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初めての冒険

「がっ……あああああああああああああああああ!!!」


 風穴の開いた腹を認識し、ようやくその激痛が襲ってきた。


 ――落ち着け! 貴様はその程度では死なん! 痛覚遮断の魔法も使った!


「まだ痛い! まだ痛いぃぃぃいいいいいいい!」


 ――やはり我からでは完全に遮断はできんか。それでもかなり軽減されてるはずだ! 気をしっかり持て! ……ええい! 宿主が錯乱してると我が表に出れんのか!



 俺が痛みにもだえ苦しんでいると、オーガは血の付いた手を払いながらつまらなそうに近づいてきた。


「んだよ。ちったぁ期待できると思ったのに所詮この程度か。やっぱガキは脆くてつまんねぇわ」


 オーガは俺の頭を掴み持ち上げると、怠そうに話しかけてきた。


「腹に穴開いても死なねぇ根性くらいは認めてやるけどよぉ。どうせならその根性俺に向けてくれよ。俺強い奴とやり合いたいだけなんだけど、ほんと碌なのいなくてさぁ……おい、聞いてる?」

「いた……い……い……」

「あー、んだよもう死ぬ前じゃん。一瞬でも期待できると思ったんだけどなぁ」


 オーガはため息をつくと、ゴミでも扱うように俺を後ろに放り投げた。


 ――おい! アリア! しっかりせんか!


 ……うるさいな。やっと痛みも感じなくなって眠いんだよ……。


 ――……ああそうか! ではそのまま眠りこけておれ! しばらく休めばいずれその傷も治るだろうよ!


 そうするよ……もう嫌になる……理不尽すぎるだろあいつの強さ……。


 ――あいつはもう追っていったからな。貴様は安全だ。


 そうか。あの化け物もう行ったのか……あれ、何か忘れてるような……。


 ――たいしたことではない。あやつは宣言通り、お前を殺したと思ったから残りを殺しに行ったのだ。


 ……そうだ。ケーデさん達が……あれからどれだけ時間稼げたっけ……頑張ればギルドに着けてるかも……。


 ――よいのかそれで。


 ……どうしろっていうんだよ。こんな状態なのに……もし行けてもまたおんなじだって……。


 ――……所詮貴様もその程度の人間か。我は貴様に一度は敬意を表したのだがな。そやつは命を賭して見ず知らずの者を守れるものだった。断じて仲間を見捨てるような人間ではない!


 …………。


 ――さあ、貴様はどうする。これが最後の問だ。


 ……ああ、ようやく冴えてきた。ダメだな、痛みってのはどこの世界でも投げやりにさせる。


 ――……ハハハッ! それでこそ我が敬意を表すに値する者よ!


 なあドラグニール。これからいう魔法、確か使えたよな。――、――、――。


 ――ああ。やはり貴様に憑依したのは間違いではなかったわ。




         ***





 ロイとダイモを浮遊魔法で浮かせながら必死に走っていると、一瞬後ろから突風が吹き抜け、次の瞬間私の前にオーガが立っていた。


「よお。まだこんなとこにいんのかよ。おっせぇな」

「そんな……まさか、アリアちゃん……」

「あ? ああ、あのガキか。腹に穴開けて死んだぜ。期待外れだったわ」

「いや……いやぁぁぁあああああ!!」


 私はその場に座り込んで叫んだ。


「うっせ。今回ははずれだったなぁ。まあ当たりだった記憶ほとんどねぇけど」


 オーガは私に一切の興味を失ったのか、それとも初めから持っていなかったのか、独り言を話し始めた。


「一番いいのは他の魔王連中とやり合えたらなんだけど、まともにやってくれねぇんだよなぁ。この辺にやべぇ竜がいるって聞いたからわざわざ来たのに結局ガセだったし……まあいいや。あっちの方いったらそのギルドってのがあるんだろ? 助け求めに行ったってことは強ぇ奴らいるんだろ?」


 オーガはちらりとアルガーンの方を見た。その時は私は情けなくも思ってしまったのだ。もしかしたらこのまま私たちを見逃してオーガはギルドに行くかもしれない。もしかしたらギルドの皆が倒してくれるかもしれない。


 そう思ってしまったのだ。


「じゃっ、やり合おうか。せめて少しくらいは抵抗してくれよ?」


 この化け物がそんなことをするはずがないのに。


 振り下ろされる拳が迫ってくるのがわかる。もう躱せない。防ぐ手段もない。……ああ、こんなところで終りなんだ私。


 恐怖に怯えぐっと目をつぶったけれど、なぜか拳が来ることはなかった。


「大丈夫? ケーデさん」


 さっきまでオーガがいた目の前にはこちらを向いてしゃがむアリアちゃんの姿があった。

 光り輝く金糸の髪。優しく笑う彼女は、とても神々しく、遠くの存在に思えた。




          ***




「大丈夫? ケーデさん」


 俺は少しでも安心させようとケーデさんの頭を撫でたが、ケーデさんは塞き止めていた不安が決壊したのか俺に抱き着いて泣き出した。


「……おいおい、おいおいおい、おいおいおいおいおいおい!! なんだお前! なんなんだお前! さっきぽっかり穴開けて死んだじゃねぇか! なんで塞がってんだ! なんで生きてんだ! なんで俺を殴り飛ばせんだ!」


 俺に殴り飛ばされたオーガは僅かな痛みを感じながら立ち上がりこちらに怒鳴ってきた。


「なんでもいいだろ。それにお前も実際そんな興味ねぇだろ」

「ああ! 死んだと思ったやつが生きてて本当は強かった! それで十分だ!」


 オーガはこれ以上ないほど楽しそうに笑った。

 やっぱりこいつは強い奴と戦えればいいだけの思考だ。戦い方も肉弾戦のみ。距離をとって遠距離魔法でチマチマ攻撃するのが本来最善手だけど、こいつほどの強さの奴は効果がないだろう。


 行くぞドラグニール。補正は頼んだ。


 ――任せろ。存分に暴れようぞ。


 違ぇって。言ったろ? 俺たちは冒険者だ。だからこれが――。


「初めての冒険だ」

 ――初めての冒険だ。


 俺はオーガに向かって飛び出し、オーガもこちらへ飛び込んでくる。


「オラァ!」


 俺は左手を突き出すと、オーガの力任せの拳を空中で滑るような動きをし躱し、代わりに俺の右拳をオーガの鳩尾に叩きこんだ。


「ガハッ……!」

「はっ、綺麗に決まったな」


 俺がやったことはダルナの劣化版だ。ダルナのような切れ味はまるでないが、ある程度丈夫な糸は出せる。俺が糸を出し、ドラグニールが操りオーガの体に巻き付けて拳を躱すように巻き取っただけ。

 同時に右手からも糸を出し、ドラグニールが右手に筋線維のように巻き付け通常の身体強化以上の力を引き出した。


 ――全く。我にこのような雑用をさせるとはな。


「いいじゃねぇか。おかげで一杯食わせたぜ」


 ――おい、口に出ておるぞ。


「おっと」


 慌てて口をふさぐ。俺は女の子俺は女の子。


「……いいじゃねぇか。いいじゃねぇかいいじゃねぇか! 最高じゃねぇか!」

「そりゃあこれで終わりだとは思ってないけど」


 むしろ元気になってない?


「いいなぁお前。武器にも魔法にも頼ってねぇ。まあ多少の小細工はしてるみてぇだが、面白ぇから大歓迎だ!」


 オーガは両手を広げ豪快に笑うと、ふっと真剣な顔になりこちらに向き直った。


「先ほどからガキと侮ったこと、詫びよう。名を教えてくれ」

「アリアだ。敬意をこめてアリアちゃんでもいいぞ」

「……はは、今はアリアと呼ばせてもらおう。だが貴様に敬意を表し、本気で行ってやろう」

「現行状態がいいなぁ……」

「抜かせぇ!」


 オーガは獰猛ともとれる笑みを浮かべ殴りかかり、俺もそれに応じる。


 俺が今使っている魔法はさっきの魔法糸と痛覚遮断と身体強化と物理軽減のみ。それらを俺が乱暴に発動しドラグニールがそれを制御する。ただそれだけだ。


 行き過ぎた肉弾戦主体の相手にこの状況で最も有用なのは、徹底的に対策した肉弾戦。


 オーガの拳を躱し、受け止め、受け流し、僅かな隙を作り殴りかかる。

 俺の拳に構わず徹底して殴ることに集中するオーガ。


 肉体的なダメージはオーガの方があるだろうが、制御してないとは言え魔法の同時連続発動と度重なる拳の回避。精神疲労はこちらが上回っていた。


「ウラァ!」

「フッ!」


 オーガの右拳を左腕で受け止め、俺の右拳を肋骨に叩きこむ。


 ミシリと嫌な音が左腕と肋骨から同時に響いた。


「ガッ……やるじゃねぇ――ぐぁ!?」


 俺が発動する魔法はさっきの四つ。それに加えてドラグニールには一つだけ魔法を頼んであった。

 俺が怪我したときに瞬時に治癒魔法を発動すること。


「流石に折れたら多少は怯むよなぁ!」


 俺は一瞬の、けれども大きな隙を見逃さずオーガを全力で殴り、仰け反った体を魔法糸で引き寄せ顎を蹴りぬいた。


 オーガは白眼を剥き、受け身も取らず倒れた。


「ぜえっ……ぜえっ……やった……やってやぐえっ」

「アリアちゃん凄い!」


 集中の糸が切れ一瞬で疲労が襲い掛かり息も絶え絶えになっていると、いきなりケーデさんに抱き着かれそのまま倒れた。


「凄い! 凄い凄い凄い!」

「ちょ、ケーデさんおも……くはないけど落ち着いて」

「いーや。お前は十分凄いと思うぜ?」


 その声に俺とケーデさんは目を見開いた。


「そんな……」

「……おいおい勘弁してくれよ」


 ついさっき倒れたはずのオーガが何もなかったようにそこに立ってにかりと笑っていた。


「そうそう怯えんな。もうやり合う気はねぇよ」

「……本当か?」

「マジマジ。今のままでもある程度強いけど、まだまだ本気で心ゆくまで戦えるってわけじゃねぇしな。ただかなーり見込みありだ。このまま強くなってまたやってくれや。アリアちゃん」

「……アリア”ちゃん”、ね。出来ればその日が来ないことを祈ってるよ」


 俺は苦笑いを浮かべ差し出されたオーガの手を掴んで立ち上がる。


「考え自体はよかったが、まだまだ腕に巻いた糸が弛んでるな。もっと引き締めりゃあいいとこ行くぜ」


 オーガは最後にそういうと、ひらひらと手を振って森の中へ消えていった。


 ……ほんと、嵐みたいなやつだったな。

思うように興奮する戦い描写できない悲しみ

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