2ー61 文化祭最終日④
「ポイント5-1で平選手の勝利」
審判の宣言により試合が終了した。
観客からは盛大な拍手が起こっていて、正幸はそれに応えるように控えめに手を振っていた。
俺と優二は正幸の元に駆け寄り、一緒に勝利を祝う。
吹っ飛んだアレクシスは、相手の会社関係のスタッフが介抱し意識だけは戻ったようだが、精神的なショックが大きいようで項垂れている。
「なあ、正幸、戦っている時何を話していたんだ?
エリア外にいた俺達には何も聞こえなかったんだよな、周りの声援もうるさかったし」
「あ~、それなんだけど・・・あいつがみんなの悪口を言ってたから、それに応戦しちゃって・・・」
「珍しいな、何を言われたんだ?」
「別にいいじゃないか、あまり口にしたくないことだし、負けた奴にこれ以上追撃するのも可哀そうだし?」
言いたくないようだからそれ以上聞くのは止めといた、俺らの悪口に怒ってくれただけで十分だったし。
そんな雑談をしていると、ウィリアム親善大使とクロヴィーラカンパニーの社長・護衛・姉妹がやってきた。
「正幸君だったかな、素晴らしい戦いだった。
それと・・・うちの社員が迷惑をかけたようだ、すまなかったね」
そういってクロヴィーラ社長が頭を下げてきた。
「なぜ知ってるんですか?至近距離での会話で周りには聞こえなかったはずですが」
「道着に通信器が付いているのは知っているだろ?実は声も拾えるんだ。
本来は試合中は声は拾わないようにするんだが、今回はテストだったからな、データ取りをするために切っていなかったんだよ」
「それってもしかして・・・みんな聴いてました?」
俺は廻りを見渡す。
「いや、モニターしていたスタッフだけだよ、私もヘッドフォン越しに少し聴いただけだ。
それに・・・エリーサ君は君みたいな男が相応しい」
最後は耳元で囁くように、俺だけに小さな声で囁いた。
俺は、そんなことはありませんよ、お似合いの人がいっぱいいますよと否定したけど。
その後、ウィリアム親善大使からは戦いの賞賛をもらい、娘をよろしくとだけ告げられた。
この人は何を言ってるんだろうかと思ったけど、次の瞬間思考が吹っ飛んだ。
エリーサが泣きながら俺に抱き付いてきたのだ。
「正幸、ありがとう・ありがとう。
これで私はやり直せる、リセットできるわ」
何のことか分らず、エレナの方を見ると黙って頷いている。
そして唇に指を当てて、そのまま黙っててとゼスチャーをしている。
どちらにしろ、こういう時に対応できるスキルは皆無なのでされるがままであった。
エリーサが落ち着いて離れた後、護衛をしていた楓さんの親父さんから肩を掴まれた。
「平君、最後のあの技、あれは君のオリジナルか?」
「いえ、師匠から教えてもらいました、数年前に旅に出ちゃって今は何処にいるか分りませんが。
みんなからは源じぃって呼ばれてましたけど、本名は分らないです」
「源じぃ!そうか・・・まだ生きていたのか・・・」
「師匠を知っているのですか?」
「ああ、俺も昔、源じぃから教わったからな、特に最後のあの技は習得するのに3ヶ月以上掛ったよ。
ちなみにあの頃は源さんって俺は呼んでた、充分おじいさんだったんだけどな」
「そうなんですか、僕なんて1年以上掛かっちゃって・・・」
2人して源じぃの昔話で盛り上がってしまって、終了するのに一定時間要した。
その会話が終わった時、楓さんが俺に詰め寄る。
「ねぇ、私と戦わない?」
なんか目が怖い、なんなの?
「なぜ?」
「あの技使えるのなら私が戦えば良かったわ。
あのチャラいお兄さんに譲っちゃったんだよね、エリーサのために」
なんか目が輝いているので、何か断りづらい。
「楓、今戦ったばかりなんだから遠慮しなさい」
親父さんの鶴の一声があり、楓さんは渋々引いてくれた。
ただし、今度道場で戦う事を約束させられたけど。
このままでは終われない楓は、そこら辺の強者と思われる連中に片っ端から、戦わない?と誘っていた。
もちろん、優二や俺にもお誘いがあったけど、もう戦ったし何かボコボコにヤられそうだったので断った。
しかし、剛の者はいる所にはいるもので、ある人物が手を挙げた。
「俺が相手してやろうか?」
親善大使の甥で一緒に来日していたヴェンダーであった。
今まで空気状態であったためアピールしたかったらしい。
「いいの?手加減出来ないけど」
「いいよ、俺も本気で戦うからさ、もし勝ったら今夜付き合ってくれよ」
ナンパしてるよこの人!ユウヤおじさんの前で!
ユウヤおじさんを見ると、事の成り行きを見守って口を出す素振りも見せない。
放任主義なのか、それとも・・・
確かめるために優二にそっと問いかけた。
「なぁ、楓ともう・・・した?」
優二は最初意味が解らなかったようだけど、数秒で理解、全力で否定した。
「馬鹿っ!親父さんの前で変な事言うなよ!殺される!」
「そうなのか?ヴェンダーからのアプローチに、おじさん何も動じないからてっきりもう・・・」
「それは違うぞ?
俺はそこら辺は自己責任と考えてるからな、口は出さない。
どちらかと言えば、サクラからの説教の方が恐ろしいと思うぞ?多分数時間ペアで尋問食らう」
「へぇ・・・ってユウヤおじさん聴いてたの?」
いつの間にかおじさんが横にいて会話に混ざっていたのでびっくりした。
「お前らもうちょっと気配を消せないとバレバレだぞ?
それとな、楓がそんなに軽く見えるか?」
「「見えない」」
即答であった。
それを聞いて、お前達なら別に構わないんだけどな、と笑っていた。
いや、それ爆弾発言でしょ、それにサクラおばさんの尋問って多分、事の顛末を聴きたいだけでしょ?
なんて親だ。
そういう下世話な話をしている間に、楓はヴェンダーの条件を受け入れてしまっていた。
その後、意気揚々と特別試合が組まれて戦ったのだが、ヴェンダーは60秒持たずに負けていた、10ー0のスコアで。
観客は盛り上がっていたけど。
今日はいい所無しだったね、ドンマイ。
その後回復したアレクシスは、バツが悪そうにエリーサに何事も無かったかのように話しかけていた。
「やあエリーサ、油断しちまったよ。
日本の学生にも強い奴いるんだな、ハハッ」
「そうですね、最初から修業しないといけませんね」
「おいおい、どうしたんだ?何か他人行儀になってるぞ?
全く冗談上手いな」
「アレクシスさん、私達は知り合いではありますけれど、そんなに親しくする間柄では無いと思いますわよ?」
ここでエリーサが、本気で自分を除外しようとしているのが理解できたアレクシスは行動に移る。
「さっきの約束は冗談だよ、俺以外に君を幸せに出来る男はいないぜ?」
「・・・・【俺としてはエリーサ程度どうでもいいんだが、貴族の名が欲しいからな、ふふふ】でしたかしら?」
「なっ!何でそれを!・・・アッ!」
思わず口に出してしまって、いつものイケメンスマイルが崩れた。
自社の製品の機能を忘れていたのだろう、完全な落ち度である。
「私にも相手を選ぶ自由がありますの、御存知でしたかしら?」
「そんな事言っていいのかい?
これは国と企業の重大プロジェクトなんだぜ?
そんなわがま・・・」
「いい加減にしないか!」
クロヴィーラ社長が間に入ってきた、怒りの形相であった。