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ヴォクシーラと彼らの任務

 ヴォクシーラ。

 大陸を東西に二分する大森林の傍に位置する小国。国土面積こそ他のギルド加盟国と比較すると劣っているが、総合した国力という面では引けを取っていない。

 自然豊かな国土から作られる農産物や大森林から得られる産物。以前まではこれらはあくまで自国民のためのものだったが、ギルド加盟により輸出入の増加、また多国からの人の出入りも増えたことにより主力産業となる。しかし多国からのヴォクシーラの評価は農業国家というわけでは決して無い。

 傍に位置する大森林。そこは危険な魔物が跋扈する危険地帯。他のギルド加盟国は初心者冒険者のために近場に低ランクの任務エリアを用意しているが、大森林のエリアランクはAと設定されている。さらにヴォクシーラの周辺にはそれ以外の任務エリアが存在していないため、必然的に任務の多くが大森林エリアのものとなってしまう。しかしヴォクシーラの主力産業には大森林産の輸出物も多い。つまりヴォクシーラの冒険者は多国の冒険者と比較すると総じて能力が高い。その理由は複数あるが、最大の理由はヴォクシーラ最大の特徴と同じ理由である。


 ヴォクシーラに訪れた者、訪れたことが無くともその国を知っている者にどんな国かと問えば全員が同じ答えを言うだろう。エルフの国だと。


 今でこそ西大陸全土に存在するエルフだが、かつてはこのヴォクシーラ周辺の土地にしか存在していなかったという。そして多種族と比較したときのエルフの長所だが、単純な身体能力の高さもあるが、特出すべきは空間把握能力と魔法適性の高さだ。

 身体能力と空間把握能力は森の中での戦いに大いに寄与する。相手が魔獣型であれば必須とも言える。更に多くが魔法を扱え、威力も高い。つまり自力の高い種族が険しい環境でスパルタ特訓を世代を跨ぎ続けた結果、多国の冒険者と比較しランク平均値が一つ二つも高いという状態になっている。


「とはいえまあ、見た目だけじゃ普通の国だよなぁ」


 カフェのテラス席でちびちびと果実ジュースを飲みながら人の流れに目をやる。どちらかと言えば辺境に位置する国だし観光国というわけでも無いから人の多さは然程だが、だからこそエルフばかりという中々に珍しい光景になる。事前に聞いてた情報だけだとすごい戦闘国家! スパルタ! 的な思い込みがあったが、実際はそんなことも無く、どちらかと言えばのどかとも言える。まあよく見れば武具屋とか物騒なのも見えはするけど、アルガーンと比べるとそれも少ない気もする。


「これで殆どのやつが十分戦えるってんだから、末恐ろしいよな」

「ええ、全く。今の店員や先程見かけた子どもも、下手をすればアルガーンの中級冒険者レベルですね」


 やがて自分が注文した飲み物を手にしたクラガとエリシアが隣の席に着いた。


「でもなんか久しぶりだよね。こうやって三人一緒に行動するのって」

「そうだな。誰かさんが妙なパーティに入ったせいでな」

「ご、ごめんって……」

「ふふ。クラガったら拗ねちゃて。でもアリア、彼ったらこの前こんなこと言ってたのよ。アリアがどんどん強くなっても、使ってくれる武具が俺のなのが嬉しいんだ。だから俺は専属武具師……いや仲間として最高の──」

「お前ちょっと黙ろうか!?」

 意地悪な笑みを浮かべるエリシアとこれ以上無く焦るクラガ。

 あー、なんか久々だなこの感じ。平和だー……。まあもう休憩時間終わりなんだけど。


「ここにいましたかクラガ。訓練を再開しますよ」

「ウゲッ、もうかよ……。せめてこれ飲み終わるまで……」


 不意に背後からかけられた声にクラガは一瞬震わせた肩をがっくりと落とし、グラスを持ってせめてもの抵抗を試みる。しかし声の主──シーナは容赦無く一蹴した。


「なら歩きながらで大丈夫ですね。さあ」

「はあ……わぁったよ」


 そうしてクラガは突然現れたシーナに連れて行かれてしまった。


「なんかこう、日に日に主従関係が構築されてる気が」

「シーナさん、良くも悪くもマイペースな方のようですから……逆らうだけ無駄だと気づき始めてるのでしょう」

「しかしあのシーナの嬢ちゃんがこういうのに協力するとはな。珍しいもん見た気がするぜ」


 エリシアと呑気にクラガを見送っていると、再びの第三者の声に二人してビクリと肩を震わせてしまった。


「がっ、ガヴァールさん! 驚かせないで下さい!」

「すまんすまん。だが気を抜いていてもこれくらいの気配は読んでもらわんとな。つうことで俺らも訓練の続きだ。アリアの嬢ちゃん、お仲間借りてくぜ」


 陽気に笑うガヴァールだったが、ほんの少し叱責するような声音もあった。エリシアもそれを感じ取ったのが、何も言わず彼に付いていった。


 それぞれの訓練に向かう二組を見比べて、俺は素直な感想を口にした。


「……逆じゃ無い?」


 今回私達がヴォクシーラにいる理由、更に言えば暁のSランク全員がいる理由は先日イシュワッドで起こった事件が原因だ。

 近年動きの無かった帝国側に明確な活動が確認できた。しかしまだ敵対行動として捉え戦闘準備をする段階には至れない。ということで各地に監視の目をこれまで以上に張り巡らせつつ、一番帝国に近いこのヴォクシーラに一度集まり、あちらの動向を確認しようというのが第一の理由。


 そしてクラガとエリシアがいる理由は、今後もし帝国との戦争になったときに備えてだ。

 冒険者は仕事柄戦闘行動が多く、一日の多くを戦闘か訓練に費やす場合が多いことから当然一般人に比べ戦闘力は高くなる。だがあくまで冒険者はギルドに所属し、そこに舞い込んだ一般人の依頼をこなすという、いわばただの社会人だ。つまり戦争が始まった際、主として戦うのは社会人では無く軍や自衛隊、この世界の各国の王国軍と呼ばれる正規の兵士達だ。国によっては王国制じゃないところもあるけど、それでも規模は違えど正規軍は存在する。

 とはいえいざ戦争が始まっても冒険者は何もしない、なんてことは無いだろう。戦力にはなる以上、戦闘行動に参加しないのは無駄となる。その時に備え練度は高めるに越したことは無いが、俺たちが正規軍に干渉することは出来ない。ならばせめて冒険者側を強くしよう。そんな考えが始まりだった。

 冒険者の訓練は大抵教官とのものか自パーティ内、もしくは他パーティとの合同訓練が大抵だ。そして言ってしまうが、Sランクの暁メンバーは他の冒険者、教官と比べても強い。ならより強い者が鍛えた方が効果もあるだろう……が、俺たちは強い冒険者であって戦い方を教える教官では無い。強さと教える能力は全く別物だ。とはいえ一度やってみないことには始まらない、ということで先日の統合武道祭典コンバートル・フェスティバルで好成績を残し、私のパーティメンバーということで話も通しやすい二人に白羽の矢がたった、というわけだ。


 というわけなのだけど……。

 

 魔具に込めた魔法で遠距離も出来るけど、メインは自作の武具を使う近距離主体のクラガと魔法主体の遠距離で戦うシーナ。

 木刀での近距離戦も出来るけどメインは魔法主体の遠距離で戦うエリシアと、自作の武具で戦う近距離のガヴァール。


 勉強だったら苦手を伸ばす、なんて感じで納得出来るけど、戦闘訓練であるなら主体とする戦い方を伸ばす方がいいだろう。組み合わせは二人を鍛えるという話になった時に、シーナとガヴァールがそれぞれ申し出たようで私含め全員とくに異論は無かったからすんなり決まったけど、改めて考えると首が横に傾く。


「おや、アリアさん。本日はお休みですか?」


 あの二組の組み合わせ理由に首を捻っていると静かな声が耳に入った。


「こんにちは。今日はエクシアさん達が巡回当番で……あ、よければどうぞ」

「ええ。失礼します」


 俺は頭を下げ、対面の席を勧める。

 向かいに座った老齢の女性。ヴォクシーラギルド長、サルヒール。各国のギルド関係者の中でも最高齢の彼女だが、常に凛とした立ち振る舞いや静かで芯のある声からその歳を感じさせない印象がある。

 そういえば以前聞いた話だが、エルフは長命なんてイメージがあるけど、実際間違っては無いらしい。とはいえ何十何百年もなんてレベルでは無く、他種族と比べて平均寿命が十年二十年長い程度だ。彼女もこの国の人物だから当然エルフではあるが、年齢を考えれば十分引退していてもおかしくないらしい。


「…………」

「…………」


 街の雑踏と鳥の声。そして時たま響くドリンクを飲む音。……き、気まずい。

 正直言って俺はこの人が苦手だ。いや、苦手は語弊があるな。こう、あんまり関わりが無いから人物像が掴み切れて無くて対応が分からないというか。なんなら最初の挨拶で信用しきれないって言われてるし。


「彼らの組み合わせの理由ですが」

「へっ?」


 こちらから声をかけるべきかと慎重に窺っているところに急に話しかけられ、間抜けな声が出てしまった。


「……彼らを見て首を傾げていたのでその事で悩んでいると考えていたのですが、私の思い過ごしでしょうか?」

「あっ、いえ。その通りです。すごいですね」


 やや眉ひそめられ、急いで肯定する。


「歳を重ねるとこういったことばかり身についてしまうのです。それで彼らのことですが、まずエリシアさん。彼女の魔力量と質は中々のものです。それに裏打ちされる魔法の威力。そしてそればかりに頼らない身のこなしと木刀での近接戦闘。しかし、性格によるものでしょうが彼女は真っ直ぐすぎます」

「それは……そうですね」


 エリシアのいいところは信念の強さ。そして思い切りの良さ。貴族の家を出て冒険者になるのは思い切りがよすぎるが、戦闘に置いてそういう折れない精神はかなり大事だ。しかしまた、卑怯な事を嫌うのも彼女だ。だからいわゆる搦め手はするのもされるのも苦手なところがある。


「その点でいえばガヴァールは暁の中では一番……搦め手を得意としています」


 あ、いま言葉選んだな。


「自作武具の特殊機構から始まり、室内、街中、草原、森。ありとあらゆる環境下でその場にあるものを用いた罠の設置。彼女の戦闘スタイルには一致しませんが、知っているのといないのでは相手にされる場合においての対応力が大きく変わります」

「なるほど。それは確かに……じゃあクラガとシーナさんの方は?」


 納得し次の質問も投げかけるとサルヒールは顎に手をやって、少し間をおいて答えた。


「彼の技術には目を見張るものがあります。スキルによるものでしょうが、先日の戦いで見たあの鎧は素直に素晴らしいと賞賛を送るほどです。しかし彼は元々鍛冶師。腕力はあるでしょうが、戦い方はまた拙いものです。そしてシーナですが、今でこそ彼女はあの光矢を主としておりますが、本来の彼女の戦い方は違います。言うなれば何でもするのです」

「なんでも……ですか?」

「ええ。それこそ弓は当然、剣に斧、槍に杖、棒、素手。その武器の達人に敵うかは私には分かりませんが、少なくともAランク冒険者には引けを取らないでしょう。クラガさんに必要なのは教官が教えられる基礎から二歩ほど踏み込んだ更に実践的な立ち回り。しかし彼の戦闘スタイルはあの鎧を用いた徒手空拳と魔具の使用。やや特殊ですので、広く対応出来るシーナが適任ではあるのですが……」


 その説明は聞く限りでは的を射ていたが、当のサルヒールはどこか腑に落ちていない様子だった。


「どうしました?」

「ああ、いえ。正直彼女がこういったことに参加するのが意外でして」

「シーナさんがですか?」

「ええ。彼女はよく言えばマイペースといいますか、当然最低限の協力は常にしてくれますが、しかしあまり協力的な方ではないのです。聞けば今回の訓練は彼女から手を上げたそうですが、それこそ考えられないほどには」


 分からないでも無い。他のメンバーは非協力的な雰囲気は感じないし、ガルシオだって口と態度は悪いし接しにくそうな圧は感じるが、話せばなんだかんだやってくれる雰囲気はあるし、実際やってくれる。しかしシーナはガルシオとはまた別の接しにくさというか、圧と言うよりも壁……いや、一線を引かれていると感じる。


「彼女としても何か思う事もあったのでしょう。願わくば、彼女にもよい方向へ作用してほしいものですが」


 そういうサルヒールの表情は、まるで子や孫の成長を思うような穏やかなものにも見えた。


「サルヒールさんとシーナさんって、結構付き合い長いんですか?」

「そう思いましたか?」

「何となくなんですけど」

「幼くとも流石はSランクに認められたと言うことですか。……ええ、彼女とは貴女くらい……いえ、もう少し幼いころからの付き合いでしょうか」

「へぇ、結構長いんですね。どういう──」

「あっ! アリアさん見つけました!」


 どういう関係なんですか? という言葉は、やや離れたところからの大きすぎる声量で中断されてしまった。思わずグラスを落としそうになった私に比べ、サルヒールは片眉はピクリと上げただけだ。なんだその平静さ。


 元気いっぱいな声の主は自称シーナの一番弟子、コニスだ。ブンブンと両手を振りながらこちらに駆け寄っている。動きの邪魔にならないようにやや短めで切りそろえられた金髪を風に揺らしながら笑顔で走る少女の図はとても良いものだが、とはいえ俺の表情はやや引きつっていると思う。


「アリアさんこんにちは! 他の方に聞いたんですけど今日って休暇日なんですよね? 是非訓練付けて下さい!」

「え、えぇっと……」


 到着するなりとても前のめりな元気いっぱいの圧。コニスと知り合って数日経って二つ分かったことだが、彼女は体力馬鹿で訓練ジャンキーだ。俺だって理由もなくかわいい少女の願いに引きつっているのでは無い。この間何も考えず受けたらそのあと十時間ノンストップで付き合わされた。今までで一番死を感じたかも知れない。


「仲間も励んでいるのです。貴女も後進育成に努めるといいでしょう。幸いどちらも剣を用いた戦闘を主としているようですから」

「ええ! 何卒!」

 まさかの横から逃げ道を防がれた。……仕方ない。断るのもなんだし、昼からどう時間潰そうかと決めあぐねてもいたから丁度いい。


「いいですよ。行きましょうか」


 立ち上がり、テーブルに立てかけておいた如月を腰に差す。向き合ったコニスは目を輝かせてこういった。


「ありがとうございます! じゃあ早速行きましょう! さっきギルドの訓練室取っておいたんですけど、明日の朝まで予約が空いていたので確保しておきました! うちのギルドの訓練室、地下にあるから騒音もへっちゃらで深夜でも使えちゃうんです!」

「へっ……へぇ~」


 ギギギ、と強ばった首を横に向けると、ただただ顔を背け目を合わさないようにしているサルヒールの姿があった。今の俺は、上手く笑えてるだろうか。自分の運命を覚悟して、頬に涙が伝った気がした。

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