2-33・・・テスト②
「双方そのままで待機!」
声が聴こえた方を見るとユウヤおじさんがいた。
既にチンピラ4人組は横並びになり直立不動の体勢。
「えっ?何々?」
俺と優二と知美は現状が理解出来ずパニクっている。
「ごめんなさい!」
楓が申し訳無さそうに顔の前で手を合わせて謝っている。
更にパニックになる俺達。
そこにユウヤおじさんが割って入ってきた。
「すまないな、お前達。
どうしても避けられない事だったんだ」
そう言いながら頭を下げる。
「おじさん、何の意味があったの?」
ただ詫びているおじさんに問いかける。
「訳を話す前に紹介したい人がいる」
そう言って合図を送ると、スーツを着た人物と黒服の2人が歩いて来た。
理解不能のまま軽く挨拶を交わしたところで、スーツの紳士が話し始めた。
「私から説明させてもらおうかな、私の名前はウィリアムという。
20年程前、そこにいるユウヤに護衛をして貰って以来の付き合いだ。
今回、私の娘達の日本滞在中の護衛を依頼したんだが、うちのSPが納得しなくてね、テストをしようという事になったんだ。
私はユウヤの御墨付きなら大丈夫だと訴えたんだがね、押し切られてしまった。
本当に申し訳無かった」
そう言いながら頭を下げて来た。
俺たちは「はぁ・・・」というくらいしか反応出来ず。
「大使、その子達はまだ高校生なんだ。
堅い挨拶はそのくらいにして、彼らは合格だろうか?」
「ああ、そうだったな。
こういう仕事をしてると、お堅くなってしまっていかんな。
歳を取った証拠かな」
そう言いながら4人を順番に見てからチンピラの4人に問いかけた。
「君達、彼らは合格かな?」
問いかけられたチンピラ=SPの1人が代表して答える。
「はい、正直ここまで出来ると思いませんでした。
彼らならお嬢さん方を任せられます!」
ウィリアム大使は満足げに頷いた。
「という訳で、2日後に私の娘達と甥の3名の観光に付き添って欲しいんだ、頼めるかな?」
そう言われてある程度の説明を受ける事30分。
基本的には護衛と言う名の福岡観光補助であり、近くには常にSPが付いている状態だからもし何かがあっても30秒程耐えてくれればOKという事だった。
俺はもちろん請け負った。
ついでに?楓・優二も請け負う事となった。
今回は3名いるからね、護衛は多い方がいいだろうとの処置だ。
「それじゃ詳しい事はユウヤに連絡しとくからみんな頼んだよ、楽しい思い出をよろしく」
そう言ってウィリアム大使はSPと一緒に去って行った。
チンピラ風のSP4人組はまだ残っている。
「仕事いいんですか?」
そう問いかけると
「いや、我々は日本での雇われSPなんだ、今日はテストの為に来ただけだ。
本来は東京で仕事してるんだけど、今回の会合で応援に来ている。
そちらのユウヤ課長が今の上司なんだよ」
へ〜、おじさん偉いんだな。
そう感心していると・・・
「君たちすまなかったな、仕事とはいえ乱暴な事をしてしまった。
あの方は数年来の縁があってな、それにお嬢さん方も何回か会ってるから、もしもの事があったらと思うと強引な手に出ざるをえなかった」
そう言って頭を下げる4人組。
「いや、仕事だったんですから。
頭を上げて下さい、謝罪はもう十分にして頂きましたから」
そう言ってなんとか収めてもらった。
それから反省会が始まった。
楓は今回の事を知っていたので評価は除外。
優二はSPを相手に善戦し、互角に戦っていたが長引くと押し込まれていただろうとの見解。
場数を踏んでいる手練れに対して十分な成果との評価。
俺はSPに対し押されぎみだったが、最後に驚異的な護りを見せれたからなんとか及第点らしい。
あれは何だったのだろうか?自分でも解らん。
「優二は・・・そうだな、楓が総合10だったとしたら9ってとこかな。
剣真は・・・7ってところか」
俺はそんなものだろうと納得し、強くなった友に称賛を送っていた。
しかし優二は納得出来ないらしい、もちろん友である俺の評価にだ。
その心情を察したのか、おじさんは追加の見解を示す。
「追加評価なんだが、剣真、お前はやはりあの人の息子だな」
「「「???」」」
「どういうこと?」
「楓の10に対して剣真は7と言ったが、もし、お前に護るべき者が側にいた場合、
楓の総合10を基準にしたらお前は15+だ」
「「「えっ?」」」
意味がよく解らんという顔をしていると、
「だから、お前は護りに特化してるんだよ、自分の事より他人を護るという事の方が力を発揮出来るタイプだ、自覚あるんじゃないか?」
そう言われると・・・あの時何かがギヤチェンジした感覚があったな。
「自覚があるようだな。
しかしまだ自在に操れる訳でもないだろうから意識してみろ、必ず常時出来るようになるはずだから期待しているぞ?」
なんかプレッシャーだ・・・。
「へぇ・・・剣真、まだそんな力隠してたんだ〜」
「すごいな!やっぱり強えな、剣真は。
そうでなくちゃな!」
2人とも喜んでくれていると思いたい。
そう思って深く考えないようにしていると
「早く制御出来るようになってね?」
笑顔で肩を掴む楓さんの後ろに、虎が浮き出ているように感じたのは見間違いだろう、そう自分に言い聞かせた。
おそらくガチ勝負したいんだろう。
なるべく戦いたくない。
そんな訳で反省会は終了。
「ああ、それからバイト代な、1人当たりこれくらい出るぞ」
おじさんがそう言いながら右手の人差し指1本立てる。
1本・・・1万か、高校生のバイト代なら高い方だな。
「1万くらい?効率いい稼ぎだね」
「は?、違うぞ?ゼロが1つ少ないぞ」
一瞬理解出来なかった。