2-31・・・能力発動③
「ようこそ!リフレクションの世界へ」
俺の横で知美が微笑んでいる。
「リアルなんだな、本当に。
現実と変わらんな、すごいテクノロジーだ」
そういった感想を述べながらある事に気づく。
俺達寝間着じゃないか?
こんな電車の中で違和感MAXじゃ・・・
そう思いつつ、廻りの反応で理解する。
「もしかしなくても俺達は廻りからは認識されていない?」
「そうです、私たちはこの世界ではイレギュラーですので認識されません」
そうか、本来ここにいないんだから認識されないか。
それはそうとあのダメサラリーマンは何処かな・・・
「剣真さん、あれですよ」
指し示す先に老人がいた・・・あれか?
見ると挙動不審で周りを見渡しながら何とか立っている。
その体で電車に揺られながらは辛そうだ。
目の前には中年のサラリーマンが、荷物を座席に置いて足を広げて座っている。
見兼ねた近くの女性が譲ってやってと話しているけど、我関せずの態度で無視。
自分が他人にやった事を自分が受けている、反省すればこのまま戻れるんだけど・・・無理か。
そのサラリーマンに常識を訴えかけている、さっきまであんたがやっていた事なんだけど、自己中心な所はそう簡単に治らないか。
あ〜、ついに中年サラリーマンが折れて荷物を床に置いたな、ついでに舌打ちをしてる。
助け舟を出した女性にもお礼の言葉無しかい!
こりゃ時間が掛かるな。
ここで場所が暗転した。
「あれ?場所が変わった?
電車内だけど周りの人が違う」
「今回はこれ関連のループですね、似たようなシチュエーションを何回も繰り返します。
課題は譲り合いってところですかね、これを365回耐え老人はこういう扱いを受けて当然だよなって納得するか、自己中の力で席を確保して今までと同じような行動が出来ればあの人の勝ちです」
勝ちって・・・そういう能力じゃないんだけどな。
また同じ状態で席を譲ってもらえないバージョンで物語は進行している。
今度は数名の若者か、今回はきついかもな。
案の定また常識云々言っているけど若者は音楽を聴きながら完全無視、それどころか老人を馬鹿にする言動を投げる始末。
周りは誰も助け舟出さないな、当然か、トラブルに巻き込まれたくないし。
そうこうしているうちに若者達の降りる駅に着いたらしく降りて行った。
すれ違いざまにぶつかってコケていたけど、それを見て笑いながら去って行った。
さすがにこれは、と思っていたら知美から一言。
「今回の件に関する事は今まで他人にやった全てが反射されてますので同情の余地は無いと思いますよ」
えっ?・・・という事は、若いうちからあんな事やっていたのか?ちょっと同情したのがアホらしくなった。
それから暗転するたびに電車内・病院での待合室・バスバージョン等、ほぼ毎日何かしらやっているんじゃないかってくらいだった。
途中、若者バージョンで俺そっくりな奴が配役として出てたけど、なんかイラっとした。
人って他人に攻撃的な態度を取るときにはあんな顔するんだなって思い知らされたよ。
10回目くらいから心折れたのか元気が無くなってきた。
まだ心から反省していないのだろう、ブツブツ言っているようだ。
自分の行動を見直して人に優しくしようとしない限り抜け出せないんだけど、何かきっかけがあればなぁ。
14回目で初めてサポートしてくれた人にお礼を言った。
日頃言わない言葉なのだろう、ぎこちないけど頭を少し下げながら。
相手が謙遜しながら頭を下げ、照れ笑いを浮かべているのを見て何を思うのだろうか。
15回目、補助してくれた人にしっかりお礼をしている。
顔はまだぎこちないけど硬さは取れてきた。
もう少しかな?そろそろ終わりが近いはずだけどな。
16回目も同じだった。
17回目、ここで変化が。
譲ってもらった後、次の駅で自分よりキツそうな腰が曲がった老人に席を譲ったのだ。
その人にお礼を言われ、恥ずかしそうに下を向く逆ギレサラリーマン。
しばらくして顔を上げると、憑き物が取れたような表情をしていた。
真から反省しているかは判らないけれど、今後の行動を左右するような変化はあったのだと思う。
しばらくして光となって消えてしまった、現実に戻ったのだろう。
それを見送って俺たちもログアウトした。
「ヘビーすぎる体験だったな、あれで反省しない奴を逆に見てみたいわ!」
覚醒後の最初の言葉だった。
「確かにそうですねぇ、でもいい薬だったと思いますよ?
短い期間で一挙に制裁を受けるとは思っていなかったでしょうね」
「これで少しでも人に優しく出来るようになればいいかな。
後、俺が怖がられていた理由も理解した。
半分は俺が悪役メインだったな、自分でも嫌悪感半端無かったぞ」
「そうですね、現実世界であんな感じにはならないで下さいね?」
横からすがりつく体勢でお願いされると、なんかヤバイ雰囲気になっちゃいそうで別の事を考える。
落ち着け!俺!、邪な事を考えちゃダメだ・考えちゃダメだ・考えちゃダメだ・・・
何とか落ち着いた、賢者モードって奴かな。
なんか違う気もするが、落ち着いたからまあいいか。
「そろそろ寝ちゃいたいんだけど、手をいつまで繋げるのかな?」
そう、覚醒してからずっと繋いでる、というか手を離さないのだ。
「え〜っ?今日はこのまま良いじゃないですか〜?」
その目はやめてほしい・・・
「判った、じゃあこのまま寝ちゃおうか。
明日、母さんに余計な事言うなよ?」
「はい、もちろんです!」
この言葉はフラグだった。
次の朝、2人で寝てる所を母さんに見られちゃって
「昨夜はお楽しみでしたね〜」
この言葉を10日間ネタとして言われ続ける事になった・・・