2-43・・・デートという名の護衛
9月の某日、俺と平君は天神のど真ん中であるデパートに来ていた。
2人ともラフな格好(Gパンに半袖のシャツ)で。
ちょうど西鉄福岡駅の中にある為、人通りが多い。
こんなところへ男2人で遊びに・・・という事では無く、ナンパ・・・でも無い。
というかそんな度胸は無いのだけれどさ。
ある2人の姉妹を待っているのだ。
「なぁ剣真、俺の格好大丈夫かな?おかしくない?」
「大丈夫だって、正幸。
強いて言えばもうちょっと胸を張れ」
平君はブサイクって自分で言うが、胸を張っていると自信に満ち溢れている表情になる。
要は心の持ちようなのだが、こればかりは自分で気付いてもらわないとどうしようもない。
そんなやり取りをしていると駅の方がざわつき始めた。
「来たな」
「ああ、来ちゃったな」
2人で確認し合い、深呼吸をすること2回。
ついでに肩に乗っている知美も一緒にやっていた、お前、みんなに見えてないじゃん。
「よし!バイトの時間だ!」
「ハハッ、そんな事言っていいのかい?」
「口を滑らさなければ大丈夫だって」
「それもそうか、それじゃ姫をお迎えに行きますか」
2人でエレナ・エリーサ姉妹の方に近づいて行く、廻りをギャラリーで囲まれている為、かなり近づかないと気付いてくれないだろう。
格好は2人共に白いワンピースにエレナは赤、エリーサは緑のワンポイントの線が入っており、ちょっと長めのスカート丈。
髪はエレナがポニーテール、エリーサはそのまま長い髪をストレートに下していて私服と似合っていた。
髪は天然の金色よりのブラウンなので更に目立つ。
廻りの目線が気になるが声を掛ける。
「やあ、こんにちは、かな?」
その言葉を聴いて歩み寄ってくる姉妹。
「ごきげんよう剣真・正幸」
「ごきげんよう正幸・剣真」
姉妹はカーテシーにて挨拶をする。
そのしぐさに廻りがどよめくが、それが功を奏したのかその後は近寄ってくる者はいなかった。
多分、ただものじゃないと感じたのだろう。
邪魔者がいなくなったところで今日の予定が発表された。
そう!今日付き合ってと言われていたけれど、行先を教えてもらっていなかったのである!
ふざけた姉妹だ、とは言えないヘタレな2人であった。
「「今日は・・・野球を見たいと思います!」」
「「・・・えっ?」」
「だから野球よ、知ってるでしょ?」
「いや、知ってるけど、今日試合あったっけ?」
思わず平君に聴いていた。
2人して急いで調べようとしていると・・・
「じゃ~ん、これな~んだ?」
ん~~・・・あれ?これって・・・
「これってプラチナシートじゃんか?フィールド席の!」
平君の方が喰いついている。
姉妹2人そろってドヤ顔である、ちょっとウザい。
「どうしたんだ、このチケット?この時期じゃ優勝争いの真っ最中で中々買えないのに」
「パパの知り合いに遊びに行く所紹介してって言ったらこれをくれたの。
予定が入って行けなくなったからって」
マジか、エレナ・エリーサの人脈半端ないな。
「お・俺も行っていいのか?マジで?」
平君が興奮気味だ、野球好きなんだろうな。
「もちろんじゃない、誘ったのはこっちよ?忘れたの?」
それを耳にした平君は
「1年間、下僕となります」
完全に篭絡されてしまっていた・・・
その姿を見ていたエリーサの顔は悪い顔となっていたのだが、見なかったことにしよう。
野球は13:00プレイボールでホークス対ライオンズだった。
今は10:00、電車に乗って行けばちょうどいい感じかな。
という事で福岡ドームまで行って時間を潰す事に。
というわけでやってまいりました、福岡ドーム。
「大きいのね~ドームって。
野球も見るの初めてだし、楽しみだわ~」
「あたしも楽しみ~~」
「「えっ?、見たこと無いのか?」」
思わずハモった。
「じゃあドームの中が見える場所で軽く食事するか、そこである程度のルールを説明するよ」
確かドーム内にあったはずだ。
「じゃあ剣真は私に教えてね?」
「じゃあ正幸は私ね」
えっ・・・それは大丈夫かな~、そう思いながら平君の方を見ると・・・
「OK、軽く食事しながら基本的な事を教えるよ、後は試合を見ながらにしよう」
あ・・・なんかポジティブモードになってる、今指摘したらネガティブモードになっちゃうから黙って聴いておくことにするか。
エレナを見ると口に手を当てているから気付いているのだろう、黙って従うことにする。
妹思いなんだろう、ちょっと見直した。
「これでペアで別行動出来るね?」
ニヤリとするエレナを見て、見直して損したと思った。
しかし、平君が自信を持てるようになる事を考えると・・・いい提案だと思う。
すべては飯食った後か。
そんなわけでレストランへ。
窓から球場が丸見えであり、すでに選手が練習を行っていた。
この時点で2人共テンションが上がっている為、食事が終わった後さっさと指定席へ行くことにした。
ここからははぐれる可能性がある為、ペアで動いた方がいいという判断だ。
ドーム入口でチケットを見せ球場の通路を歩く。
この時点でエレナは腕を組み始め、ちょっと緊張した。
緊張よりも周りの目線が痛かったが、もう慣れて来ていた為、逆に前よりは自然に歩けたと思う。
今回はさすがに声をかけてくるバカはいなかった、そりゃそうだ腕組んでいるんだもの。
前からこうすればよかったなと反省。
フィールド席に入ると練習している選手がすぐそばにいる。
キャッチボールの音とか、バッティングの音、ピッチングの捕球音、こんなに間近で聴いたことない。
あまり野球を見ない俺でもちょっとテンション上がった。
あと30分もすれば試合が始まるのだろう、最後のグラウンドの均しが始まっている。
その風景をぼ~っと見ていたら平・エリーサペアがフィールド席に入ってきた。
内野席辺りを散策していたらしい、ただ、階段が思ったよりも急だったらしく、エリーサが疲れてしまったようで、自然と手を繋ぐ形になりいい雰囲気になっている。
平君はエスコートに精神集中しているようで、周りの視線に全く気付いていないようだ。
ここは言わないが吉だろう、エレナもニヤニヤしてるし。
ここは放置でOKだろう。
4人で席に座っているとプレイボール間近になったようでホークスの選手たちが守備に出てきた。
外野・内野で最後のキャッチボールを行い、最後にライトの選手がフィールド席に近づいて来てボールを投げてくれた。
姉妹の金髪ブラウンが目立ったのだろう、そこを目印にしてくれた為ボールはエレナの目の前に。
ただ、捕球という仕草をほとんどしたことがない為代わりに俺が目の前でキャッチ、そのまま『はい』と渡す。
そのしぐさが自然で廻りから拍手をもらってしまった、いかん、目立つのはやばいんだけど。
そしてその場面が外野席の大型ビジョンに映されていた。
テレビ放送前だったので晒されるのは免れたのだが、学校の野球好きの生徒が数名球場にいることを失念していた。
そして試合が始まった。