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Extra stage-2:アリア

 黒い空間に、白い点が忙しなく動き回る。


 左に青白い刀、右に紅白い焔を宿す刀、背に同色の焔翼をはためかせ暗闇に輝く少女。その相手は、夜の暗闇よりも暗い、漆黒の存在だった。

 類似の魔法はアリアも使用できる。自身の影を実体として起き上がらせ、簡単な命令を与えたり操ったりするものだ。


 しかし目の前の存在は違う。実体化した影などでは無い。明確な相違点が分かったわけではないが、煩いほどに直感が告げているのだ。


 アレは違う、と。


 姿は人形。体格はアリアよりもやや年上程度。武器は黒剣。要素だけ見ればなんらおかしさは無い。だというのに、


「なんだこの気持ち悪さ、は……!」


 左上から振り遅される刃を逆手に持った如月で流し、不知火で迎撃。しかし流された黒剣の勢いに従い地に伏せる様に躱すと、背後に跳躍し距離を取られる。


「……ふぅ」


 一度力を抜き、息を吐く。


 ――大丈夫か?


 他意なく心配してくる事が少しおかしくて苦笑する。

 よし、ちょっとリラックスした。ただ、そうは言っても……、


「やり難いなぁ」


 色が真っ黒になっただけの人間、なんて認識は一瞬で無くなった。

 何も無い顔からは視線も息遣いも読み取れず、その体からは動き出しに連動する筋肉の起こりも無く、髪の靡きはあれど身体の前後さえ油断すれば判断が付かない。

 いつもより読み取れる情報が少ない。先読みが出来ず、ともすれば錯覚さえ起こす。故に後手を強いられる。


 その結果として、いつもより集中力と体力がどんどん削られる気分だ。

 それに、


「はああ……!」


 翼を羽ばたかせ加速。距離を一気に詰め二刀による連撃を行う……が、


「…………」


 羽ばたきによる僅かな上昇と下降。加速と急制動。それらも利用した絶え間無い立体的な斬撃も、しかしその全てを捌く。別方向からの二刀同時攻撃すら、体捌きを利用し黒剣一本で防がれる。


「この……っ!」


 やや力づくにもなった二刀の振り下ろし。しかし相手は斜めに剣を合わせて受け、一瞬力が緩んだ隙に振り上げで弾かれ、万歳の様な体勢になってしまう。


「しまっ……」


 ガラ空きの胴体。反射的に手を追い上に行った視線を下げ、相手の行動によって手の下ろし方を決めようとしたが、


 いない!?


 そこには地面しか映らず、


 ――後ろだ!


 振り返らず、翼を畳み背を隠す。


 この翼はあくまで焔を翼の形に成形しているだけで、翼の役割は果たすが実体は無い。しかし構成している魔力が濃いためある程度は盾としての機能も果たせる。


 しかし感じたのは、その翼になんの抵抗もなく刃が通る。そんな感覚だった。


「……っああ!」


 差し込まれたのは左翼。位置は脇辺り。角度からして左脇から右肩への斜めの斬り上げ。

 振り上げられた両手を強引に右へ下ろし、その勢いも利用し倒れ込むように回避。そのまま前転しターン。身を返し見上げる。


 月光を背に佇む姿。漆黒の姿は月の逆光で更に深みを増している。


「単純に……強い……いっつぅ……」


 ただやりづらい相手では無い。剣士としてもそもそも手練だ。


 立ち上がろうとするが、左脇に鋭い痛みが走る。


 多分間に合わなくてちょっと斬られたか……大丈夫、こないだ自分燃やした時の方がヤバかったし、このくらいなら動ける。そもそも死にはしない。


 そう言い聞かせ、如月を杖のように突き立て立ち上がる。

 脇から生暖かい液体が足に流れる感覚が気持ち悪いが、押さえちゃったら手が滑って如月が握れなくなる。


 ――まだ行けるか?


 出来れば交代して欲しいけどなぁ……。


 ――我としてもそうしたいが、何故か出来ん。貴様に代わり表に出ようとすると何かに阻害されるのだ。


 マジかよ。何かって……。


 ――分からん。アリアよ、状況が状況だ。引く事も考えろ。


 正直言うとずっと考えてる、よ!


 正面に黒煙を撒き背後への飛翔。更に勢いを殺さぬまま翼を地面へ叩きつける様に空気をぶつけ、更に足でも蹴る事で速度を更に増した状態で上空への飛翔。


 既に斜めの直線距離ですら十メートルは離れている。遠距離魔法があれば別だが、そうで無いならもう追いつかれる事はない位置関係だ。


 その筈なのに。


「……は?」


 黒煙から相手が飛び出したのは煙の動きで分かった。こちらへ向かっているが、あくまで地面を走ってだ。この前上へ飛べば問題ない。そう思った時だった。


 相手はそのまま跳躍。それはあくまで走り幅跳びの様なジャンプ。前よりも上へ飛ぶ事を主としているが、それでも一メートル程度だ。

 だが相手は、空中で更に跳躍。まるで空気を足場にする様に二度、三度跳躍し、そして、


「嘘だろ!?」


 俺の高度まで追いつき、身体を回して勢いを増した黒剣を二刀で受け止めて、そのまま地面に叩き落とされた。


「いっ……ぐうぅ……!」


 地面に落下した衝撃で血が吹き出し痛みが走るが、袖を噛み締め耐える。


 ――クソ、何なのだこの傷は! 塞がりすらせんぞ!


 ドラグニールも傷を治療しようとしてくれてたみたいだが、何故か効かないみたいだ。


 ……放置して傍観してるんじゃない様で安心だわ。


 ――皮肉を言う余力はある様だな。


 あるかなぁ……。


 と、言うかだ。

 何アレ。何で空中跳んで来れたの? いや、それもだけど……追いつかれた?


 翼の飛翔を利用した加速。そりゃあレイの速さには到底及ばないけど、逆に言えばあの速さ位でないとそうそう追いつかれないのだ。そういうスキルやならいざ知らず、そこらの加速を可能にする魔法程度なら追いつかれない自信がある。


 それに、追いつかれたのだ。


 直線距離なら十メートル。移動距離は更にある。俺は減速なんか無く、最高速維持。それに追いつかれた。つまり……。


「俺より速いのかよ……!」


 着地し、間髪なくこちらへ迫る。それはさっきまぇの速さではなく今の、俺の最高速度に追いついてきた速さだ。しかも斬り掛かり方さえ違う。


 これ、まるで前のレイみたいな……!


 高速で斬り掛かり、そのまま通り過ぎる。そのまま折り返しもう一撃。もう一撃。


 レイの速度には及ばない。ギリギリ目で追える、追えてしまう速度だ。


 レイは完全に目では捉えられない。故に視覚以外の全ての感覚を鋭敏にする必要があり、それによって対応出来る。しかしこの速さは目で捉えられる。故に中途半端に視覚情報に頼ってしまいレイほど他の感覚で捉えることに意識が避けず、寧ろ防御がギリギリになる。


 既にその場に縫い付けられた様に、全方位からの攻撃に動くことが出来ない。逃げる隙も、反撃に転ずるきっかけすら無い。


 今の俺じゃ速さが足りない……手数も……!


 不意に体が震え、力が抜ける。恐らく血を流し過ぎだ。体温も下がってるのか背中に煌々と焔翼が燃えるのに関わらず、寒気すら感じる。


 寒い……から、そうだ。


 思考がやや鈍化してるからだろうか。思いついてしまった。


 ……ドラグニール、ちょっと思いついちゃったから、やるわ。ダメだったら後は任せた。気合いでなんとかしてくれ。


 ――……正気か? 確かに今の形態よりも速度は出よう。傷も塞ぎようがある。……ある、が。


 ドラグニール、俺らは冒険者だぜ?


 迫る黒剣を如月で流し、そのまま相手の進行方向に投擲。相手は振り返ると同時に弾く。全くの無駄なようだが、しかし、隙は一瞬出来た。

 不知火を鞘に納める。魔具としての効果が切れ、焔翼も無くなり、周囲は一切の暗闇に染まる。


 やらなきゃ負け、やればちょっとは可能性あり……なら、やってやろうぜ。


 抜刀。


 瞬間、暗闇は照らされる。

 白炎では無く、黒炎に。


「――邪竜黒獄炎ドラゴニック・ヘルフレイム


 さあ、ギリギリ通るかどうかの、冒険だ。

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