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キュリウス騎士団

 石造りの武骨な、しかし粗雑ではなくむしろ緻密な技術で整えられている一室。


 窓を背にし机に向かうのは,、鎧のような筋肉を身に纏う巨漢の男だ。

 彼は一枚の紙を手にし、深く考えるように眉に皺を寄せる。その皺を解いたのは、正面の扉から響くノックと女性の声だった。


「団長、いらっしゃいますでしょうか。アリサスです」

「……入れ」


 低く響く男の返事から少し間を置き、声の主が部屋へと入る。

 女としてはやや高めの身長。後ろで短くまとめた黒髪や切れ長の瞳から、冷徹な雰囲気を纏わせている。


「……こちらにいましたか。何をお読みに?」

「例の件だ。……全く、面倒なことだ。アリサス、お前の要件は?」


 アリサスと呼ばれた女は正面に座る男と手にしている書類に目線をやり、少し間をおいて問いを投げた。対する男は空いた手で眉間を揉み、低く唸るような声音で答える。


「ええ、騎士団長宛ての連絡事項が幾つか……お忙しいようでしたら後でもいいでしょうが」

「大方、元老院のお小言だろう。放っておいて構わん……が、目を通すくらいはしておいてやろう」


 ため息交じりに言うと、男は手にしていた紙を机に伏せアリサスから書類を受け取ろうとし、


「……え、まだ続けるのこのおままごと」


 不意に背後から聞こえた若い男の声に、その手を止めた。


「あら、元騎士団長。いつからそこに?」

「今来たことろだけどね? あのね? 元じゃないからね?」

「失礼。ゴルドが座っていたものですから、ああ……とうとう下剋上が果たされたとばかり」

「え、何その待望のみたいな言い方……こいつが勝手に座ってただけだろ。いやというか何勝手に座ってんだよ」

「いいだろう。どうせそのうち我の席になる」

「誰が渡すかバーカ! ジッと白紙睨んで唸ってるバカにはもったいない席だよバーカ! ジジイになって死ぬまで誰にも渡さねーからな!」

「そんなお歳になるまで現役で面倒なお仕事をなさるのですか。流石ですね。私はさっさと引退して悠々自適な生活を送りたいです」

「我もだ。面倒ごとなど御免被る」

「一瞬で裏切んなよチクショー! っていうかお前はいつまで座ってんだ降りろ!」


 男は椅子を全力で、仕方がないとばかりに嘆息したゴルドが立ち上がるまで揺らし続け、


「……うげ、なんか生暖かい」


 座るなり顔を歪ませた。


「温めてやっておいたというのになんだその顔は」

「頼んでねぇよ……ん、アリ」


 男はアリサスに手を向け、書類を受け取る。


「やはり元老院からのお小言でしたか?」

「だろうな」

「なんでお小言限定なんだよ。なんもやらかしてねぇだろうが最近はよ」


 やがて読み終えると、男は書類を机に伏せ大きく伸びをした。


「あー……めんどくせ」

「あら、読み終えましたか。それで、どのような用件で?」

「あれだよ、あれ。もうすぐ他所の国から冒険者呼んで合同訓練とか色々するだろ? それ関係で色々」

「色々ばかりで要領を得ませんね。剣だけではなく語彙力も鍛えた方が良いかと」

「極秘情報やらなんやらあって洩らせねぇ内容もあんだよ」

「ほう。我らに対してもか?」


 ゴルドの低い声音の問いに、男は背もたれに身を預けて答える。


「おう。ゴルド第一隊長殿、アリサス副団長殿。団の二番手三番手にも話せないチョー極秘事項ってワケ」

「そんな機密情報を私に運ばせないで欲しいのですが。見ますよ? 見ませんけど」


 どっちだよ、と苦笑しながら立ち上がり正面に立つ二人に向き合うように回り込み、机に浅く腰掛ける。


「まっ、言えるところを要約するとアレだ。送られる冒険者のリストと詳細。それとまあ、最強の騎士団の力を見せつけてやれ、って激励のお言葉さ」

「……ああ、なるほど。そういうものでしたか」


 アリサスは興味なさげに目を伏せ、数舜の後にゴルドへ視線を向ける。


「ゴルド第一隊長。各員の現状の練度は」

「悪くない。今期の訓練課程を終えた新兵合流後の各隊の連携練度は上々。それぞれ差はあるものの、全隊実戦投入しても問題ない程度の練度にはなっている」

「分かりました。私としても概ね同意見です。各隊単位、及び騎士団単位共に昨年の同時期と比べ戦力としては増強できているものと」

「ん。ご苦労」


 ゴルドの報告を聞き、自身の見解も加え報告するアリサス。それを受けた男は机から降りると、背後の窓へと移動する。そこから見下ろした先には、数百単位の人間が訓練に励む光景があった。


「ゴルド第一隊長。現在のキュリウス騎士団は、最高の状態か?」

「うむ。現時点での練度としては、これ以上ない」

「ではアリサス副団長。現在のキュリウス騎士団には、この先は無いか?」

「いいえ。新兵はもちろん、各員がまだまだ伸びしろを秘めています。今の団員のままだとしても、キュリウス騎士団は更に強くなります」

「だろうな。では二人に問う。キュリウス騎士団は今、世界最強を名乗れるか?」

「はい」「うむ」

「なら来る合同訓練で、冒険者に強さを示せるか?」

「勿論」


 同時に聞こえた同じ言葉。それを受け、男は最後の質問を投げた。


「では示せるその強さは、最強のキュリウス騎士団の強さか?」

「勿論――」


 再びの同じ言葉。しかし、続く言葉は違うものだった。


「――そんなはずありません」「――無理だろうな」


 違うが、同じ意味の言葉だった。


「……だよなぁ」


 男は肩の力を抜き、倒れるように椅子に座る。


「全員よくやってはいる。一人一人が最強の騎士団、その一員であろうと自覚して日々励んでくれてはいる……が」

「無理もありませんよ。かつては国同士、人が人と常に睨み合い、戦争していたような時代です。それに比べ今は平和になり、我々の出番と言えば魔物退治程度」

「近頃東方面がきな臭いという噂も聞くが……言ってしまえばそれまでだ。必要とされる戦力が下がる以上、実際の戦力も下がるのも無理もない」

「……それもそうだけどな。一先ず、俺ら三人がいれば冒険者殿達に最強を示す、ってジジイ達のご機嫌取りは出来るだろ」


 あきれ顔で身を起こす男に、二人は眉をひそめた。


「我ら三人いれば最強を示せる、と?」

「御冗談を――私たちですら身に余りますよ。それが出来るのは貴方くらいのものです、アラヤ騎士団長」


 暫くして。二人が退出した部屋で一人、アラヤは再び書類を眺めていた。

 送り主は二人。一つは元老院から、お言葉が。

 もう一つは合同訓練の冒険者側の責任者である、ラウドからだった。


 内容は二つ。参加する冒険者の詳細。あくまでこちらは外部の人間だから秘匿されているものもあるだろうが、それを踏まえても詳しく書かれている方だろう。

 そうしてもう一つ。厳重に封がされ、アラヤ以外には読めないようにされた機密内容。その内容を再度確認し、そして今日一番のため息をし項垂れた。


「……俺の代でもやらなくていいって思ってたんだけどな、人同士の戦争」

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