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Extra stage-3:アリア

 邪竜黒獄炎ドラゴニック・ヘルフレイム


 俺のではない、ドラグニールの……ドラグニールだけの魔法。

 身に纏うのは黒炎。ドラグニールが使えばただいるだけで周囲を壊滅させられる、攻撃する、という事すら手を割く必要が無くなる絶対強者の魔法。

 しかしそれが耐えられるのはその肉体故。俺が使えばその身を焼かれ続ける。だからこの魔法は通過点。刀に宿す開闢の焔(フラム・プレリュード)、形を成して体に宿す装擬の焔(フラム・アラベスク)。どちらもドラグニールの黒炎ではなく俺の白焔に変え、俺が耐えられる焔に変える為の通過点。


 だが開闢の焔(フラム・プレリュード)は攻撃力特化。装擬の焔(フラム・アラベスク)は機動力特化、それもその真価は中長距離移動だ。近距離戦闘でも使えなくはないが、そもそもその機動力は後付け。身体能力が上がったのではなく、速く動くための装備を作り、それを使って速度を出す。故に初速は遅く、そもそも実行までに一手遅れる。


 邪竜黒獄炎ドラゴニック・ヘルフレイムはドラグニールにとっては炎を身に纏うだけの魔法。その炎は俺にとっては負荷でしかないが、しかし俺にとってはそれだけの魔法ではない。

 炎に包まれる事、通常の人間なら死に向かうだけだが、本来の持ち主を内に宿す俺には一つの副次効果を与えた。

 体温上昇による、時間制限付きの身体強化。外付け装備の上乗せではなく、底上げ。最高速度は装擬の焔(フラム・アラベスク)に劣るが、移動ではなく、その場での戦闘に限るならば、初速は大きく上回る。


「はああ……!」

「…………」


 白光が消え、黒光が闇夜を駆ける。


 先ほどまでは白光を中心に、黒い影が周囲から切り返すように何度も斬りかかっていた。しかし今は違う。黒光と黒影が並ぶように線を描き、時折金属音と共に線が折れ、再び交わる。


「ふっふっ……ハッ!」


 熱を逃がすように数度息を吐き、鋭く吐き捨て再び駆ける。


 ――アリア、まだ意識はあるか?

 任せろ。寒いって感じる暇もねぇし、焼いた痛みで目も冴えまくりだ。


 敵の黒剣の影響か、塞げなかった左脇の傷。傷が修復できないのならと、炎で無理矢理に焼き塞いだ。回復魔法じゃないから痕は残るけど、今はこれが最善だ。


 とはいえ長くは続かない。寒さだってそもそも冷えじゃなくて失血によるものだ。体調万全でもそんなに持たないのに、こんな状態なら数分持つかどうかだろう。


 だから速攻で決める!


 あれこれ考える余裕はない、ドラグニールの援護も無い。だから他の魔法は使えない。使う必要はない。

 余計なことは考えなくていい……!


 不知火を握る手に力を込める。鋭く息を吐き地を蹴る。


 停止の瞬間は無い。常に足を動かし、走り続ける。常に周囲から金属音が響く。それはこちらから仕掛けたものもあれば、仕掛けられたものもある。ぶつかり合う度に体のどこかに擦過や薄い切り傷が出来るが、この程度なら出血することもなく焼く塞がる。


 そうして幾度か斬りあう内に、相手の対応方法が変わったことに気づく。


 単純な移動速度では追いつかれ決定打を与えることができないと判断したのか、戦闘スタイルを移動戦から接近戦へ。速さを速度から手数への移行。


 やっぱりレイとは違う、足の速さだけじゃない。全ての動作にあの速さが乗ってる……けど、それは今の俺も同じ!


 今の敵の攻撃は接近戦を意識し、一撃ではなく連動に重きを置いたもの。こちらに向かう黒剣を受ける、弾く、躱す。どの手を選ぼうとそれが相手の次手に繋がっている。それは今まで以上に攻撃と攻撃の合間が無くなったという事だが、その連動故に一撃の威力も減っている。

 その速度と治癒不可能な傷を与える剣はそれでも脅威だが、しかし今の俺にはこっちのほうが対応できる。


 焦らず相手の攻撃を観察する。全ての攻撃が致命になっているとはいえ、それは結果論。速さと効果故だ。基本は威力を抑え次に続ける連動重視。故に次ぎどう来るか、という問題は冷静に見れば読める瞬間がある。


 こちらの残り時間も多くない。正直移動戦じゃなくなってほっとした。走らなくていい分、体力が温存できてる。そうでなければ既に俺は倒れているだろう。

 こんなギリギリの戦闘中だというのに、気が抜けそうになる。気が抜けると不知火を握ることも、そもそも立つことすらできなくなる。視界の端がぼやけて揺れはじめる。


 ――アリア、見極めろ。機会は幾つ見つけられようと、踏み込めるのは一度だ。

 任せろ。精々俺が負けないように応援してな。


 軽口で気合を入れなおす。


 そして、幾度かの剣戟の後、その時は訪れた。


 連動故の読める瞬間。そして同時に行けるという直感を得た。


 だから行った。


 眼前に迫る黒剣の先端。突きによる攻撃を避けるのではなく、前進する。突き刺さる瞬間、不知火を振り上げ黒剣を上へ弾く。そのまま足を止めず斬り返すように下へ。相手の胴を両断するコース。

 しかし相手は斬り上げられた力の流れに逆らわず仰け反るような体勢に。そのままでも腕を、軌道を下げれば首辺りは斬れるが、しかし相手は黒剣から手を放し、腕を下に振り地を蹴り仰け反りを加速。不知火の斬り抜きを躱しきると屈んだ状態で体勢を瞬時に整え、宙の黒剣を掴みそのまま俺のいる位置に振り抜く……が、しかし刃は空を斬った。


 黒影はいるはずの相手がいないことに僅かに動揺したように身を震わせ、そして振り抜いた黒剣を握る手に重さが乗ったことに気づく。


 視線をそちらに動かすと、そこにいたのは黒剣の先端に着地した俺の姿。相手が躱す瞬間、俺から視線が外れた瞬間に跳躍したのだ。

 相手がこちらを認識し、行動を起こす。その前に俺は動いた。


 不知火を低く構えたまま行く。剣上を行けるのは相手に対応されるまでの一瞬、一歩だけ。故に全力。

 そのまま行けばすれ違いざまに首を斬れる軌道だ。相手もそれを察したのか、一手遅れてだが躱すように身を屈めようとする。間に合うかどうかギリギリの間合い。

 そしてすれ違う瞬間、不意に相手の動きが止まった。それは致命を負ったからではなく、戸惑いによるもの。それもそうだろう。僅かとはいえ回避が間に合わないタイミングだった。しかし相手は首を斬らず、そのまま通り過ぎたのだ。不可解による僅かな停止。


 その一瞬で十分!


 着地し、振り向きもせず不知火を後ろへ突き刺す。握る手には確かに貫く感触があり、身じろぐ音も聞こえる。致命ではあるが、即死ではない――だから。


開闢の焔(フラム・プレリュード)!」


 身を覆う黒炎は白焔となって不知火を、それに突き刺された黒い影を内側から焼き、やがてその姿は消え失せた。


「……っぁ、はっ、はっ」


 倒れこむように力を抜き、荒い呼吸を繰り返す。


 擦れ違いざまに斬ってれば開闢の焔(フラム・プレリュード)は使う必要はなかった。それで結果的には斬れるタイミングだったが、躱される可能性も十分にあった。だからこその確実な方法だったが……もう体力も気力も、何もかもがゼロどころかマイナスだ。


 ――無事か。

 お前基準なら無事だろうよ。


 過度な集中が切れたことによる強い倦怠感と脱力感。極度の脱水症状による強い頭痛と眩暈。


「こん……のっ……」


 地面に突っ伏してるのは何となく嫌なので、気力を振り絞って仰向けに。


「あー……もう代われたりするかー……?」

 ――……うむ、恐らく奴が原因だったのだろうな。今なら我からの干渉も可能だ。

「んじゃ、宿まで帰っといてくれー……そんで水分補給と……あと傷もちゃんと治しといて……」

 ――無理をするな。一先ずは寝ておけ。……後はこちらで処理しておく。

「んじゃ……任せたわぁ……んが」


 かなりだらけた間延びする会話を打ち切り、そのまま眠気に身を任せた。


 目を閉じる瞬間、空に何かがいたような気がするが、認識する余裕もなく俺の意識は途切れた。




          ***




「……おい、もう降りてきてもよいぞ」


 気だるそうに身を起こし、空を睨むアリア――否、ドラグニール。その声に応えるように、一つの影が空からゆっくり着地した。


「あら。面白いものも見れたから帰ろうとしてたんだけれど……流石にバレてた?」

「こやつは夢中でそんな余裕なかっただろうがな。で、何者だ貴様」


 目の前に立つ姿は女性。緑の長い髪に鋭い目。どこか猛禽類を彷彿とさせるのは、その背と足故だろう。その背には白い翼。手は人のものだが足は鳥のような鋭い造形をしてる。


「見てくれはハーピィの類だが……確か奴らは人型とはいえ手と翼が一体であったろう。まあ亜種も含めればいるだろうが、魔力の質も、魔物にしてはあるほうだ」

「あーあー可愛げのない。あんたじゃ無くて寝てるお嬢ちゃんだったらもうちょっと楽しくお話出来ただろうにね」


 女はため息を吐き肩をすくめる。


「どうせ私が言わなくても察しくらいはついてるんでしょ? 上から目線はムカつくけど、あんたが相手じゃ正直否定できないしね……でも」


 やれやれと手を振りながら話していた女が、不意に言葉を止める。


「――今のアンタなら、意外と余裕……だったりする?」


 ニタリと頬を吊り上げドラグニールに視線をやる。その向こう、座り込んでいる小さな体の背後に無数の羽が突き立てるように浮いている。


「……まあ、そうだな。そのようなたかが羽一枚でも、この体には場所によっては致命だろうな。それに体力も魔力もかなり減っておる。防ぐことも、躱す……いや、逃げることすら難しいだろうな。精々――」


 パチン、と、女が指を鳴らす。それを合図に全ての羽が一斉に動き出し。


「――焼き落とすのが精一杯だ。全く嘆かわしい」


 始動の瞬間、全てが灰すら残らぬほど焼き尽くされた。


「……はーっ、ほんと可愛げない。あの変人マスクから聞いたときはもうちょっとよさげだったのに、来てみればいるのはあのドラグニール。貧乏くじもいいところよ全く」


 更に深くため息を吐き大きく肩を落とす。そしてそのまま背を向け羽に力を溜めながら、あ、とついでのように肩越しに振りむく。


「アンタ、ちゃんと手は打っときなさいよ、アレが出てきちゃったんだから。……まあ今回のは色んな条件がほんとにたまたま揃っちゃったレアケースだけど。先代とはいえ関係ないって放置して私たちに任せるんじゃないわよ?」


 その言葉に、ドラグニールは眉をひそめた。


「おい待て。貴様はアレが何か知っておるのか? それにその物言い……アレを我が知っておるというのか?」

「……は? 何言って……アンタ、ドラグニールよね?」

「ああ」


 女は振り向き、考えるように首を傾げ、一度頭を掻き、再び背を向けた。


「考えるのやーめた。こちとらただでさえこんな夜中に出てきて眠いのに、余計な事考えさすんじゃないわよ。そういう小難しいのはあのマスク野郎の仕事よ」

「おい待て」


 去ろうとする背に、今一度声を投げる。


「何よ。説明するの面倒って言ってるじゃない」

「この際アレの正体については今はいい。いずれこやつを通じてあのグリムワールにでも言わせよう。それよりも、我は名乗った。故に貴様も名乗れ」

「名乗ったって……私が聞いて返事しただけじゃない。まあ良いけど……ん、ねえ、今その子、寝てるのよね?」


 ふと気づいたようにドラグニールを――アリアの体を指さす。


「む? ああ、そうだな。間抜けに眠りこけておる」

「じゃあ今は意識無し?」

「当然だろう。この会話も全く聞いておらん」

「……なら嫌よ。二度手間になるじゃない。その子が表に出てるときに、名乗ってあげるわよ」


 そう言い残し、飛翔。アリアのソレとは比較にならない速度で、飛び去って行った。


「……全く。魔王というのはどいつもこいつもろくでもない奴等だ」 

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