2-54・・・文化祭2日目
文化祭2日目。
今日から格闘技戦が始まる。
対戦相手は運営が決めるとの事で、朝9時には掲示板に貼り出すらしい。
12時から準備出来たところから対戦となる。
すごいアバウトだなぁって思いながら、今日の対戦相手をチェックする。
俺の相手は2年生の先輩らしい。
何か武芸でもやってんのかな〜、そう思いながら教室へ向かった。
教室に入ると正幸がいた。
「おはよ、今日の対戦相手は?」
「同じ1年生だよ、確か空手部に所属していたんじゃないかなぁ、剣真は?」
「2年生の先輩、どんな人かは分からない。
お互いベスト4までは生き残りたいなぁ」
「そうだね」
昼まで文化祭を楽しみながら、精神を集中させて対戦場所に向かった。
「来ない・・・」
俺の対戦相手の先輩が昼から待っているが来ない。
そりゃ昼から準備できたところから対戦ってなってるけどさ。
もしかして棄権かな〜〜
ちなみに、優二と正幸はすでに対戦が終わり文化祭を楽しんでいる。
俺たち3人は、お互いの手の内を見ないという事にしている為、試合を観ていない。
対戦した時のお楽しみって事で。
そんな訳で1人で待ちぼうけ状態なのだが、時間切れとなるのは1時間後なので、最低それまでは待たないといけないんだよな。
「暇だ〜〜〜」
声に出してもどうしようもないのだけど。
係の人も暇そうにしている。
更に30分が過ぎた頃、対戦相手が現れた。
どこかの院長回診かよ!って突っ込みたくなるくらいに取り巻きを引き連れて。
「俺の対戦相手は誰かな~?」
チャラい・・・なんすかこの人、しかし先輩だろうから下手に出るしかない。
「あっ!自分ですけど・・・」
そう返事すると肩を組んできた、なんていうかフレンドリーな人だな。
そう思っていると・・・
『なあ、相談なんだけど、勝ち俺に譲ってくれね?』
『えっ?何故です?』
『ベスト3の権利が欲しいじゃん?男としては』
『でも先輩、あんなに取り巻きの娘がいるでしょ?』
そちらのほうに目線だけ動かす、その先には10人程固まっている。
『馬鹿だな、俺がB級だけで満足すると思うか?』
『えっ?でも十分に可愛い人たちだと思いますよ?それに俺が棄権しても、後2回は勝たないと確定しないですが・・・』
『もちろん、そこは対処済だ。
出場者は全員把握してるから代案を提示するからOK~~』
『ちなみに、誰を狙っているんですか?』
『聞いて驚けよ?1年の留学生姉妹か同クラスの楓ちゃんだったかな?
デートまで約定出来れば、あとは俺のテクでゲットって訳だ、西洋の女は初めてだからな、今から楽しみだ』
ここでちょっとイラっと来ていた、というか頭が沸騰しているくらいだが、今は我慢。
『俺が先輩に譲ったとして、メリット無いですよね?
今からじゃんけん大会にも出れないし・・・』
先輩はニヤけながら待ってましたとばかりに話を続ける。
『そこはお前・・・代案がある。
あっちを見てみ?』
目線の先を追っかけると取り巻きの女子が目に入る。
『あの中から選んでいいから、1回だけだけどな』
『選ぶ?って』
『お前、まだ済ませて無いだろ?貸してやるから、それで済ませておけ。
取引条件としては十分だろ?』
『へぇ、それじゃ先輩、女を1回貸すから負けろと?
でも相手が嫌がるでしょ?』
『そこは大丈夫、俺の言うことには逆らわないからな。
それにお前はイケメンだから大丈夫さ』
『分かりました、それじゃ右から2番目の娘でお願いします。
あと、棄権じゃ俺の立場もありますので、対戦してから負けたいんですけど・・・』
『分かった、着替えてくるからちょっと待っててくれ』
そう言って更衣室に向かう先輩に
『あっさっきの娘には言っといてくださいね~』
先輩は背中越しに手を挙げて応え、その娘に耳打ちをして着替えに行った。
耳打ちされた娘はちょっと動揺してコチラを見て下を向いてしまった。
本当に言ったのか、反故にするもんだと思ってたけど。
最低な男だ、少し殺意が沸いた。
10分程して先輩が着替えてやってきた。
満面の笑顔を取り巻き達に振り撒いている。
格好良く勝てると思ってるんだから当たり前か、この対応は。
時間がないからさっさと終わらしたいんだけどなぁ。
そして2人で立ち位置へ。
審判からルールとして、禁止事項の説明があった。
「それではその他取り決めがあれば言ってくれ」
俺は特にない、急所突きさえなければいいし、寝技・関節決めはOKだから。
「俺はありません」
「俺もない」
「了解、それでは・・・始め!」
その一言で一瞬で間合いを詰め、一本背負いからの関節技へ持ち込む。
先輩は最初意味が分からなかった事、一瞬で回転していつの間にか畳に組み伏せられて身動きが取れなくなり、数秒遅れで痛みが来たことで理解したようで喚き声を上げながら降参の意思を表明。
始めの合図から5秒も経たずに決着がついた。
しばらく放心状態から解放され、状況を理解したのか、食って掛かって来た。
「お前!取引が成立したんじゃなかったのかよ!」
「そんなこと言いましたっけ?ちょっと頭が沸騰していたから、何を言ったのか忘れちゃいましたよ。
それで?俺は何を言ったのでしょうか?」
先ほどとは違う言い方と、顔が笑っていない俺を見て怯む先輩。
「俺が言いましょうか、先輩?」
「い、いや忘れてくれ・・・」
さすがに先ほどの約束事を人前で言うと干されるのは判っているのだろう、口をつぐんでしまった。
「ああ、一言だけ言わせてもらえれば、あの姉妹と楓は友人のガールフレンドですので手を出さないでもらえると助かります。
あの娘たちが先輩に気があるのならば構いませんが」
そう言ってワザと背中を見せながら移動する。
隙を見せて襲わせるのが目的では無く、背中に書かれている文字を見せる為で、これで余計な事をしてこないと思いたい。
そこには〈福岡◯警〉の文字があった。
俺たち公認で道着をもらっているのだ。
今回の格闘戦で着用する事も許可を得ているが、不甲斐ない結果だとシゴキという名の特訓が待っている。
それから取り巻きの俺が指名した女の娘に詫びを入れに行った。
「先ほどは申し訳ない、余計な一言で不愉快な気分になったでしょ?
まさか本当に言うとは思わなかったんで」
そう言って頭を下げ会場を後にした。
これでベスト8、この中にカス野郎はいないと思うけど・・・