2-9・・・剣真の葛藤②
4時限目終了のチャイムが鳴り、悶々とした時間が終わった。
先程の案件を追及したいけれど、先に飯を終わらせないとみんなと行動が合わなくなるため後回しに。
弁当の味が判らねぇ~~~、そう思いながらいつもより早く食べ終わる。
友人たちが食べ終わるのを待ち、教室外へ誘う。
みんな訝しみながら付いて来る。
半径10m以内に人がいない場所で、立ったまま輪になって何時ものポジションになったところで剣真が話し始めた。
「なあ、みんな。
相談したいことあるんだけど」
「何だよ?改まって?
もしかしてついに告白されたか?」
真っ先に反応したのは原田だった。
「なんでそうなる?・・・いや当たらずも遠からずか・・・
3人共、今から言う事を真面目に聴いてくれ、決して頭おかしくなったわけじゃないからな」
「「「解った」」」
こんな事言ったら絶対おかしいと思われるけど仕方ない。
覚悟を決める。
「俺って・・・・・イケメンか?」
やばい、恥ずい。
「「「・・・・・」」」
「・・・・」
「「・・・・」」
沈黙を破ったのは佐々木だった。
「川田・・・お前・・・それ本気で言ってるのか?」
「・・・ああ、本気で聴いてる」
「お前・・・天然なのか?」
そう言ったのは坂口だ。
「天然?何でそうなる?そんなに俺の言ったこと痛いか?」
3人共にどう言ったらいいか判らなくなっていた為、まず認めさせることから始める事とした。
まだ時間あるしな、それが共通の認識となった。
「まず先に言っとくが、川田お前かなりのイケメンだぞ?
男から見てもそう思う」
原田の言葉に残りの2人が頷く。
「でも俺は女子と昔からあまり喋ったこと無いぞ?
幼馴染の楓とくらいしかまともに喋ってない」
「お前、母親似だろ?イケメン・・・というより美形なんだよな」
「そうそう、女共から間接的に聴いてるぞ、川田に彼女いるのか?って」
「それ、俺も聴かれた、なんか殺意生まれたよ、その時は」
原田・佐々木・坂口から畳み掛けるように言われ放心状態になる剣真。
そんなこと聴いたことねぇ・・・そう思ったのだった。
3人から散々レクチャーを受け昼休みが終わった。
最後に言われたのが
(((廻りに気を配って観察しろ)))であった。
午後の授業が終わり帰るまでの時間、仲間と少し距離を置いて行動することにした。
掃除時間やHR・放課後のちょっとした時間に周りを見渡す。
男子はいつも通りだったが女子と視線が合うことに初めて気づいた。
たまたまだろう、そんな自信過剰だと異物扱いになってしまうから慎重に観察しなければ。
そんな事を考えながら帰る前に3人と合流した。
「どうだった?」
人気の少ない場所で原田から聴かれた。
「意外と女子と目が合った」
「・・・それだけ?」
「うん、それだけ。
特に話しかけられる等イベントは発生してない」
「おまっ!・・・いやそれに気付いただけでいいか。
気になっている男子のポジションであると認識出来ていればいいよ、今日のところは」
3人とも納得しているようだ。
今日のところはこれくらいにしといてやる、みたいなノリだ。
「ところでさ、川田はなんで自分のポジションに気付かない?
お前の両親何回か見たことあるけど、母ちゃんすごく綺麗というか、かわいい人だぞ?
親父さんは少し歳取ってるけど美女と野獣くらいなんだけど」
佐々木が不思議そうに言う。
「ああ、あれは反則だぞ?もしかして継母か?」
それに原田が乗っかってきた。
見たことがない坂口はびっくりして興味深々の様子。
「いや、リアル母さんだけど?
そういえば母さん似だって良く言われるなぁ」
「母ちゃんは何も言わないのか?見た目の事とか。
最近はよく息子を溺愛して彼女とか排除するのもいるだろ?」
少子化で一人っ子が多くなり、溺愛=過保護=私の物という考えの親が増えているのも事実なのだ。
「俺の見た目は何も言わないな、そういえば。
ただ、見た目で人を判断して非難すると・・・逆に怒られる。
その人と交流して判断したらOKなんだけど。
切れると怖いから・・・母さん」
「「「・・・・・」」」
「多分、昔父さんと何かあったんだと思う。
昼行燈みたいな見た目だけど、何か隠し持っているんだよな、チート能力みたいなものを。
上手く説明できないけどさ。
じゃないと30歳くらい差があるのに結婚しないでしょ?
父さんも第一印象で何も言わないし、いつも人には義を貫けって言ってるし」
ここで3人は川田の事を少し理解出来た。
あの親だからこの息子なのかと。
実際、一緒にいる3人はフツメン・・・いやフツメンより下である。
デブではないが、気になる異性の候補に挙がることはないポジションでなので、なぜ川田が一緒にいるのかが不思議であった。
同じ組にはイケメングループもあり黄色い声も飛び交っている場所もあるというのに。
改めていい友人に巡り会えたと感謝するのであった、運命に。
その日の夜、自分の立ち位置を両親に話して意見を求めたところ、友人達と同じ意見であった。
一般的な親が息子にとる行動と違うのは何故?と聴いたところ、
「見た目だけで世間を渡るのは不可能。
内面を磨かないと人は付いてこない、カリスマとはそういうものだ」
と父さん談。
「溺愛してもいいけど、これから出来る剣真の彼女を排除したりしてもいいの?
世間の女性はマザコンを一番に嫌うのよ?
母さんにはお父さんがいるからあなたは自分に合う彼女と友人を見つけなさい。
それとね、見た目は武器にはなると思うけど、結局最後は中身だからね?
天狗になっちゃ駄目よ?」
と母さん談。
今日一日で自分に対して相当な認識改革を迫られることになってしまった。
今度の休み楓ちゃんに相談してみるか、異性のことならやはり同性に聴いたほうが早いだろうから。