝つのも問題ないだろうけど、具体的にどう勝つ……っていうかどう戦うかだな。不知火は論外として、魔法使うのもなんかなぁ。無難に如月だけで……うーん。
唸りながらその場で軽く跳ね続ける俺。構えもしない姿に騎士たちはやや戸惑って視線をアラヤに向けるが、構わないと目配せすると先頭の一人、さっきまでクラガと言い争っていた男が駆けだした。
みるみる距離は縮まり、あと三歩で彼の剣の間合いに入る。
――そろそろ決めたらどうだ? 優柔不断が過ぎるぞ。
油断が過ぎるとは言わないのな。
あと二歩。
ま、これ以上悩んでも仕方ない。とりあえず――、
あと一歩。
俺が小さく跳ねるのに合わせて彼の視線が上下に追っているのは気づいていた。それにいつ武器を握るのかと手に注意を払ってることも。
だから着地の寸前に腕を上げ始める。これまでのパターンに、注意を払っていた手も加わり彼の視線は半ば強制的に上へと向けられ、着地の際に流れに逆らわず地に伏せるようにした俺の姿は、文字通り彼の視界から消えた。
「なっ!?」
あと零歩。
勝手に走ってきた彼の足を蹴り抜き、その場で跳ねて体勢を崩している彼の後頭部にもう一度蹴りを叩き込む。
――とりあえず、何も使わずやるか。





