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合流

 水の都キュリウス。騎士団と並んで称されるキュリウスの別名。

 北部の山脈から流れる大河は国を挟むように二股に分かれているが、その間には支流として細い河川が幾つかキュリウスに向かって伸びている。

 その水は国民の生活用水として、また船や水上市場という第二の商いの場として国に潤いを与えている。

 その光景、ひいてはそれを可能にする治水技術から称される別名だ。


 ……ま、そんな光景は全く見てないんですがね。


 今俺達がいるのはキュリウス騎士団本舎。

 用意された馬車に乗ってキュリウスに入国して、そのまま騎士団の本舎に来て、今だ。馬車も個室タイプの良いやつだったし、中では打ち合わせをしていたので外を見る余裕もなかった。騎士団本舎周辺は訓練場や宿舎等、しっかりした土地が多く必要という事で河川の類は置かれてないらしい。


 ……そのうち少しくらいは観光できる余裕もできるだろ。出来るよね?


「こちらが団長室です。申し訳ありません、騎士団本舎とはいえ他国の来客を迎える想定はされてないため応接室の類が無く、団長室までご足労して頂くことになり」


 先導してここまで案内してくれた女性が頭を下げる。

 ここに到着して最初に出迎えてくれた黒髪の女性、アリサスと名乗った彼女はこの騎士団の副団長だという。最強騎士団だというからむさ苦しい……もとい屈強な男ばっかりなイメージだったから面食らったものだ。


「いえ、今回はこちらの要望に賛同していただき、協力していただいている立場ですので、僕たちから伺うのは当然ですよ」

「そう言っていただけると助かります」


 アリサスに応えたのは俺ではなくエクシアだ。今回において彼は俺達冒険者側のリーダーの立場になっているので、基本的にはやりとりの矢面に立つのはエクシアになる。

 楽だ。


 ちなみに俺達全体の責任者としてはラウドになる。今は別行動してるが、キュリウスの政治面でのお偉方とのやりとりが担当。つまり俺には関係ない。

 楽だ。


 勿論今後の事を考えると楽な要素はあんまりないのだけど、変に色んなことを考えないでいいというのは精神的に大いに楽だ。


「アラヤ団長。お客様をお連れ致しました」


 ノックして呼びかけるとアリサスが扉を開ける。そこは武骨ながら丁寧に整えられた一室で、奥には窓から差す日を背に男が座っていた。

 大柄な、最強の騎士団長というイメージを具現したような男。鋭い目には強い意志が感じられ、部屋の圧が重くなった気さえする。


「……ご苦労。長旅でお疲れだろう」


 低い言葉と共に立ち上がり、ソファに座るように促す。


 俺達はやや緊張しながら移動し、アラヤとアリサスが向かいに移動し座る。


「この度はご協力いただきありがとうございます。また、我々の到着が予定より一日遅れてしまい申し訳ありません」

「いえ、そちらのラウド様も昨日ご一緒でしたのでそれほど問題にはなりませんでしたので」


 そう。実は俺達は予定よりも一日遅れの到着なのだ。理由としては至極単純で、移動途中にある崖を渡る橋が落とされていて大回りしたからだ。アルプロンタから出発したのは俺達だけで、他の国から出発した人たちはその道を通らなかったから予定通り到着出来たから、着日にズレが出来てしまったのだ。


「昨日は皆さん到着したばかりでしたので旅疲れを癒して頂いて、訓練には本日からの合流となりますが……特に問題なく行えているかと」

「ありがとうございます。では改めまして――本日より合流します、エクシア、アリア、ニナです」


 紹介され、俺とニナは頭を下げる。アリサスはそれを受け、


「キュリウス騎士団副団長のアリサスです。そして団長の――」

「いやー参った参った。まさかこんな時間かかっちまうとは。ギリギリになっちまったけどまあ間に合った、ろ……」

「アラヤ団長です。あ、横の大男じゃなくあっちです」

「えっ」


 急に入ってきた男に驚いてニナと揃って思わず振り向いていると、アリサスからのまさかの紹介に再びニナと声を揃えて振り返った。


「……えと、じゃあそちらの方は?」

「紹介が遅れた。我はゴルド、第一部隊の隊長と騎士団の訓練長を兼任している」

「……ゴルド第一隊長、お客様の前なのですから言葉遣いは気を付けるように」


 咎めるアリサスに、ゴルドと名乗った男はうむとだけ返した。


「……えっとぉ」


 まだ微妙に状況を掴みきれてない俺とニナだったが、アリサスから団長だと言われた男が咳払いし状況を進めた。


「アリサス、状況説明」

「はい。合同演習、並びにオークロード討伐協力である冒険者部隊の代表の方々が到着されましたのでお連れしましたが、アラヤ団長が不在でしたのでお待ち頂こうと」

「ゴルド第一隊長」

「今後の演習予定についての報告をしに来た」

「それは急ぐか?」

「否、本日中であれば構わぬ」

「分かった。俺はこれから彼らと今後の打ち合わせに入る。二人とも退出するように」

「分かった」

「……私もですか?」


 返事をし席を立つゴルドと、どこか不満げに返すアリサス。しかし答えず歩を進めるアラヤを見てその無言が問いに対する答えだと受け止めると、ゴルドに続き部屋を後にした。


「……さて、お待たせして大変申し訳なかった」


 そう言って座るアラヤ。

 彼の急な登場で最初に感じた重い威圧的な空気は一気に弛緩したが、代わりに今感じるのは軽く、薄いが張り詰めたような緊張感だ。

 

 ゴルドに比べれば線は細い体躯。しかしそれは比較対象がおかしいだけで十二分に引き締まった肉体であると服の上からでも、その振る舞いを見て容易に見て取れる。


 一瞬気が抜けたが、ここからが本番だ。俺は出来るだけ気づかれないように息を吸って気合を入れなおし――、


「相変わらず大変そうだねぇアラヤ」

「んっとにな、勘弁してほしいぜエク」

「またかよ!」


 勢い余って声を上げて机を叩いた。


「お、おおどうした嬢ちゃん急に」

「こらアリア、行儀悪いし失礼だよ」

「いやアンタらのせいでしょうが!」


 交互に指さした二人は、言葉とは裏腹に半笑いだった。もう確信犯じゃん。


「ごめんごめん、アラヤとは個人的な知り合いでね。経緯が経緯なだけに堅苦しいのが違和感あって」

「知り合いって……」

「ま、その辺はおいおいだな。改めて、俺がキュリウス騎士団、団長のアラヤだ。流石に他の目があるところじゃ話は別だが、そうでないならフランクにしてくれて構わんさ」


 そういい軽く手を振る彼に、俺はもう変に畏まるのをやめようと決めた。

 だって俺まだ可愛い女の子だもの。大人の世界の礼儀とか知らない年頃だもの。ニナなんて置いてけぼりでフリーズしてるもの。


「……とは言うものの、筋は通しておかないとな」


 不意にアラヤは表情を真面目なものにし、こちらに向かって頭を下げた。


「先ほどまでの部下の非礼を詫びよう。大変申し訳なかった」


 再びの急展開に面食らいそうになるが……部下の非礼? 部下ってことはあの二人だけど……なんか失礼なことされたっけ。まあゴルドが団長だとミスリードされるような振る舞いとか……?


 俺もニナもいまいちどれの事なのか掴みかねてるのは承知の上なのかアラヤは続けて口を開く。


「今回の俺たちの最終目標はオークロードの討伐。その経過として合同演習がある……っと、そうだエク、この二人にはどこまで話していいんだ?」

「この二人なら全部良いよ。なにせ当事者だしね。当事者といえば他の冒険者にも何人かはいるけど……ややこしいから、全部話せるのはこの部屋にいる人だけで」

「……へぇ、そうか」


 ほんの一瞬、アラヤの口角が持ち上がったように見えた。

 何の話だろうか……?


「話を戻すな? オークロード討伐と合同演習、二人は今回の話を聞いたとき何か思ったか?」

「何かって……」


 そりゃあ。


「やる意味あるのかなって」


 率直に思うのはそれだ。とはいえ、俺もニナも裏の目的は知っている。ギルティシア帝国と事を構えることになった際、騎士団と冒険者、国の公私ともいえる戦力が円滑に協力できるよう、そのテストみたいなものだ。


「そりゃそう思う。でも君たちはその裏の目的もしっかりしっている。しかし、それにしたってやる意味が……いや意味はあるだろうが規模が小さくないかって」


 そういうと、アラヤは立ち上がり窓の方へと歩く。そうして外をしばらく眺めると、振り返って俺たちに手招きした。

 何だろうと俺とニナは促されるまま窓際へ行き、外の風景を見る。


「おお……」


 眼下に広がるのは大広場。数えきれないほどの騎士が訓練に励んでいる光景だった。


「二人から見て、どう思う?」


 不意の質問にニナは困ったように、


「えと、私は回復くらいしか出来なくて、剣とかはさっぱり……」

「そうか。じゃあ君は?」


 問われ、多分これは正直に答えるべきだろうと思った。それにああは言っていたが、ニナも近いことは感じ取っていたはず。


「練度は高いと思います。世界有数の騎士団って言われるのも分かりはします。でも――」


 改めて見返す。答えを言う前の確認として。しかしやはり。


「世界最強の騎士団と呼ばれるには、実力が不足してるかと」

「…………」


 お、怒らせてしまったろうか……?

 その無言が怖くて恐る恐るアラヤの方を見返すと、そこにいたのは手で口を覆って笑いを堪えて小刻みに震えている姿だった。


「……っぷ。あっはっは! おいエク、いいなこいつ! 有望な人材じゃねぇか!」

「でしょ、あげないよ?」


 今日何度目か分からない置いてけぼり。

 涙目になるほど笑ったアラヤが落ち着いたのは暫くしてだった。


「悪い悪い。そう、二人の思った通り、今のキュリウス騎士団は弱い……弱いって言っても隣国と仮に戦争しても負けはしないが……かつてに比べれば弱い。比べられないほどに。だってそうだろう?」


 席に戻るよう促され、背後からため息とともに続く。


「来る日も来る日もガチで命の取り合いしてた頃と今は違う。求められる技能、必要な訓練も時代と共に変わる。それが隣国を亡ぼす力から自国を魔物から守る力に変われば、そりゃあ弱体化もやむなし……が」


 一度区切り席に着く。そうして肩を竦めると再び口を開く。


「世界最強、という称号はいつまでだっても付いてくる。だってそうだろう? そう呼ばれた時代から負けなしなんだから」


 実際は負けようにも争いが起こってないだけだけどな、と自嘲気味に笑う。


「とはいえ、弱いっていうのは当時と比べれば。現代基準でいうならまだ強者の部類だ。つまり――」


 言葉を止めると、俺に目を合わせてくる。続きを促してるのだ。

 ……えぇ、マジ? 流れ的にそういう事なんだろうけど、自分で言う流れを作ってたから言ってもいいんだろうけど、言いにくいなぁ。


「……意識だけが高くて実力がそれに見合ってない?」


 俺の答えにアラヤは我慢することなく声を上げて机を何度も叩きながら笑い、エクシアも隣で噴出していた。


「最っ高。嬢ちゃん、お前はそのままでいてくれ」


 それは駄目だと思う。


「まあそういうこった。意識的にも無意識的にも、程度の差はあれうちの団員は全員プライドが高い。そう、実力い、以上に、な……」


 最後の方思い出し笑いでまともに言えて無ぇじゃねぇか。


「だが、今回の演習は騎士団、冒険者とも、対等な立場で行われるべきだ。我々は君たちから、君たちは我々から。裏の目的を知らずとも、表の理由だけであってもそうあるべきだ。しかし先ほどの二人の部下の振る舞い」


 再び。

 アラヤの表情が引き締まる。


「ゴルド第一隊長は自ら名乗らず、また身分を誤解させるような振る舞いをした。アリサス副団長もそのことについては咎めていなかったし、何より君たちの事をお客様と、そう扱っていた」


 そう。


「それはどちらも、形は違えど君たちを対等には見ていない、そういうことになる。さっきの謝罪は、それについてのものだ。改めて、部下が失礼をした」


 そういって深く頭を下げる彼に俺は構わないでと言おうとして、ふと気づいた。


「……あれ、その辺の出来事ってアラヤ団長が来る前じゃなかったですっけ?」


 アリサスのお客様呼びはその後もあったとは思うけど、それ以外は彼の入室前だったと思う。


「ああ、それは」

「アリアもまだまだだねぇ」


 アラヤの言葉を遮ったのは、やれやれと演技交じりのエクシアだった。


「彼、ずっと僕たちの後ろにいたよ?」

「…………え?」


 ずっと後ろに?


「いつから……?」

「君たちが馬車で本舎についてからだな」


 最初から……?


 ドラグニール、気づいてたか?

 ――……いや、全く。


 平静そうだが、その実動揺していることが伝わる。人間として当然前しか視認できない俺と違って、意識体として全方位を知覚できるドラグニールだ。平常時にどれほどの精度で見ているかは分からないけど、この反応を見るにありえないことが起こっていたのだろう。


「折角だからもう一度、それらしい名乗りをしておこう。キュリウス騎士団現団長にして、唯一過去の世界最強世代と今なお張り合える男、アラヤだ。以後よろしく頼む」

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