交戦開始
次回から試験的に書き方を
一話4,000字前後から2,000字前後くらいに減らして更新速度を今よりも上げる方法にしてみます。
今までの方が良い、少ない方が読みやすいなどご意見あれば感想より頂けると幸いです。
薄暗い森の中。木々の隙間から僅かに月明かりが差し込むこそで、いくつかの音が響き渡る。
一つは木々のざわめき。風にゆられ擦れる葉の音。そしてそれを切り裂くような風切り音。打ち出された幾つもの矢が鋭い音を発しながら一点を目指す。
そしてその終着点で切り落とす少女達の音。周囲を囲むエルフによって繰り出される幾つもの刃。その隙間を縫うように襲い来る闇夜に紛れた矢。その悉くをアリアは単独で受けきっていた。
「ッ、アァッ……!」
常に二つの攻撃が同時に襲い掛かる連携に声を発する余裕すら無く、二つの攻撃を防ぐ為に一つを青い刀で切り落とし、一つの攻撃をその身で受ける。本来であれば直ぐに限界が来る状態であったが、それでも持ちこたえていられるのはニナに寄るものだった。
彼女の使用可能な魔法には攻撃性のものは存在しない。それどころか彼女が使える魔法はスキルによる回復魔法、その一つだけだ。しかし他の魔法とは一線を画すそれによって彼女はSランクの立場にある。事実、振り下ろされる刃を腕で──骨で受け止め、切り落とせないと判断した矢に腹部を貫かれても、次の動作へ支障出すこと無くその傷は消えている。
しかし治癒したため次の動作へと物理的な支障は無いが、その負傷により感じた痛み、精神的と肉体的な疲労までは消えることは無く、アリアの限界はそう遠くないところに迫っている。
現状においてアリアとニナには有利な点は無く、不利な点で覆われている。
先ずニナ自身に戦闘能力が無く、しかしニナの回復魔法が無ければ次の瞬間には敗北が決まること。
これによりアリアはニナを守りながら一人で全ての攻撃を対処せざるを得なくなり、更には彼女自身の攻撃の選択肢も絞られている。
一つは不知火が使えないこと。不知火はただの刀では無くドラグニールの魔法、邪竜黒獄炎が込められた魔具。抜刀の瞬間に邪竜黒獄刀が発動する。その状態では身に纏った炎は自身にもニナにも危害を与え、最速で攻撃対象以外には無害な炎の開闢の焔に変えようと、その一瞬が命取りになる。
しかしそれだけならニナの回復で立ち治せる可能性はある。しかし使用できない理由はもう一つあった。
それは戦闘が激化する前。ニナが懸念した一つのこと。
「アリアさん……多分これ、エルフの人達を殺したらダメです」
***
「あァ? どういうことだ!」
ヴォクシーラ国内、某所。
振り下ろされた剣を握り止め、引き寄せた身を蹴り飛ばしてガルシオは声を荒げた。
「だからガル、言ったとおり。僕たちは操られたエルフの人達を殺さずに、この事態を収拾しないといけない」
崩壊した酒場の瓦礫から壊れた柵を抜き取り、それでもって最小限の動きで剣撃を受け流しながらエクシアが答える。
「これはどう見てもガルのイシュワッドでの報告にあった帝国の洗脳魔導だ。でも国内の人間全員になんて一日二日で出来るわけが無い。それなりに長い時間かけて準備されてきたんだと思う。中にも外にもバレないよう、慎重に。それが今になって行動を起こした理由は……ッ!」
背後からの気配に振り向く。そこにいたのは大振りの戦斧を振り上げたエルフの青年。咄嗟に手に持つ棒を折り、交差させて受けようとするが、しかし質量が違いすぎる。なんの抵抗もなくへし折られ刃が鼻先に掠める刹那、
「おおおおおお!」
ガヴァールが跳び蹴りで吹き飛ばした。
「俺等が揃って来たからだろうな。ほら、棒きれよかマシだろうよ」
渡したのは誰かから奪い取ってきたであろう短刀。普段使いしている大剣に比べると使い勝手は大きく違うが、それでも棒きれを持つよりは幾らかマシだ。
「……ありがとう」
「ん? どうしたエクシア」
蹴り飛ばしたエルフが持ってた立派な戦斧を拾い上げ、振り返ると微妙な顔をしていたエクシアに問いながら担ぐ。
「いや、文句は無いさ。うん」
まるで冒険者を志した少年が持つ短刀の先端をツンツンと何度かつつき、振り返って構える。
エクシア、ガルシオ、ガヴァールが円を描くように背中合わせに立ち、いなし続ける。
「で、さっきの続きだけど。動き出した理由はガヴァールが言ったとおり、この国に僕らが集まったから。で、何故それが理由になるかというと……候補は二つあるけど、一つは君だよ、ガル」
「あ? んで俺なんだよッ」
左右から腹部を狙った槍突きを体を少し反らしながら一歩踏みだし、後ろに回した腕と背中で挟み込む。更にそれを支点とし、強く踏みだし正面から迫るエルフとしては大柄な男の顎を蹴り飛ばす。そのまま姿勢を低く着地し槍を抑え込んでいた手を放すと、勢いそのまま迫るエルフ二人の胸ぐらを掴み両者の額を力一杯ぶつけそのまま乱暴に前方へ放り投げる。
「イシュワッドでの一件。僕らは報告でしか確認できないけど、規模と内容は違えどあれも帝国による作戦。あっちはこの洗脳魔導とかいうやつの……まあ、実験とかだろうね。
あっちは対象は一人。こっちは小国とは言え国民全員レベル。洗脳と同時に転送みたいなこともさせてたみたいだからどっちが上かは早計かもだけれど、規模でいえばイシュワッドで調整して今が完成形、ってところだろうね」
「だからなんで俺がって聞いてんだよ!」
声を荒げるガルシオに、エクシアはほんとに分からないの? と半目になる。
「いや君、その時なにしたか思い出してみなよ。対象は戦闘能力皆無だとしても、転送された魔物の群れ……とうか軍勢レベルに単騎で、それもとんでもない戦い方したそうじゃん。帝国にしてみればイシュワッドは治安悪くゴロツキも多いけど、その分事件が起こっても紛れやすく絶好の実験場だったわけ。
そこで現れたヤベーやつ。なんだあいつは。調べてみればあいつレベルがまだいる集団がいるらしいぞ……ってなっても不思議じゃ無いでしょ。
そして今。改良した洗脳魔導でヴォクシーラを支配する作戦中に俺たちがここに集まった。これは好都合だって」
「……んなこと言ったって、あの時はああするしか」
「いや、だからあくまでガルが理由の一つであって、決してガルの”せい”ではないよ」
その場ではそうするしか無かったのだろう。少なくとも現地にいない自分に後からどうこう言う権利は無いと強く否定する。
「それでもう一つの候補だけど、それは僕らが生き残る可能性があるから」
「あ? 敵は俺等を殺そうとして動いてんだろ? ならその可能性があったらダメじゃねぇのか?」
「まっ、そうだはな。ならガルよ、お前、この状況はもうどうしようも無いか?」
ガヴァールの問いに、ガルシオはそれほど間を置かず答えた。
「まあエルフの奴らは他の種族に比べりゃあ強いだろうが、それでもそこそこだ。別に俺一人でもどうとでもなる……だがまあ」
言葉を濁したその続きをエクシアが代わりに答えた。
「その場合は皆殺しだよねぇ」
実際両陣営にはそれほどの戦力差があった。方法は違えど、この状況を生き抜く術は皆持っている。しかし結果としては全ての方法においてヴォクシーラの国民はその大部分を失う。するとどうなるか。
「大陸を左右に二分する大森林。そこに隣接してるのがこのヴォクシーラであり、その住民は戦闘のポテンシャルの高いエルフ族。もしそのエルフ族が壊滅すればヴォクシーラはもぬけの殻になり、帝国が西大陸を攻める前線基地になる。武力のある帝国にとっても強力な魔物の多い大森林超えは易々と何度も出来るものじゃ無い。だからこの地を支配してしまえばかなりの利点になる。そうさせないために各国の国軍とかを派遣するにしても、その国の守りが手薄になるし、出来たとしても直ぐ出来るものじゃ無い。どう考えても帝国が来る方が早い」
「……なあ、それもしかしてよ」
「そう。今のは僕らが生き残った場合だけど、逆……僕らがやられた場合でも成り立つ。僕らがやられる……つまりエルフ族……洗脳されて帝国側になったエルフ族が生き残る。それは実質、ヴォクシーラが帝国に従属するのと同義だ。しかもこっちだと、帝国からしてみれば僕ら暁の戦力を削ってヴォクシーラの戦力を手に入れる……ぶっちゃけ一番マズいパターンだね」
「なるほどな。だからこいつらを殺さずにこの事態にケリを付けるってことか」
「そうそう。だから……そろそろ限界近いんだけど間に合いそうかなエリシアちゃん」
僅かに振り向いた、男三人に囲われた中央に片膝をついたエリシアがいた。愛刀である木刀を突き立て柄に額を当て目を閉じている。エクシアの問いも聞こえぬほどの集中をしていたエリシアだが、
「合いました!」
目を見開き自身の魔力を木刀に集中させる。すると地面に突き立てられた場所から放射状に光が伸び、ある地点から光が蔦に変わる。その蔦は二種類の動きをし、一つは光の代わりに更に分かれて広く地を這い、一つは上──地上へと伸びエルフ達を絡め取り拘束する。そうした動きを繰り返し、少なくとも目に見える範囲のエルフは全て拘束された。
「よし! エリシアちゃんナイス!」
「流石俺の弟子だ!」
「……とはいえ魔力も種もあまり長くは持ちませんので!」
エリシアがガヴァールとの修行で学んだことは、事前の用意をどれだけ出来るか。他のメンバーに比べ純粋な戦闘能力で一段劣るガヴァールは、それ以外の要素でその差を埋めてきた。例えばあらゆる状況に対応出来る仕掛けを施した武具。例えば戦場になる場所にあらかじめ施した罠。エリシアが行ったのは後者だ。
修行の一環として、エリシアはヴォクシーラ中に自身の魔力で発芽する種を仕込んだ。勿論罠は気づかれないから罠たり得る。魔力、魔法に長けたエルフ族の地で気づかれない罠を仕込むという修行だったが、結果として想定外ではあるが本来の目的の機能を果たした。
「っ、させません!」
蔦を経由し微細な魔力の動きを感知し、先端を咥えさせるようにうねらせ魔法の詠唱を阻止する。
咄嗟の判断。しかし同時に無詠唱での魔法発動の可能性に気づき、重ねて蔦に魔力を流し性質を変化。周囲の魔力を吸収するものに変える。
「こ、れで大丈夫……かと……!」
「了解! じゃあここから急いで情報収集して対策練って行動するよ。ガルは皆に連絡。向こうが応答できなくても繋がるかどうかの確認だけでも。ガヴァールはイシュワッドの報告踏まえて現在の状況推理と対抗策立案。俺はその材料集めに周囲の様子を確認する。エリシアちゃん、拘束は後どれくらい持つ?」
エクシアの迅速かつ適切な指示。二人は即座に動き、問われたエリシアは、
マズいですね……想定以上に魔力を食われます……。操られてるためか魔法による行動が下がっているのが救いでしょうか。本来でしたら私一人で全てのエルフの魔法を阻止するなんて出来るわけありませんもの。けれど……それを差し引いてもこれは……っ!
「あと、十……」
「よし、四分で情報収集終了。五分で立案。一分で行動開始──」
「……秒です!」
「中止中止! 五秒で準備して全力離脱!」





