2-29・・・能力発動
夏休み真っ最中。
まだバイトのお呼びが掛らないので自宅で宿題をしていた。
大した量は無いので、今日明日で終わらせて残りは自由時間にするつもりでせっせと片付けていた。
知美はデラックスハウスで寝てたけど、母さんに起こされて下に連れて行かれてしまった。
多分、オモチャになっているんだろう、ちっさいから。
まあ、物理的に人形サイズなんだが。
昼頃、ある程度の目処を付けて今日の分の宿題終了。
思った以上に進んだから明日には終わる。
いや〜、計画通りに進んでちょっと高揚感溢れてるわ。
そんな気分に浸っていると知美が帰ってきた。
「おう、お帰り・・・どうした?その格好?」
見るとどっかのアイドルのような格好をした知美がそこにいた。
妖精サイズだから更に可愛さが引き立てられていて、それ以上言葉が続かない。
沈黙=否定ととらえたのか、心配そうに問いかける。
「あの・・・おかしいです?」
その言葉に我に返った。
「いや、可愛くて言葉にならんかった、似合ってるよ」
日頃、異性を褒めるなんて事苦手としているんだけど、自然と出るもんなんだなって1人納得。
「ありがとうございます。
クリスさんからこの格好ならどストライクだよって言われて・・・」
モジモジしながら言っている知美を見ていると、やっぱ可愛いなと思ってしまうが、そこはポーカーフェイスで乗り切る。
思わず母さんにサムズアップしようかと思ったが、多分隠れてほくそ笑んでいるだろうからやめておく。
「確かに好みの格好だけど外出する服じゃいな〜、とりあえずそのまま大きくなれる?」
「あっ、はい」
言われるがまま人サイズとなる。
服は人形サイズの現実の服なので今は具現化している服をまとっている状態だ。
「おお~、リアルサイズだと良く判るな~、似合ってる、うん」
知美は嬉しそうにしている。
「それじゃ、午後はデートしましょうよ」
「それはいいんだけど、出かけるならもう少しおとなしめな格好がいいかな。
そうだな、白を基調とした服かな」
「それじゃ頭の中でイメージして下さい」
言われるがまま記憶の中から思った服を思い浮かべてみる。
「イメージしたけど?」
「それでは・・・」
そう言いながら知美が手を握ってきた。
???っ!!
女の娘と手を繋ぐのは楓と組手の稽古の時くらいしか無いから、一瞬ドキッとした。
その葛藤をよそに知美は5秒程で手を離す。
「理解しました、ちょっと待っててください」
そう言いながら瞬時に服が変わった、というか換装?した。
それもイメージ通りの格好だ。
白色に水色のチェックが入っているワンピースに帽子付きだ。
「何したんだ?」
「ちょっと記憶からイメージをもらいました。
あっ!記憶と言っても渡しても問題ないやつだけしか取れませんから、邪なイメージとかその他考えている事は覗けないですよ?意外とガード固いんですよ、人の思っている事って」
「そんな変な事考えてね〜よ!」
思わず声が上ずってしまった。
そんな簡単に考えてる事覗かれたらたまったもんじゃない。
知美の言うことを信用しよう、疑うとキリがないし。
「それにしても・・・すごいな。
ここまで再現出来るとは」
そんな感じで感心していると、
「妖精ならみんな出来ますよ。
それよりこれだったら外出出来ますよね?」
「ああ、問題ない。
ちょうど昼になるから博多の方まで行くか、宿題も明日には終わりそうだし、遊んでもいいだろ」
そんなわけで、駅まで父さんに車で送ってもらった。
電車に揺られて15分、香椎を出て千早駅に着いて追い越し待ちの電車内での事。
そこそこ乗客がいて席も埋まっている状態(ロングシート席)で、俺は知美と何気無い会話をしていた。
車両の逆から何やら揉めているような声がしてきたのでそちら見ると、席を譲る譲らないで口論になっているみたいだ。
聴き耳を立てると、座席に座っている年配のサラリーマンが座席に荷物を置いていて混んできたのに退かさない。
おばあさんが荷物を持って立っているのを見兼ねた若い女性が、席を譲ってやって欲しいと言ったのに無視&自己中な逆キレを起こし口論になっているという感じ。
あちゃ〜、これはお互いに引き下がらないだろうなぁ。
そう思うと同時にある事を試す機会じゃないかと思いたった。
知美を見ると指示待ちだったようで頷いている。
そうだよな、こういう時に使わなくていつ使うんだよ!って事だよな。
「知美、あれはどうやって発動させるんだ?
初めてだからレクチャーお願い」
「それでは先ず、キーワードを設定して下さい」
「キーワード?」
「そうです、発動させる為の鍵です、それが発動条件となり、その後相手を指定し楔を打ち込みます。
剣真さんはキーワードと相手の指定までです、そのあとは私がやりますので」
レクチャーを受けながら鍵となるワードを考える。
よく使う言葉は駄目だろう、間違って発動させる事になりかねないし。
少し考えてある言葉が浮かんだ。
「リフレクションで頼む」
「判りました、今後そのワードを言った後に他人を指定すると能力の履行を行います、キャンセルは出来ません。
それでOKなら承認を」
日頃、笑顔を絶やさない知美の顔が真面目な顔になっているのを見て、監視員としてここにいるんだったなと再認識した瞬間だった。
「もちろん承認だ。
そのまま執行するぞ、リフレクション。
あの迷惑オヤジにぶちかましてくれ!」
「了解しました」
そう言って知美がそのオヤジを見た後、1秒経たないくらいで動きが止まった。
何秒で戻ってくるだろうか?
しばし待つことにした。